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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
中学生編 二年生
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二学期

 夏休み最後の練習試合から一週間が経ち、今日から二学期が始まる。この一週間は部活が休みだったが、宿題をたくさん残していたのでほとんど家で缶詰状態だった。終わってみればこの夏休みも特にイベントらしいことは何もなく、部活だけの寂しい夏休みになった。


 今日は始業式だけで部活は休みなので、一人で部室に向かっている。明日からの練習に備えてバスケットシューズを取りに行こうとしていた。自宅でシューズの紐を新しいものに付け替える為だ。

 誰も居ないと思っていた体育館の中の部室が並んでる通路である人物と出会ってしまう。


「宮瀬君? どうしたの今日部活休みじゃない?」

「えっ⁉︎ さ、笹野さん?」


 予想外の人物に声をかけられて驚いた声を出してしまう。なにか焦っているみたいなので平静を装おうとした。落ち着いて返事をしたつもりだったが、ぎこちない返事になってしまう。


「あぁ、や、休みだよ、ちょっと忘れ物をと、取りに来たんだ……」

「あっ、一緒だね、私も忘れ物があって取りにきたの」


 彼女はいつもと変わらない優しい口調で答えてくれた。


 この彼女が笹野絢子(ささのあやこ)で俺の気になる女の子だ。

 黒髪のショートカットで身長は高くもなく低くもなく少し痩せ型のどちらかといえば可愛らしいという表現が当てはまる女の子だ。女子卓球部で同じ体育館なので部活の時に会うことはあるが、なかなか会話をする機会がない。

 一年生の時に同じクラスだったので以前は話をする機会はあった。しかし本当はそれよりも前から知り合いだった。

 あまり今の仲間達は知らないが、俺は小学生の頃に地域の卓球のクラブに入っていた。笹野はそのクラブのチームメイトであった。幼い頃からどんな球技も難なくこなしていた為、卓球でもそれなりに上達が早くチームの中でも一位・二位を争うぐらいの実力をつけていた。

 笹野に練習を教えてあげたり、試合相手になったりと他のチームメイトより一緒になる機会が多くて、普段も話したりすることも多かった。多分、チームの中でも一番仲が良かったし、実力もあったので周りから冷やかされたりすることもなかった。

 しかし中学に入学後してから同じクラスになり、お互い意識するようになってきたのか気軽に話をすることが減ってきた。

 新入生が部活動を決定する頃に、俺は早々とバスケ部の入部を決めていた。どこでその話を耳にしたのか慌てて笹野が俺の所にやって来た。


「どうしてバスケ部に入部したの? もう卓球は続けないの?」


 笹野は『なんで』といった表情だった。その時は何故そんな顔を笹野がしていたのか分からなかった。俺はバスケ部を選んだ理由を特に考えていなかったが、咄嗟にそれらしい事を答えた。


「今度は個人競技じゃなくて団体競技をしてみたくなったんだ」

「そうなんだ……そうね、背も高いし良いかも……私は卓球部にしたよ……また一緒に練習が出来ると思ってたのに」


 笹野は残念そうな表情だった。


「まぁ、同じ体育館の中の競技だし会うこともあるんじゃないかな……」


 寂しそうな笹野の顔を見て恥ずかしさがあった俺は素っ気ない返事しか出来なかった。その後はクラスで時々話すことがあっても部活動中に会うことは減ってしまい、練習場所も体育館の一階と二階で別々だったので練習姿を見かける機会も無くなってしまった。

 二年になりクラスも別れてしまい、顔を見ることも少なくなってしまった。二人だけで話をするのは久しぶりのことになる。

 笹野は嬉しそうな顔でこの前の試合のことを報告してくれた。


「……夏休みの最後の練習試合は良かったね。途中からだけど試合を見てたんだよ」

「うん、見かけてたから知っているよ。 新チームになってからの初めての試合だったから緊張してなかなか上手くいかないことばかりで大変だったよ」

「そうなんだ……でもたくさんシュート決めてたし、すごく格好良かったよ」


 そう言って照れながら笹野が顔を赤くした。


「あ、ありがとう……」


 俺は思わず声がうわずり顔がにやけそうになる。恥ずかしさからちょっと微妙な間になってしまう。何か言わないといけないと焦っていると、体育館の外から女子卓球部の笹野の友達の声が聞こえてきた。


「絢子まだ終わらないの、先に帰るよ!」

「ごめん、すぐ行くよ」


 慌てて笹野が返事をすが、なにか物足りなさそうな表情をしていた。


「早く行きなよ、待ってるみたいだよ」

「……うん、またね」


 残念そうな顔をして笹野が小さく手を振りながら小走りに出口に向かう。俺は笹野の姿を見ながら手を振っていた。


「またな……」


 笹野には聞こえないぐらいの控えめな声で俺は返事をした。

 そのまま部室に向かいバッシュを取りに部室に入り、笹野との会話を思い出す。試合を見てくれて喜んでいた嬉しさと、なんで気の利いたことが言えなかったのかという悔しさが入り混じっていた。距離が離れて改めて分かったこの気持ち……


(なんで一年の時にもっと話をして近くにいなかったのだろう……でも今日は良かったかな……)


 俺はバッシュを手にして部室から出て、体育館に来た時より軽い足取りでそのまま帰宅した。


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