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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 受験
228/237

卒業を前に ①

 俺の不安な気持ちとは反対に絢は優しく微笑みながらゆっくりと口を開いた。


「もちろんこれまでと変わらない、ちゃんと二人を見守っていたよ」


 絢は当たり前のような表情をしてはっきりとした声で答えた。嘘偽りのない言葉で疑う必要はない。


「……そうだよな」


 絢の答えに素直に頷いた。絢と美影の仲だから変わらずに見守る事が出来るのだろう。二人の仲は俺が思っている以上に固い絆で結ばれている。


「実は、みーちゃんによしくんの事を託されたのは二度目なのよ」

「に、にどめ?」


 絢の言葉に驚いて記憶がないので首を捻った。美影と絢と俺の三人が揃っていたのは、小学校の頃の話に遡る。あの頃も三人仲が良くて、写真も残っているが覚えはない。


「みーちゃんが引っ越しでいなくなる時によしくんが凄く落ち込んでしまって……」

「あぁ……あの時に」


 この事は写真を探していた時に聞かされた。美影がいなくなるので俺が大泣きして大変だったという話だ。俺はあまり記憶に残っていないのだが、あれから絢との仲は更に良くなったのを思い出した。


「うん、あの時にみーちゃんからよしくんの側にいてあげてと言われて、約束したのみーちゃんと」

「……そうなんだ」

「あの頃からみーちゃんはよしくんの事が好きだったけど、私はまだ違っていたの……でも約束を守ってよしくんの側にいるうちにだんだんと好きになって……」


 話している途中で絢が顔を赤くして戸惑ってしまう。絢との記憶を遡り思い出していくと、だんだんと恥ずかしくなってきた。


「うん、俺も……」


 小学校の時は側にいるのが当たり前でまだ好きだとかいう感情はなかった。中学に入ってから少し疎遠になり、それからは好きな気持ちが強くなって中学の後半では一緒にいる機会が増えていった。でも中学の最後は俺のへタレの所為で曖昧なままになる。


「高校は別々だったけど、よしくんと約束したバスケの試合を見るのが唯一、会えるチャンスだったの」

「……ごめんなさい、俺の所為で」

「ううん、でもそのおかげでみーちゃんと再会できたのだからね、ふふふ……」


 絢の笑顔に少しだけ救われたような気がした。でも美影と絢の約束が全ての始まりだったのは初めて知った。もし美影が引っ越しをしなくて、美影と絢が約束をしていなかったら絢と付き合うことはなかったかもしれない。それに絢が美影との約束を守ったから今の俺達がある。絢には長い間待たせてしまった。


「ありがとう、今度は……」

「うん、待ってるよ」


 絢は嬉しそうに微笑んでいる。少し落ち着いたので、コーヒーを飲みながらひと息吐いて店内を見渡す。平日の午前なので高校生らしき姿はあまり見かけない。なんとなく普段の日常と違った感じがする。

 視線を戻すと絢もひと息吐くように店内をゆっくりと眺めていた。今日はいつもと違って雰囲気が違っていたので、会ってからあまり絢の顔をはっきりと見ていなかった。


(髪が伸びたけど、やっぱり絢だよな、うん、間違いない。昔から大好きな絢だよ)


 俺の視線に気が付いた絢は首を傾げて不思議そうな顔をする。絢の顔を見つめながら心の中ではっきりと決意をした。


「卒業式の後は予定とかあるかな?」

「ううん、今のところ予定はないよ」

「じゃあ、予定を空けておいてもらっていいかな……」


 絢は俺の表情から察したのか、ちょっと顔が赤くなり恥ずかしそうに小さく頷いた。曖昧なまま高校生活を終わるのではなく、ちゃんと区切りをつけて次に進もうと決めた。

 絢はまだ恥ずかしさを隠すように目を反らしていたが、嬉しそうな笑顔をしていた。卒業式まで残り少ない、言うべきことは決まっているので慌てることはないけどもちろん不安もある。

 絢の気持ちは分かっているつもりだが、もしかしたら違うかもしれない……そんなことを考えてずっと先に延ばしてしまった。待っていると言ってくれて、目の前で嬉しそうな表情の絢を見てもっと早く言葉で伝えれば良かったと後悔した。


「……ん、どうしたの?」

「い、いや、な、なんでもないよ。そうだ、このあとはどうするの? 何処行きたい所はある?」


 多分、俺はまた難しい顔をしていてのだろう、絢が少し不安そうな表情を浮かべる。せっかくの久しぶりのデートなのだから、もっと楽しそうにしないといけないと頭を切り替えることにした。


「う、うん! えへへ、あのね……」


 笑顔に戻った絢が行きたい所の話を進めた。外に出てからは絢が甘えるようにずっと密着している。いつもと雰囲気の違う絢に俺は動揺したままで、頭で分かっているけどなかなか慣れる事が出来なかった。

 あっという間に時間は過ぎて帰宅時間になった。絢と別れるのは名残惜しいが、これから大学入学までの時間は絢に会う機会がいくらでもある。


「またね……」

「じゃあ、あとで連絡するよ」

「うん!」


 先に絢がバスを降りる。でも今までみたいに寂しそうな表情はない、絢も同じようにいつでも会えると思っているのだろう。

 バスを降りた絢は笑顔で手を振っている。俺も小さく手を振り返した。バスが出発して絢の姿は見えなくなった。俺が降りるバス停までもう少し時間がある。不意に春からのことを想像していた。


(でも大学が始まるとまた会う機会が減るのかな……)


 実際、大学が始まってみないと分からないが平日に会うことは難しいのではないのかとまた新たな不安要素が浮かんできたのだった。

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