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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 受験
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受験シーズン到来 ③

 ちょっと早いけど待ち合わせの場所に到着した。もうすぐ三月になるけどまだまだ空気は冷たいので、吐く息は白い。絢と会うのは半月ぶりだ。夏休みの頃から会う機会が増えたから半月も会わないのは久しぶりのことになる。


(なんでだろう、胸がどきどきする……何か変な感じだな)


 気を抜くと思わずにやけてしまいそうになるぐらい、絢と会うのが楽しみだ。昨日の電話で絢に怒られたが会話の雰囲気からして絢の機嫌は悪くない。とりあえずお互いの受験は終わっているので、これから毎日会うことも出来る。


(楽しみだけど、四月からはまた別々の学校だな……)


 ちょっとだけ気持ちが下がる。


(でも第一志望の合格発表がまだって言っていたけど変だよなぁ……)


 絢が始めに言っていた第一志望の大学の合格発表は終わっているはずだ。


(別の大学も受験したという事か……でも地元であと合格発表が残っているのは俺が受験した大学だけだよな……)


 昨日の会話を思い出しながら、あの時に確認すればよかったと後悔していた。でも俺の受験した大学は絢の志望していた学部はないから可能性はかなり低い。


(……やっぱり別々だよな、そんな上手いこといくはずはない)


 ちょっとだけ期待したがきっぱりとあきらめた。でもどこの大学なのか気になったが、今更聞きのは難しい。


(……もしかしたら以前、聞いていて俺が忘れているのかもしれない。俺から聞くのはやめておこう、いずれ分かるはずだ)


 うんうんと頷き自分の中で納得していた。


「どうしたの?」

「えっ⁉︎」


 突然、聞こえた声に驚き振り返ると絢が笑顔で立っていた。


「ごめんね、待った?」

「ううん、待ってないよ」


 久しぶりに見る笑顔の絢だったけど、どこか雰囲気が違った。なにが違うのかすぐに分からずにじっと絢の顔を見てしまう。


「ど、どうしたの? そんな見つめられると恥ずかしいよ」

「あっ⁉︎ ご、ごめん、でも……」


 絢が照れた表情をしている。でも何がどう違うのか、頭の中でぐるぐると考える。もしちゃんと気が付かなくて絢の機嫌を損ねることになるかもしれない。


(分かった……髪が伸びていつもより大人っぽく見えるんだ!)


 声には出さなかったが思わず心の中で叫んでたしまった。


「ん……よしくん?」


 そんなに長い時間考えていた訳ではないが、会ってすぐに考え込んでしまった俺を絢が覗き込む。絢の変化に気が付いた俺は顔を上げると絢の顔が意外と近いのに驚いた。


「……わっ⁉︎ え、えっと、か、髪が伸びたんだね」

「う、うん、そうなの、入試とかで時間がなくて……似合ってないかな?」


 不安そうな表情をした絢が俺の顔をじっと見て答えを待っている。髪の長い絢を見るのは、多分初めてで、質問に戸惑ってしまった。


「う、うん……いつもより大人っぽくて……」


 どう表現したらいいのか迷いながら答えると絢は驚いた顔をして恥ずかしそうに俯いた。


「ううぅ、そんなことないよ……」


 お互いもじもじして側から見るとおかしなカップルにしか見えない。寒い中で何をやっているのだろうか……少し冷静になる。


「と、とりあえず移動しない?」

「う、うん……そうね」


 絢が腕を絡めるようにぴたりと体を寄せてきた。厚めの服でも絢の体の柔らかさが伝わってきて緊張する。再び動揺している俺とは違い、さっきまで照れていた絢の顔は幸せそうな笑顔に変わっていた。


 待ち合わせ場所からちょっと行った所にあったチェーン店の喫茶店に入ることになった。店内は賑わっていたが二人分の座る場所はあったので注文して商品を受け取り席に着いた。


「お店の中は暖かいね」

「うん……」


 何気ない会話をしながら目の前に絢が笑顔で座っている。これまで何度もあった光景だ。でも何故か今日は違う雰囲気がする。


「ふふふ、どうしたの?」

「えっ、いや、うぅ……」


 改めて絢を前にして顔を眺めると恥ずかしくなってしまった。やっぱり可愛い……何で今日に限ってこんな気持ちになっているのかよく分からない。


「会って話すのは半月ぶりだね」

「そ、そうだね……」


 久しぶりに会うことが出来たのが原因なのかと絢が口にした言葉で納得する事にして、ちょっとだけ落ち着いてきた。大人っぽい雰囲気だったけど、だんだんと会話をしているといつもと変わらない絢の様子に安心してきた。もうあまり抵抗がなくなってきたタイミングで絢が気になることを話し始めた。


「もうすぐ卒業だね……終わってみたらあっという間だったな」

「本当にそうだな」

「違う高校に進学してどうなるかと不安だったけど、こうやってよしくんの側に居られて良かった」


 絢が心底安心した顔をした。俺も相槌を打ちながら微笑んで、絢の本音が聞けた気がして嬉しかった。


「ありがとう……でも絢も不安だったんだ?」

「うん、そうだよ……もしかしたら可愛い彼女を作ったりしないかとかね」

「ははは、そうなんだ……」


 絢が笑顔で話していたが、俺は返事に困ってしまった。実際に美影と付き合っていたから絢の不安は的中していたのだ。どんな顔をすればいいのか困惑してしまう。


「ふふふ、心配しないでいいよ。みーちゃんは別だからね。みーちゃんが彼女でいたから良かったんだよ」


 すぐに俺が微妙な顔をしたのを絢は見逃していなかった。俺は誤魔化すように愛想笑いをしていたが、よくよく考えると美影と絢の手の内だったのかもしれない。


「でも……もし……俺と美影が別れなかったらどうするつもりだったんだ?」


 この質問を聞いていいものか迷ったがどうしても気になった。不安な気持ちで絢の表情を窺っていた。

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