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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 受験
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受験シーズン到来 ②

 一ヶ月はあっという間だった。共通テストや学年末の試験で慌ただしい日々が続いた。


「いよいよ本格的に入試が始まるな……」

「うん、そうだね」


 俺は自転書を押しながら美影と一緒に歩いて下校している。一緒に下校するのは今日が最後になるのだろう。


「でも美影は大変だよなぁ……」

「ふふっ、私の心配してくれるの?」

「…‥だって、県外の大学ばかり受験するのだろう」

「うん、でも自分で決めた事だからね、頑張るしかないよ」

「そうだな、頑張れよ」


 力強く口にする美影に俺はいらない心配だと思って安心した。笑顔で励ましの言葉を口にした俺に美影は逆に心配するような顔で窺う。


「それよりもよしくんは大丈夫なの?」

「ははは……多分、大丈夫だと思うよ」

「……なんか微妙な返事をするわね」

「うん……まぁ、なんとかなるよ!」


 誤魔化すように微妙な笑顔をした。決して自信が無い訳ではないが、余裕があると言えるレベルでもない。まだ入試までもう少し時間があるので気を抜く事なく勉強を続けるしかないのだ。


「そうね、よしくんの事だから何とかなるね!」


 美影は俺の顔を見て優しく笑っている。これまで苦しい時や大変な時に何度も美影の笑顔には助けられた。


「春には皆んな笑顔で会いたいから……」

「うん、そうだね」


 美影が遠くに行ってしまう前にもう一度、三人揃って笑顔で会わないといけない。まだ具体的には受験が終わってからの事は何も決めていないが、俺と美影の関係は卒業式までの約束だけは決まっている。それ以降は三人の関係がどう変化していくのか不安だ。美影は大丈夫だよと言っていたが、絢だって志望の大学が違うので春からどうなるか自信がない。それに俺はまだ絢にきちんと気持ちを伝えていないのだ。


「ん……どうしたの?」

「えっ、いや、ちょっとね……」

「そう……そろそろお別れだね」


 気が付けばいつもの分かれる場所まで来ていた。心なしか美影の声が寂しそうに聞こえる。


「あっ、ご、ごめんな、気が付かなくて」

「ううん、今日はありがとうね」


 俺が深く頭を下げて謝ると美影は大きく横に首を振って小さく微笑んでいる。最後の最後に気遣いが出来なくて悪いことをしたと反省をした。


「うん……」

「もう、そんな顔をしないでよ……そうだ、じゃあ最後に私のお願いを聞いてもらっていいかな?」


 項垂れている俺を慰めようと美影は何か考えついたみたいな表情で微笑んだ。罪滅ぼしではないけど、素直に美影のお願いを聞くことにした。


「いいよ!」

「じゃあ……」


 俺の返事を聞くなり美影は近寄って来て、ギュッと抱きついてきた。一瞬、何事かとびっくりしたが、簡単なハグなんだろうと思っていた。


(あれ……なんか違うぞ)


 思っていたよりも長い時間美影は抱きついている。結構しっかりと抱き締められていて、美影の体温がはっきりと伝わってくる。まるで別れを惜しむかのような感じでだんだんと俺も切ない気持ちになってきた。


(もしかして泣いてるのか?)


 美影の顔を見ることが出来ないのではっきりとは分からないけどそんな気がする。俺からも抱きしめるわけにはいかない……今は美影の頭を優しく撫でることしか出来なかった。


「……ありがとう、よしくん充電が出来たわ」


 ゆっくりと美影の腕の力が緩んで俺からすっと離れる。美影が顔をちゃんと上げないので、表情が読み取れない。反応に迷いながら俺が明るく返事をする。


「なんだよ、それ……」

「ふふっ、最後に頑張る為だよ!」

「そうか、じゃあ、美影は大丈夫だな」

「うん、大丈夫だよ‼︎」


 やっと美影は顔を上げると満開の笑顔になったが、ちょっとだけ涙のあとがあるような気がした。俺は美影の笑顔にほっとすると同時に俺も頑張ろうという気持ちになった。


「じゃあ、頑張れよ!」

「うん、よしくんもね! 次は卒業式前だね」


 お互いしっかりと顔を見て最後は笑顔で別れることが出来た。美影の後ろ姿を見送りながらまだ美影が抱きついた余韻が残っていて少しだけ寂しい気持ちになった。


 俺と絢は地元の私大がメインなので入試は二月中旬に終わってしまう。美影は県外の私大と県外の国立大なので二月の終わりまでだ。

 特に決めていた訳ではないけどその後お互い入試が終わるまで連絡を取り合わなかった。でも入試の前日だけ二人から励ましのメッセージが届いて勇気づけられた。


 二月も半分以上が過ぎて、無事に入試も終わり後は合格発表を待つだけになった。美影はまだ本命の国立大の入試が残っているので気軽に連絡は出来ないが、絢は聞いていた入試の予定は終わっている。


(なんか連絡しづらいなぁ……でもこのまま待っているだけではいけないよな)


 そんな事を考えながらこの数日を過ごしていた。


「あっ⁉︎」


 スマホの着信音が鳴って画面を見ると、部屋の中には俺しかいないが思わず声が出てしまう。慌てて画面をタップする。


「もしもし……」

「……もう、なんでなかなか連絡してくれないの!」


 絢の厳しめな声が聞こえてくる。怒られても仕方がない、言い訳も出来ない。目の前に居るわけではないが深々と頭を下げる。


「ごめんなさい……」

「そういうところだよ、気をつけてね!」

「う、うん、分かったよ……」

「ふふふ、もうそんなに怒ってないから大丈夫だよ。よしくんのことはよく分かっているか落ち込まなくてもいいよ」


 可愛く笑っている声が聞こえてきたので俺は胸を撫で下ろす。絢は普段からあまり怒ることがないので怒った時は怖いということを確信した。これから先、怒らせることがないようにしないといけないと心の中で誓った。


「絢の入試は終わったの?」

「うん、終わったよ。あとは第一志望の合格発表を待つだけだよ。よしくんは?」

「あぁ、俺も一緒だな、とりあえず滑り止めは合格したから」

「……じゃあ、明日の予定は何かある?」

「ううん、特にないよ」

「デートしよ!」


 絢の元気よく明るい声が聞こえてきた。


「うん、いいよ!」


 俺もすぐに返事をすると、絢が嬉しそうに笑っている声が聞こえた。ちょっとモヤっとしていた気持ちがやっとすっきりした。絢の喜んでいる姿がなんとなく目に浮かぶ。早速、明日の待ち合わせ場所を決めて通話を終了した。

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