受験シーズン到来 ①
冬休みはあっという間に終わった。今日から三学期が始まるが、学校に通うのは一月末まで、二月以降は自主登校になる。そして三月一日が卒業式だ。
寒い朝、いつもより早く登校して教室に入るとまだ誰も居なかった。教室はまだ暖房が入ってなくて寒いので丸くなって座っている。
(もう本格的に入試が始まるな……)
正月に三人で買ったお揃いのお守りを眺めていた。初詣に行った後は美影と会っていない。絢は正月明けに再開した予備校で昨日まで毎日会っていた。
(美影との約束もあと一ヶ月だな……)
美影の座っている席を見つめるが、まだ本人は登校していない。
(やっぱり寂しいよな、もう会えないのは……別れたのは間違っていたのかな……)
また余計なことを考え始めていた。自分の気持ちの弱さに情け無くなってくる。気持ちを切り替えようと大きく白い息を吐いた。
「何よ……アンタ新学期早々に大きなため息吐いてるのよ!」
いきなり背後から大仏の声が聞こえてきた。
「な、なんだ……びっくりするだろう」
一瞬、ビックっとしてしまったがすぐに言い返した。
「はぁ、朝イチから湿っぽい姿を見せられたらアタシも気が滅入るでしょう」
「なんで関係あるんだよ……」
「ふん、新しい彼女と会えないから不満なの?」
「えっ⁉︎」
憎まれ口の大仏から出た言葉に椅子から転げ落ちそうになる。すぐに体勢を立て直して大仏を見上げると薄笑いをしてジッと俺を見ていた。
「はぁ……相変わらずね、アンタは……」
呆れたような声で大仏は目の前の席に座った。予想外のことで動揺してしまう。一番分かってしまったら不味い相手だ。
「い、いつから知っていたんだ?」
「う〜ん、二学期の途中からなんとなく怪しいと思っていたけど、ついこの間の初詣の時に見かけて確信したわよ」
「……なんでいつもタイミングよく現れているんだ?」
「知らないわよ、アンタが無防備なんでしょう」
呆れた顔をして大仏が俺を見ている。俺は大きくため息を吐いて項垂れた。あの時は、ただでさえ恵里と会って大変だったのに、大仏までいたとは予想外だった。
「まさか白川もいたのか?」
「うん、由佳も一緒だったけど気が付いていないわよ」
「そうか……絢は問題ないな」
白川に知られいないので少しだけ安心する。もし見つかっていると絢もきっと白川から追及されるかもしれない。それはちょっと可哀想だ。
「でもアンタは幸せ者よね……本当に不思議だわ……」
首を傾げながら呟くように大仏が口にすると俺は何も言い返せずに黙ってしまう。大仏は黙った俺を見てため息を吐き腕組みをしている。
「なんでアンタなんか……」
そう言いかけたタイミングで俺と大仏の間に気配が割って入ってくる。
「ふふふ、あまりいじめないでくれるかな、私の彼氏をね」
パッと見上げると美影がクールな笑顔で側に立っていたが、俺は残念そうな顔をして首を振る。
「あら、バレてしまったのね……」
美影は俺の表情を見てすぐに気が付いた。大仏は俺と美影のやりとりを見て再びため息を吐き美影に問いかけた。
「ねぇ、どうしてそんなにアイツに甘いの?」
「ふふふ、どうしてと言われてもね……」
「山内さんといい、笹野さんといい二人とも甘すぎるわ」
「う〜ん、なんでだろうね……」
「……むぅ」
笑顔で曖昧な言葉で答える美影に大仏は降参した顔をして俺の顔を見ている。
「ふふふ、なんて言えばいいのかな……言葉にするのは難しいわね」
「もういいわ……山内さんと笹野さんにしか分からないことなのね」
「ふふっ、そうね……でも大仏さんも似たようなところがあるんじゃないの?」
俺は美影の言葉に驚いて耳を疑った。大仏に限ってそんなことはないと断言しようとしたが、大仏は予想外の表情をした。
「ははは、そうかもね……アタシの場合は幼馴染の好みだ」
笑いながら答える大仏を美影も微笑み納得した顔で頷いていた。妙に気が合っている美影と大仏の様子を眺めながらどんな顔をすればいいのか分からず迷っていた。
「まぁ、アンタ達がどうなろうとアタシには関係ないけど、やっと決着がつきそうだから良かったじゃない」
困惑している俺に向かって大仏が話しかけてきた。いつもと同じ口振りだけど今日は嫌味には聞こえなかった。なんだかんだで大仏にいろいろと手助けをしてもらっている。
「……あ、ありがとう」
「ふん……」
口にするつもりはなかったのだがなんとなく出てしまう。大仏も照れ隠しなのか鼻で返事をするだけでいつもと違い調子が狂いそうだ。お互いいつもと違う空気になり、居心地が悪くなったのか大仏は立ち上がった。
「ふん、もう少し早く山内さんと友達になっていたらいろいろと面白くなっていたのかもね」
俺の顔を見ながら不敵な笑みをすると自分の席に戻って行った。大仏の後ろ姿見ながら通常通りの言葉に思わず笑ってしまった。
「いつの間に美影は大仏と仲良くなったんだ?」
「ふふっ、私も早くから仲良くなっていたらもっと楽しかったかもね」
「う〜ん、それはちょっと勘弁して欲しいな……」
「そうかな?」
美影は微笑みながら首を傾げていた。今更ながら困ったことを言うなと思ったが、昔の美影からは想像出来ない言葉だった。
「美影は本当に変わったな、この三年で……」
「そうだね、私自身もそう思うよ」
「中学の時みたいに志保の後ろに隠れているような感じだったのに」
「ふふふ、よしくんのおかげだよ。よしくんが私を変えてくれたの……感謝しかないよ‼︎」
美影の言葉に俺は戸惑ってしまう。突然の感謝に何か悪いフラグが立ってしまわないか一瞬不安になる。美影自身は全くそんな気がないだろう、いっぱいの笑顔で俺を見ていた。




