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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 受験
224/237

新しい年の始まり ②

 お守りを購入して二人が戻って来ると、次に絵馬を書こうという話になった。それぞれ絵馬を購入して書き始めた。


(無難に合格祈願だよな……)


 二人とも同じように受験のことを書くと思っていた。最初に書き終えた俺が絵馬を掛けて二人が終わるのを少し離れた場所で待っていた。しばらくすると絢と美影が同時に終わり絵馬を掛けに行く姿が見えた。


「ごめんね、お待たせしました」


 掛け終えた絢が待っていた俺の所にやって来て、再び腕をグイッと組んで引っ張るような仕草をした。


「どうしたの?」

「ほら、よしくんの絵馬を見ないといけないし、私とみーちゃんの絵馬を見ないの?」

「あぁ、そうだな……」


 絢に引っ張られるようにして連れていかれる。自分が書いた絵馬を絢と美影に見られるのは合格祈願しか書いてはいないけど気恥ずかしい。

 絵馬がたくさん掛けてある場所に美影は俺の絵馬を先に見つけたみたいで眺めていた。


「ふふふ、よしくんらしく真面目だね」


 美影は俺が来たのを確認すると笑みを浮かべていた。すぐに絢が美影の隣に行き俺の絵馬を見つめていた。


「うん、本当だね」

「な、なんだよ二人して……」


 納得した顔をした絢に不満そうな声で俺は呟いた。俺はちょっと悔しくて絢と美影の絵馬を探し始めた。


「あっ……」


 元々、そこまでたくさん絵馬が掛けてある訳ではないのですぐに見つけることが出来た。絢と美影の絵馬は隣同士に掛けてある。


「ん……もう何を書いてるんだ……」


 若干呆れたような口調になる。絢と美影が俺に側に寄ってきた。


「ふふふ、いいでしょう!」

「神様に怒られるぞ」


 絵馬の内容を見ると絢は、合格祈願と『よしくんとずっと一緒にいられますように』と書いてある。嬉しいけど目に見える形で一緒にと書かれるとちょっと恥ずかしい。

 美影も同じく合格祈願と『あーちゃんとよしくんと三人で仲良くいられますよに』と書いてある。


「ふふっ、どう私の絵馬?」


 美影も嬉しそうな笑みをしている。俺はどんな顔をしたらいいのか迷ってしまうが何も言わない訳にはいかない。


「あぁ、大丈夫だ。ずっと仲良く出来るよ……」

「うん、そうだね!」


 無難な言葉で答えると美影は安心した顔で笑っている。美影の顔を見ていると俺がどんな反応をするのか不安だったのかもしれない。絢も小さく頷きながら微笑んでいる。絢と美影の絆の強さが垣間見えたような気がした。絢の笑っている顔が見られて俺もほっとしていた。


「そろそろ行こうか」


 なんとなく丸く収まった雰囲気で次の目的地に移動をしようとした。絢はすっと手を俺の手に繋いできて美影は手を繋ぎはしなかったがピタリと寄り添ってきた。まだこの感じには慣れていない。

 少し歩いていると突然声を掛けられる。


「センパイ おめでとうございます!」

「おぅ、おめでとう」


 声の主は恵里だった。勢いに押されるように挨拶をすると絢が驚いたみたいで握っていた手に力が入る。隠そうにも絢の手を振り解く訳にもいかない、恵里の視線が俺と絢の手に行く。


「……あれ⁉︎ どういうことですか?」


 すぐに恵里は俺達の違和感に気が付いた。俺と美影は苦笑いをしているが絢はまだ状況が掴めていないみたいで不思議そうな表情を浮かべている。俺と美影は顔を見合わせる。


「……仕方ないか」

「ふふふ、そうね……」


 恵里は俺と美影の顔を窺いながら思案しているみたいだ。


「この前の球技大会でも仲良さそうにしていたのに……」

「あっ……」


 恵里の言葉に思わず俺が反応して、絢の顔を見てしまう。


「ん……どうしたの? そんなことで怒ったりしないわ。それにその話は聞いているよ」

「えっ、そ、そうなの……」


 絢が少し呆れ気味に笑っていたが、内心かなり慌てて動揺していたが問題なさそうだ。予想外の方向に話が脱線してしまい恵里の様子を気にする。


「……なるほどですね」

「な、何がなるほどなんだ?」


 俺達のやり取りを見て恵里は含み笑いをして、振り返り美影に問いかけた。


「山内先輩はこれで良かったのですか?」

「ふふふ、そうね……私から言い始めた事だから、これで良かったの」

「分かりました。私も笹野先輩で良かったです」

「あらっ、枡田さんにしては潔く認めるのね?」

「ふふっ、私だって空気を読めますよ」


 美影と恵里は目を合わせて微笑みながら何か言いたげな顔で俺を見てくる。二人の視線からあまりいい予感がしないので目線を合わせないようにした。


「もう……」


 視線を逸らしていると、二人は声を合わせてため息のような声を出して再び笑みが溢れていた。


「じゃあ、センパイ! 勉強頑張ってくださいね。それとちゃんと言わないとダメですよ‼︎」


 恵里は真面目な顔で俺に向かって話すと、くるりと体の向きを変えて絢と美影に一礼して一緒に来ていた友達に元に走って戻っていった。俺は大きなお世話だと言いたかったけど、絢と美影が一緒なので黙って見送っていた。美影は笑顔で見送り、絢は少し気不味そうな表情をしていた。


「ふふふ、相変わらず元気のいい後輩だね」

「あぁ、そうだな……」

「もう少し優しくしてあげたら良かったかな?」

「ははは、いいや、甘やかさなくて良かったと思うよ」


 美影にとっても恵里は可愛い後輩だったみたいで意外な言葉だった。笑顔で俺と美影が和やかな雰囲気で会話をしていると絢が強めに手をギュッと握ってきた。ゆっくりと絢の表情を窺うと不満そうな顔をしている。絢がちょっとだけ取り残された感じになっていた。


「もう……あーちゃん、そんな顔をしないの! よしくんの大好きな彼女なんだからダメだよ」


 美影も気が付いたみたいでクスッと笑っている。絢は美影の一言で恥ずかしくなったのか小さく頷いて下を向いた。俺も美影の言葉に驚いて恥ずかしくなった。


「……大好きな彼女って、なんだよ……」

「ふふふ、そうでしょう?」

「……う、うん」

「ふふっ、あーちゃんも顔を上げてよ、よしくんもそう言っているからもっと自信を持っていいからね。私が言うの変だけど……」


 美影は微笑みながら絢を元気づけようとしている。絢はそれに応えて顔を上げた。絢もいろいろと俺と美影の関係を気遣っているのだろう。美影と親友の絢は顔には出していないが俺以上に葛藤があったのかもしれない。

 絢と美影は声で会話をした訳ではないが、お互い顔を見合わせると、絢の表情は和らぎ普段通りにやっと戻った。きっとこの空気は俺には分からない絢と美影だけのものなのだろう。まだまだ俺は美影に頼っているなと反省をした。

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