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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 受験
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新しい年の始まり ①

 翌日、朝から予備校の講義が始まった。もちろん隣の席には絢が座っている。


「昨日はありがとう、私のわがままに付き合ってもらって嬉しいかったよ」

「うん、俺も楽しかったから、また来年も行けたらいいね」

「ふふふ……そうだね、来年も絶対に一緒に行こうね!」


 いっぱいの笑顔で絢が答えるとあまりの可愛さに少し照れてしまった。反対側に座っていた男子がわざとらしい咳をする。俺と絢はハッとして顔でお互いに苦笑いをした。


(来年か……どうしているのかな俺達は……)


 順調にいけば俺と絢は地元に残る予定だが志望している大学は同じではない。絢が志望しているのは女子大なのでこればかりは仕方がない。

 講義が始まり夕方までぎっしりと続いた。最後の追い込みの時期なので内容もかなり濃い講義で終わる頃にはくたくたに疲れていた。さすがに絢も講義が終わった後の帰り道は言葉数が少なかった。

 こんな日が大晦日前まで続いていたが、絢と一緒になんとか乗り切ることが出来て合格への自信になった。


 大晦日の昼過ぎに絢から、元旦に合格祈願を兼ねて初詣で行こうと連絡があった。もちろん俺は二つ返事で引き受けた。

 翌日、去年の夜中に行った地元の神社近くで待ち合わせをしていた。いつも通り俺は約束の時間よりも早く着いていた。天気は良かったが、この時期らしく空気は冷たかった。白い息を吐いてじっと待っていると、約束と違う人物の声がする。


「あれ⁉︎ どうしたの、誰かと待ち合わせ?」

「う、うん……」

「ふふっ、とりあえず、あけましておめでとうございます」

「あっ、あけましておめでとう……」


 目の前に美影が立っている。美影の顔を見るのはクリスマスイブの日以来だ。あの日、別れ際にキスされてなんとなく美影の顔が見れなく気まずい。しかし美影はいつも通りで落ち着いた表情をしている。心なしか機嫌が良さそうな感じだ。


「元気にしていた?」

「うん……美影は?」

「そうねぇ、私も元気だったけど、受験勉強の追い込みで疲れ果てていたわ」


 優しい笑みで美影は普段の学校で会う時と変わらない。いつもなら会話が続くのだが、今日は何を話していいのか分からない。美影の志望校は超難関の大学なのであまりゆっくりとする時間はないはずだ……誰と約束したのだろうか聞いてみようとした。


「あっ、二人とも先に着いていたのね……」


 声が聞こえた方向を見ると絢が少し息を切らせてやって来た。遅刻した訳ではないので愚痴を言うことはないけど、美影の姿をチラッと見て絢に話しかけた。


「……どういうことだ?」

「ふぅ……まずは、あけましておめでとう、よしくん!」


 息を整えた絢は微笑みながら新年の挨拶をしたが、俺の問いには答えていない。俺がムスッとした顔をしていると、美影が間に入ってきた。


「ふふっ、もういいでしょう、よしくん。私もあーちゃんに呼ばれた時点でなんとなく予想は出来たわ」

「そうかもしれないけど……」

「私は嬉しいわよ、あーちゃんにありがとうって言いたいよ」

「俺もイヤな訳じゃないけど……」

「ほら、あーちゃんが悲しそうな顔するでしょう」


 絢は俺の反応が予想外だったみたいで、ちょっと泣きそうな顔をしている。俺は慌てて絢に頭を下げる。


「ご、ごめん。そんなに強く言うつもりじゃなかったんだよ。ちょっと驚いてしまっただけで、絢と二人きりだと思っていたから……」

「……うん、私こそごめんなさい……ちゃんと言えば良かった。ちょっと驚かせようとしたのがいけなかったのね……」


 絢は反省した顔していたが、絢は悪くない。悪いのは俺だ。でもとても本当のことは言えない……美影にキスされたことで動揺していたからだと……もっと堂々としないといけない。

 絢にあんな表情をさせてはダメだと後悔していた。


「仲直りしたかな? うん、大丈夫みたいだね。みんな集まったし、初詣に行こうよ!」


 暗くなりかけた空気を振り払うように美影が明るい声で誘ってきた。美影の声を聞いて絢はやっと笑みを見せてくれた。俺も絢の顔が元に戻ったのを確認して固かった表情が和らいだ。

 三人揃って神社の境内に向かった。ピークは過ぎたみたいだが、まだ人が多くて混雑している。

 お参りする列に三人で並ぶ。絢の機嫌はすっかりと良くなってしっかりと俺と手を繋いでいる。心なしかいつもよりギュッと強く握っているような気がする。


「こうやって並んでいると、去年の事を思い出すね」

「うん、あの時はいろいろとあったよなぁ」


 夜中に行ったのに大仏達がいて隠れたけど、その隠れた所に皓太達がいたりしていい思い出になった。でも結局大仏にはバレていたんだけど……今となってはいい思い出だ。

 列は意外なほど進んであっという間に最前列まで行き、無事にお参りすることが出来た。


「ねぇ、せっかくだから三人でお揃いのお守りを買わない?」


 社務所の前を通りかかった時に美影が俺達に提案してきた。


「うん、いいよ! よしくんもいいよね?」


 絢がすぐ答えて、俺の様子を窺っている。俺が頷くと美影と絢はお守りがある授与所に仲良く向かって行った。俺は後を追って行くと二人がお守りを選んでいるの後ろから見守っていた。


(やっぱり仲がいいよなぁ、良かった……)


 二人の仲を引き裂くようなことにならなかったことに安堵する。でも卒業したら美影は俺とは会わないつもりなのだろうか、志望校は遠く離れている。先の事は特に話をしてはいないが、俺から聞くことではないような気がする。


「よしくん、これでいいかな?」


 美影が俺に選んだお守りを見せてくれる。何故、聞いてきたのが美影だったのか分からない。でも今は美影の方が絢よりも俺の事は詳しいかもしれない。俺が頷くと美影は絢に何か話すとお互い笑顔になっていた。

 二人の笑顔を見て、今はあれこれと詮索せずにただ一緒にいる時間を楽しもうと思った。

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