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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 受験
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冬の灯り ②

 図書館を出ると既に暗くなって空気も冷たい。絢がギュッと体を寄せてきた。


「さっきのお願いなんだけど、今からイルミネーションを見に行かない?」


 甘えるような表情をして絢が俺を見つめている。そんな顔をされると選択肢はひとつしかない。


「うん、いいよ」

「ふふっ、良かった!」


 今日一番の笑顔を絢が見せるので、俺も自然と笑顔になった。体を寄せるだけでなく、今度はギュッと腕を組んできた。腕を組みながら近くのバス停まで移動する。

 お互いコートを着ていたが、絢の感触は充分なくらい伝わってくる。久しぶりに絢が甘えるので恥ずかしくなってきたが、辺りが暗いので絢には分からないだろうと少し安心した。

 暫くするとバスがやって来て乗り込みイルミネーションのある場所に移動した。

 イルミネーションの会場に着く。ここは去年美影と絢の三人で来た場所だ。


「よしくんと二人きりで来るとはあの時は想像もしなかったわ……」

「そうだな……」

「う〜ん、みーちゃんは怒るかな……」


 嬉しそうな顔をしていた絢の顔が曇り歯切れが悪くなる。やはり絢は美影のことが気になるみたいだ。


「大丈夫だよ、学校の帰りに絢と一緒に出かける話をしたし、美影も絢によろしくねって言っていたぐらいだから怒ることなんかないよ」


 俺の言葉を聞いて絢は一瞬安心した顔を見せたが、すぐにしゅんとした顔をしていた。


「あっ、一緒に帰ったんだ、いいなぁ……」

「えっと、あ、う、うん、でもいつもじゃないよ」


 予想外の絢の言葉に焦ってしまい、変な返事をしてしまう。絢の顔は落ち込んだままで顔色が変わる気配がないのでだんだんと不安になる。


「ううん、よしくんは悪くないの……悪いのは私だよ」


 更に絢が落ち込んだ顔をしてだんだんと空気は重たくなってきたのでもっと慌ててしまう。


「な、な、なんで絢がわ、悪いんだよ……」

「……この最近、ずっとよしくんに冷たく当たっていたでしょう。でもよしくんはイラついたり、怒ったりはしなかった」


 絢の言葉にどう反応していいのか迷うが、俺が絢の機嫌が悪いのを気にしているのはちゃんと分かっていたみたいだ。やはり何か原因みたいなことがあるのだけど、それが分からないままだった。


「……やっぱり羨ましかったの、みーちゃんが……夏休みの後もたくさんよしくんとの思い出を作れてね。学祭や体育祭、この前あった球技大会とか……学校行事だから仕方ない事なのだけど」


 絢の顔を見てハッと気がつく。美影は週末以外ほぼ毎日顔を会わせて学校の間はほぼ一緒にいる。でも絢は平日の夜と土曜日の予備校で会うぐらいで、後は何度か図書館で勉強しただけだ。絢の事を勉強以外ではあまり構っていないことに気が付いた。


「……ごめんな、気が利かなくて」


 一緒にいるだけで良いと思っていた。俺は反省して謝るように俯くと絢が全力で首を大きく左右に振って否定をする。


「違うわ、よしくんは悪くないの。そんなことは分かっていた、受験生だから遊んだりする機会がなくて当たり前なのよ。でも私は嫉妬してよしくんに八つ当たりみたいな事をしていた」

「そんな事ないよ……俺だって絢の気持ちに気付いてあげられなかった」


 二人が落ち込んだ顔をして重たい空気が漂っている。俺がもっと早く気が付いていれば絢を不安な気持ちさせる事はなかった。俺が甘えていたんだと再び反省する。


「でも俺はそんな絢の全てをひっくるめて好きなんだよ、だから心配しなくて大丈夫!」


 絢を安心させようと、重たくなった空気を振り払うように俺が切り出す。絢の表情にちょっとだけ変化が出る。


「ほんとうに……こんな私でもいいの?」

「うん、俺の事をずっと好きでいてくれたんだからそれぐらい問題ないよ!」


 恐る恐る絢が問いただすので俺は自信を持って答えた。


「……よかった」


 緊張から解き離れたように絢の顔から笑顔が広がる。やっと重たかった空気が晴れてきた。

 俺達は会場の入り口付近に立っていたので、次々とカップルがやって来るのが見えていた。ここで話しているのは俺達ぐらいだ。


「……そろそろ見て回ろうよ」

「うん、そうだね。せっかく来たのだから楽しもう!」


 俺は絢に手を差し出すと絢もすぐに手を繋いできた。ギュッとお互い握ると会場の中へ歩き始めた。絢は幸せそうな笑顔になっていた。


「綺麗だね……」

「うん……」


 色とりどりの光に包まれた中で絢としっかりと手を繋ぎゆっくりとした時間を過ごしていた。絢は光の中でうっとりとした表情をしてイルミネーションを見ている。

 これまで何度も絢と二人で出かけてきたが、俺は初めてすっきりとした気分で過ごしている。幸せそうな表情をして目の前にある大きなツリーの飾りを眺めている絢の顔を見つめていた。


「ん……どうしたの?」

「えっ⁉︎ あっ、ご、ごめん。つい昔の事を思い出してしまって……」


 絢と二人でイルミネーションを見ているうちに三年前の事を思い出した。ちょうどこの時期に絢を呼び出して告白をし損ねた日で、絢もピンときたみたいだ。


「ふふっ、あの時によしくんがちゃんと告白出来ていたら全然今と違う未来になっていたんだろうね」

「えっ、どうして?」

「だって、もしあの時によしくんと付き合い始めていたらみーちゃんに出会えていないかもしれないし、もしかしたら学校が別々になって自然消滅していたかもしれない」

「ははは……じゃあ、あの時に告白出来なかったのは失敗ではなかったってことか?」

「ふふふ、そうね。少なくとも失敗じゃないわよ。だって今こうやってよしくんと幸せな時間を過ごせているから」


 確かにあの時は凄く落ち込んだし、自分が情けなかった。でも三年後に絢と一緒に手を繋いでいられたので、あの時に告白をし損ねて良かったのかもしれない。

 絢の優しい笑顔に苦い思い出が甘酸っぱい思い出に変わった。


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