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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 受験
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冬の灯り ①

 球技大会が終わってから数日が過ぎて明日で二学期が終了する。

 晩御飯を食べ終わり、部屋に戻って受験勉強を再開しようとしていた時にスマホの着信音が鳴った。画面を見ると絢からのメッセージだった。


『明日のお昼から一緒に勉強をしませんか?』


 学校が終わった後は用事がないので「いいよ」と送る。絢からすぐに返事が送られてきて時間と待ち合わせの場所が既に決まっていた。多分、以前から行く事を決めていたのだろう。

 でも何故、急に明日の約束をしてきたのか気になった。特に球技大会以降は絢の機嫌が良くなくてあまり会話をしていない。


(もしかしてあの球技大会の事を誰かから聞いたのかな……)


 去年も同じような事があったが、今年は状況が違っている。その状況を知っているのはまだ美影と絢しかいないはずだ。それに明後日からは予備校の冬季講習が始まるので毎日絢と顔を合わせる事になる。ご機嫌斜めな絢は慌てるように会わなくてもいいのにと思っていた。


 翌日、学校は終業式とホームルームだけでお昼前には終わった。志保が先に帰ってしまったので、久しぶりに美影と二人で下校している。二学期のあった出来事を思い出しながら楽しく会話して歩いていた。


「そうだ、今日はよしくん予定があるの?」


 もう少しで美影の家の所まで来ていた。


「えっと……絢が図書館で勉強をしようと約束してる」

「そうなの? デートじゃなくて……ん、なんでだろう」

「……でもなんでデートなんだ?」


 俺の問い掛けに美影は驚いた表情をして大きな声を出す。


「えっ⁉︎ 今日はクリスマスイブだよ!」

「……あっ、そうだった」


 珍しく大きな声を出した美影にびっくりして、全く気が付いていなかった俺に衝撃を受けた。メッセージが来た時は絢の機嫌が悪いからどうしようかと悩んでいて、日付の事は全然気にしていなかった。


「もう、大丈夫なの? しっかりしてよ……でも多分、あーちゃんことだから怒ることはないわよ、ふふふ」


 美影はちょっとだけ心配そうな顔をしていたがすぐに気楽な感じで笑っていた。美影と絢の仲だから分かるのかもしれないが、やはり俺の心の中では不安だった。


「でもね、よしくん! やっぱりイベント事は大事にしないといけないよ」


 俺に諭すように美影が見つめている。美影から強い口調ではないが厳しめな言葉を言われる。これまでほとんど美影が予定を組んでくれて、俺はそれに甘えていた。


「そうだな……気をつけます」


 今更ながらに美影の存在感の大きさを痛感して俯きながら返事をした。さすがに気持ちが落ち込み暗い顔になる。


「もう……そんな顔をしないでよ……」

「……うん」


 美影はため息混じりで俺の顔を窺い心配してくれているが、思った以上に動揺してしまっていた。黙ったまま歩き続けて美影の家の近くまでやって来た。普段はこの辺りで美影と別れる。


「……もう、元気を出してよ! 最後に私からクリスマスプレゼント‼︎」


 別れ際に美影は話し出すと、突然俺の顔に近づき軽く柔らかい唇が頬に触れた。


「えっ、な、なに⁉︎」

「ふふっ、じゃあまたね!」


 突然の事で状況を把握出来ずに慌てている俺を見て、美影は笑顔で嬉しそうに走り出していた。俺は美影の後ろ姿を見届けることしか出来なかった。まだ頬には感触が残っている。


(元気が出るどころか、またいろいろと悩んでしまうだろう……)


 美影の姿が見えなくなって、自分に言い聞かせるように気持ちを切り替えた。深呼吸をひとつして時計を見ると余裕がなくなっていた。急いで自転車に乗り慌てて家に帰ることになった。


 待ち合わせ場所はこれまで何度か一緒に勉強をしたことがある図書館だ。予定より家を出るのが遅くなってしまいギリギリの時間になってしまった。やっと待ち合わせの場所に着くと絢は既に一人で待っていた。


「むっ……遅いぞ〜」


 膨れっ面した絢はジッと俺の顔を見ている。頭を何度か下げながら俺が謝ると絢は許してくれた。不機嫌そうな表情が戻り、改めて絢の服装を見ると普段の勉強する雰囲気とは違っている。


(美影の言った通りだな……どうしよう何にも用意していない)


 ちょっとだけお洒落な髪型にして、服装もいつもの予備校で見かける感じとは違い可愛らしい雰囲気だ。それに比べて俺は慌てて家を出たので準備不足が感付かれそうで恥ずかしくなってしまう。


「ん……どうしたの? なんか元気がないよ……もう怒ってないからね」


 口数の少ない俺を気にした絢は不安そうな表情をしている。せっかく絢の機嫌が戻ったのに余計な事を考えさせてはダメだと俺は気持ちを落ち着かせた。


(あとでいろいろと準備不足だったことは素直に謝ろう……)


 気を取り直して表情を和らげる。


「うん、大丈夫だよ。じゃあ、いつもの所に行こう」

「うん!」


 絢が可愛らしく笑顔で頷くのでいつも通りだとほっとする。このところずっと機嫌が良くなかったので、絢の笑顔が見られて嬉しかった。

 時間的に中途半端だったので座席に余裕がなかったので隣り合わせでひっついて座っていた。予備校でも隣に座ることがあるが、今日の絢はいつもよりお洒落をして雰囲気が違い落ち着いていられない。正直言って勉強が頭に入る気がしなかった。

 でも絢が隣にいるのでそわそわした空気を醸し出す訳にはいかないので集中しようと頑張った。勉強をしている間に二回程休憩時間をとって四時間近く過ぎていた。時計を見ると夕方六時を回っていた。


「……そろそろ終わろうか」


 俺が手を止めて絢の様子を窺うと絢は顔を上げて小さく頷いた。


「……ねぇ、ひとつお願いがあるの」


 そう言って上目使いで絢が俺を見ている。何となく予想はしていたが、そんな絢の表情を見せられると「いいよ」としか返事が出来ない。はっきりと言って反則である。

 パッと絢の顔に笑顔が広がる。静かな室内でまだ他にも人がいて勉強中だ。ひとまずここを出てから話を聞くことにした。

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