秋から冬になって ③
ハーフタイムになって座り込むようにして休んでいた。
「……だ、大丈夫?」
心配そうな顔で美影が俺の様子を窺っている。いつもなら美影との距離感は気にはしないのだが試合前に皓太と話したことで意識してしまう。
「う、うん……」
美影は俺の返事に首を傾げて納得していない顔をしている。
「本当に?」
「あぁ……」
「うん、分かったわ。でもひとつだけ、見ていて思ったの。鵜崎君とタイミングが合っていないでしょう。それはね、よしくんがちょっとだけ早いのよ」
「……えっ⁉︎」
美影の言葉を耳にして俺は情け無いと反省をする。美影はちゃんと俺のことを考えてアドバイスをしてくれていた。試合を真剣に見てくれた美影に対して、俺は浮ついた事を考えでいた。
「う〜ん、やっぱり久しぶりだからタイミングがずれてるのだろうね。よしくん達ならすぐに修正出来るはずだよ」
美影は励ますような笑顔を見せてくれる。美影のアドバイスを無駄にしてはいけないと気持ちを切り替えた。
「ありがとう、さっそく試してみるよ。うん、今回は絶対に勝利するから!」
「ふふっ、期待してるよ。頑張ってね!」
俺が笑顔で力強く答えると、美影はいっぱいの笑顔で送り出してくれた。試合前に美影の為に頑張ろうと決めた気持ちは絶対に勝つという目標に変わった。
ハーフタイムが終わり、コートに戻る。皓太には美影のアドバイスは伝えていない、意識すると余計にパスが合わなくなるかもしれない、俺が合わせればいいのだ。開始直後に皓太からゴール下に入ろうとした俺にパスがきた。
(美影の言う通りに………)
ほんの少しだけ走り込むスピードを遅らせると絶妙なタイミングでパスを受けることが出来た。スピードを殺すことなくそのままシュートを決めると周囲から大きな歓声が湧いた。
(なるほど……皓太はいつも通りパスを出していたけど、俺が気負いすぎて焦っていたんだな……)
美影がアドバイスをくれたおかげで原因が分かった。それ以降は皓太からのパスに対して全く違和感なく反応出来て、得点を量産していった。今まで有利だった長山は急に俺と皓太のパスが繋がりシュートが決まり始めて慌てていたが、徐々にあきらめた表情になってきた。
気が付けば得点は逆転しただけでなく大差がついている。残り時間が僅かになってきて、さすがに疲労で足が動かなくなってきた。疲れ切っていた皓太は既に交代して外から試合を見ている。
無理せず後は時間が経つのを待とうと思っていたが、絶妙な位置で最後の最後にパスが回ってきた。目の前には長山が立っている。あきらめ顔をしていた長山は俺の所にパスがきた瞬間に目つきが変わった。
「最後の勝負だな!」
息を吹き返したような顔になった長山が一対一の誘いをかけてきた。俺達以外の敵味方共に足を止めているので、長山の誘いを受けた。俺と長山の真剣勝負に周りから歓声が湧き一気に注目される。
「……行くぞ‼︎」
深呼吸をするみたいに息を吐くとゴール下に向かってドリブルをする。長山はこれまで以上に当たりの強くピッタリと寄せてきて隙がないデフェンスをする。周囲は息を呑むような展開になり静まりかえる。
(さすがだな……でも負ける訳にはいかない!)
意識を集中してフェイントを入れて、ゴール下入ろうとチャンスを窺う。左右にフェイントを掛けて、一度後ろに下がるフェイクを入れる。その瞬間、長山がフェイクに釣られて隙が出来た。一気に抜き去ろうとしたタイミングで美影の声が響いた。
「今だよ‼︎」
声とシンクロしたように俺の体が動き長山を素早く抜き去りゴール下に入って、ジャンプシュートを決めた。再び大きな歓声が起こり、そのまま試合終了になった。
「やっぱり宮瀬はここぞの時は強いな……完敗だ」
長山は笑顔で右手を差し出してきた。俺も同じように右手を差し出す。
「ははは……、そんなことはない、みんなのおかげだ。今まで長山達と一緒にやってこれて楽しかったよ」
長山とガッチリ握手をする。胸の中で俺はチームメイトに恵まれたと感謝していた。
試合後の挨拶が終わると皓太が駆け寄り握手をしてハグをしているとクラスメイトの男子もやって来て揉みくちゃになった。
一通りみんなに応援ありがとうと言葉を交わしてコートの外に出ると、美影が優しく微笑み待っていた。
「お疲れ様、最後、凄かったね!」
「あぁ……でも、よくあのタイミングが分かったな」
「ふふっ、ずっと側でよしくんがバスケをする姿を見てきたから当然だよ‼︎」
これまでの中で一番の笑顔で嬉しそうに美影が答える。その時の美影に笑顔に今までの思い出が一気に巡ってきて気持ちが昂る。
「これまで本当に、ありがとう……」
溢れんばかりの気持ちで気が付けば美影に優しく抱きつき、囁くように伝えていた。美影は一瞬、驚いていたが、すぐに落ち着いてギュッと手を回してきた。
「ううん、私こそわがままばかり言って、今までありがとうね……大好きだよ……」
美影が耳元で優しい声で囁くと、スッと力が抜けて肩の荷が降りたような感覚になった。美影も自然体のような雰囲気で二人だけの空間になっていた。包み込むように抱きついた俺は、これで美影を頼るのは最後だと感じた。
「お〜い、宮瀬……お楽しみのところ悪いが……」
背後から申し訳なさそうに皓太の声が聞こえた。声に気が付きハッと見渡すと周囲いるクラスメイトが注目している。現実に引き戻された俺は慌てて美影から離れると、お互いに顔を見合わせて真っ赤になり照れた表情で笑っていた。周りのみんなも笑顔で和やかな雰囲気で迎えてくれて無事に球技大会を終えることが出来た。




