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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 受験
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夏が終わって ③

 怪しげな雰囲気になってきた。空気を変えようにも話題が思い付かない。早く講義が始まる時間にならないか焦る。


「……別の女の子の気配がする」


 すごく怪しんでいる絢が目を逸らすことなくじっと見ている。絢の視線に慌ててそんなことはない身振り手振りで否定をする。変に慌てしまうと余計に怪しまれるのではと思っていると、絢はため息混じりで大きく息を吐く。


「ふぅ……もうそんなに動揺しなくてもいいよ」

「……えっ⁉︎」


 呆気にとられた俺は体の力が抜けたような感じなる。


「みーちゃんでしょう、犯人は……」


 若干呆れたような表情をして絢が笑み見せる。俺はなんで分かったのか理解出来なくて動きが止まってしまう。


「今日は学校でずっとみーちゃんと一緒にいたのでしょう。ふふふ……それもぴったりとくっつくぐらいにね」

「う、うん……」


 まるで今日の出来事を見ていてたかのように絢が笑いながら話す。絢の笑顔を見てやっと安心をした。機嫌が元に戻ったところで講義がちょうど始まろうとしていた。

 なんとか落ち着いて良かったが、もし美影以外の女の子だったらかなり危険だったと認識した。普段クールな美影とは違って絢は感情が顔に出るタイプなので、今日の反応はしてやられた気がした。

 三時間程あった講義が終わり帰る準備をしていた。次に絢に会うのは週末のこの予備校での講義がある日だ。


「ねぇ、よしくん……」

「ん……どうしたの?」


 講義が始まる前の続きの話だろうと片付けをしていた手を止めた。


「明日も……みーちゃんと一緒だよね」

「あぁ、同じクラスだからな、おまけに今は隣の席だよ」

「やっぱり羨ましいな……う〜ん、あの事はやっぱり断っておけばよかったかな……」


 寂しげな顔をして小さな声で独り言のように絢が口にする。なにか後悔したかのような口調だった。


「……なんだあの事って?」


 絢の発した言葉はなんとなく察しはついた。思わず声に出してしまったのは良くなかった。俺の言葉に絢は驚いた顔をして、我に返ったみたいだ。


「ダメだよね、そんな事を言っては……みーちゃんの気持ちは痛いほど分かるから……ただ立ち位置が変わっただけで、私だけ独占したらダメだよ……」


 自分に言い聞かせるように絢は強い口調だった。絢の言葉を聞いた俺は反省をした。やはり美影との約束は断るべきだった。でもあの時の美影の表情をされたら断ることは不可能だ。


「お願いよ、みーちゃんには優しくしてあげてね!」

「あぁ……」


 悩ましそうな表情をしていた絢は納得した顔に変わって俺をじっと見つめている。絢の視線に俺は頷くことしか出来なかった。なんとなく二人の間に重たい空気が漂ってしまう。


「ふふふ、よしくんは悪くないから、そんな難しい顔をしないでよ。せっかくの二人の時間なんだからね」


 重たい空気を振り払うように絢は優しい笑顔を見せる。絢の優しさが突き刺さる。まだ俺は絢にきちんと気持ちを伝えていない、これ以上絢を心配させてはいけないと気持ちを切り替え顔を上げた。


「……うん、そうだな二人の時間を大切にしないといけないな」


 暗いままではダメだと明るめな声で答えて頷いた。気が付けば静かになったなと教室を見渡すと数人しか残っていなかった。俺と絢は慌てて片付けを終わらせて教室を出た。

 もう少し絢と話をしたかったが、時間も遅いのであきらめて今度はゆっくり話そうと伝えて今日は別れた。


 翌日、学校に行くと朝イチに美影が謝罪してきた。


「昨日はごめんね……ちょっとやり過ぎたみたいで……」

「ううん、いいよ……みーちゃんには優しくしてねと絢に言われたから大丈夫だよ」

「う、うん……でも本当にあーちゃんは怒ってなかった?」


 美影は不安そうな顔している。昨日の晩に絢からどんな話をされたのか気になったが、絢のことだから絶対に美影に対して不満を言ってはいないはずだ。きっと昨日絢が言っていたことを話したのだろう。

 察しのいい美影のことだから絢の言葉が気になって俺に謝ってきたに違いない。不安な美影を安心させてあげたいが、気が緩んで昨日みたいに甘えられても困ってしまう。男としては嫌ではないが、俺の立場上昨日のように美影に迫られると複雑な気持ちになる。


「心配しなくても大丈夫だ……でもさすがに昨日みたいなのはもう勘弁してくれよ」


 しゅんとしていた美影は絢が怒っていないのが分かったみたいでほっとした顔をした。俺も美影の表情を見て一安心する。


「うん、分かった。じゃあ……もう少し控えめだったらいいかな、週一ぐらい、ふふっ」


 安心したのも束の間、美影はもう小悪魔みたいな笑顔をして俺を見ている。慌てて首を振って、俺はダメだとアピールをした。


「ふふふ、冗談だよ……でも本当に疲れた時は頼ってもいいかな?」


 笑っていた美影は少し自信なさげな表情に変わり俺の顔を窺っている。これは美影の本音なのだろう。そんな顔をされるとやはり断れない。


「……うん、卒業までの約束だからその時は頼ってもらっていいよ」

「ありがとう……やっぱりよしくんのことは大好きだよ」


 嬉しそうに頷いた美影だったけど、どこか寂しそうに見えた。美影の表情に胸が締めつけられる感覚になる。


(絢と美影の仲を悪くする訳にはいかない、俺がもっとしっかりと気持ちを持っていないとダメだ)


 約束通り学校では、卒業するまで彼氏をやり遂げようと決めた。俺自身の気持ちがしっかりとしていれば、絢を不安にさせる事はないはずだ。

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