表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 受験
209/237

ひとりぼっちの夏休み ①

 美影の決断は本物だった。学校ではこれまで通りちゃんと彼女として接してくれた。しかし学校が終わると関わりを断つようになった。今までは部活があったので、放課後もほぼ毎日、美影が側にいてそれが当たり前だった。


(なんか心に大きな穴が開いたみたいだな……)


 別れ話をしてから一週間が過ぎていたが絢とはまだ連絡を取っていない。正直、なんて言っていいのか分からない。そもそも絢はこの事を知っているのだろうか、それさえ分からない。あと数日で夏休みだ。


(誰にも相談出来ないよな……どうすればいいのか)


 さすがに学校で美影に相談する訳にもいかない。もちろん学校が終わった後に連絡するのも美影に迷惑がかかる。やはり自分の力で解決するしかない。

 悩んでいるうちに夏休みなってしまい、美影に会う機会が全くなくなってしまった。学校がある間は、まだ美影に会うことが出来たから多少心が癒されるところがあった。でも夏休み入って、一日経ち、二日経ってだんだんと気持ちに余裕がなくなってきた。三日目にはかなり気が滅入ってきて落ち着かない。


(……もう絢に連絡しようかな)


 もう少しで絢に連絡しようとしたところで手が止まる。


(ダメだ……なんて話をするんだ。もう俺には後がないいんだぞ……)


 結局、絢には連絡出来ず、もちろん美影にも連絡は出来ない……とまた頭を悩ましているとあることを思い出した。


(合宿のOB戦があるじゃないか、その日に美影に会うことが出来る)


 試合は昼過ぎから夕方過ぎまであるので時間には余裕がある。試合の日は月末で残りの日にちはあまりない。ひとまずそこまではなんとか頑張っていこうと決めた。

 期待していた試合の日は思っていた以上にあっという間にやって来た。それまであまり受験勉強には身が入っていなかった。受験生としてはかなりヤバい状態だが、これが解決しないと如何にもこうにもいかないのが実情だ。

 久しぶりの体育館、若干興奮気味に扉を開ける。


「おっ、宮瀬! 久しぶりだな」


 皓太が元気よく声をかけてきた。俺も一応返事をしたがほとんど受け流してしまい、皓太は少し不機嫌そうになった。そんな皓太に構っている場合ではない。急いで集まっているメンバーを見渡す。


「あっ、由規じゃん、久しぶり……ん、どうしたの? キョロキョロして」


 振り返ると志保の姿があったが、横には美影の姿はない。志保は挙動不審な俺の顔を見て笑っている。すぐに真顔で俺は志保に問いただす。


「美影の姿が見えないけど、どうしたの?」


 真剣な俺を見て笑っていた志保は怪訝そうな顔に変わる。


「何言ってるの? 前から美影が言ってたじゃないの、模試があるから参加出来ないって……」

「……⁉︎ あぁ、そうだったな、悪い忘れていた……ははは」


 志保の呆れた感じの返事に思わず焦ってしまう。咄嗟に笑って誤魔化したが、志保は疑ったままの表情で俺の様子を窺う。このままだといろいろと追及されてヤバいことになりそうだ。


「ちょ、ちょと練習に参加してくるか!」


 逃げるように長山達が軽くボールを使って練習している所に移動した。


(模試か……まさかこんな日に……)


 美影の夏休みの予定は全く知らない。美影は教えてくれなかったし聞くに聞けなかった。通っている予備校は知っているけど、さすがに調べてまで出来ない……それだとほとんどストーカーだ。

 ガックリと肩を落とすが、下手に落ち込んだ態度をしていると志保に疑われてしまう。志保の様子だと美影は全く話をしていないのだろう。余計に見つかってしまっては厄介だ。


(……更にややこしくなってしまう。今日は無理にでも普段通りに振る舞おう……)


 俺は腹を括り、帰るまで皆んな輪に入って明るく振る舞った。試合はさすがに体力が落ちていたので全くいいところがなく最悪の出来だった。怪我をしなかっただけども良かった。志保にはずっと疑われていたがなんとかやり過ごすことが出来た。


 帰宅してからは地獄だった。


(完全に詰んでしまった……どうしよう)


 心が折れてしまいそうだ。結局、何も解決出来なかった。おまけに明日からは予備校の集中講義が二週間近くある。このままだと受験勉強もピンチだ。


(最悪の夏休みだ……)


 自分のことなのに、俺一人では何も解決出来ない。このまま引き篭もりたい……だんだんと暗い陰湿な気持ちになってきた。

 しかし翌日、朝から叩き起こされる。予備校の初日……行きたくない、このまま部屋の中に篭りたいと願っていたが、当たり前のように家から追い出されて予備校に行くことになった。つくづく自分のメンタルの弱さに嫌になる。


(こんな状況で行きたくないな……)


 夏休みになって暑いので用事がない限り外出はしていなかった。これまで用事もひとりぼっちなのでほとんどなかった。予備校に行く為に人混みに出るのは久しぶりだった。


(うわ〜、こんな暑いのかよ)


 声には出さなかったが、愚痴りたくなる。なんとか予備校に着くと空調が効いて涼しかったが、人は多かった。受験生にとっては勝負に夏だから仕方ない。


(美影もきっと頑張っているんだろうな……)


 周りの活気にちょっとだけやる気になった。講義のある教室に入ると、ほぼ満員に近い状況で空いている席がなかった。後方の席がちょうど空いていたので座ったが、周りは全然知らない人ばかりだった。


(まぁ、そうだよな、この辺りのいろんな学校の人が来てるのだから)


 テキストとノートを鞄から出して準備をする。まだ講義は始まらない、顔を上げて少し前方を窺う。たまたま目に入ったのが、何となく見覚えのある後ろ姿だった。


(まさか……こんな所で?)


 気になって確認をしようとしたが、手前の席が埋まってしまい姿が見えなくなってしまう。


(これだけ人がいるのだから同じ背格好の女子がいても不思議じゃない)


 俺の状況は病んでいるから似てるように見えるんだろう。そんなに上手い話があるものかとその日は顔を確認しなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ