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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 部活引退
204/237

最後の大会 ⑤

 インターバルが終わり、第四Qが始まろうとしていた。


「よく最後に決めたな、でもあと一本が取れない」


 試合再会前に皓太が呟きながら俺の隣に来た。この後の攻撃をどうやっていくのか悩んでいる顔をしていた。


「そうだな……なんとか早い時間に追いつきたいけど」


 俺も何かいい策がある訳ではない。皓太からの返答を聞く前に試合が再開された。

 二点差で始まった第四Qは取られたら取り返す展開で依然として差が縮まらない。お互いのチームともかなり疲れが見えてきた。俺自身もあと一歩が足が出なくなってきていた。


(さすがに限界かな……あと一本なんだけど)


 残り時間が僅かになってきて、少しあきらめかけていた。皓太や長山も必死にデフェンスをしているが、相手のシュートを止めることが出来ない。相手チームも俺達のオフェンスを止められないので差は開かないけど縮まらないままだ。

 時間が過ぎていき得点差は二点、残り時間は三十秒を切っている。もうこのワンプレーで相手にボールが渡るとそのまま終わってしまう。

 俺はゴール下の角度がない所にいた。ピタリとマークがついているが、皓太からパスが回ってきた。


(ここで俺に……ん、シュートを打て?)


 パスを出した皓太は目で訴えていて、時間は既に十秒を切ろうとしている。

 この位置では決めても同点にしかならない、チームの疲労からすると延長になると俺達が不利だ。後ろに下がり、スリーポイントのラインを超える。相手のマークが少し緩む。角度のない位置でのスリーポイントなので少し油断したのかもしれない。


(……ほぼフリーだ、これならいける!)


 俺は迷う事なく最後の力を振り絞りシュートを放った。もともとスリーポイントシュートは苦手だった、この試合は一本しか決めていない。

 しかし俺はシュートを打ったそのままのフォームで右手を拳に変えた。ボールは綺麗に弧を描きゆっくりとリングに吸い込まれる。時間にすれば数秒なのだが、俺にはすごくスローモーションのように感じた。ボールが床に落ちたタイミングで試合終了のブザーが鳴る。

 一点差の逆転勝利だ。チームメイトが駆け寄ってきて、ベンチの控えのメンバーも飛び上がっている。俺は余韻に浸るようにそのまま立ち続けていた。


「やったな! ホント宮瀬は美味しいところを持っていくよな……」


 試合後の挨拶も終わり後片付けをしていると、皓太が疲れた表情で話しかけてきた。


「シュートを打てって言ったのは皓太だろう?」

「……あぁ、もうあそこで打つしかなかったからな、宮瀬なら決めてくれると信じていたから……」

「でも決まって良かった……」

「よく言うよ、自信があっただろう……あれだけ綺麗なシュートフォームで打てば決まるさ」


 鼻で笑いながら皓太が俺の顔を覗き込む。皓太の言う通りに自分でもあれだけ自信を持って打ったシュートは試合の中で初めてかもしれない。

 荷物を纏めて移動をし始めた。この後に今度の準々決勝で当たる相手チームの試合があるので、観戦する予定だ。美影も片付けが終わり荷物を纏めて俺の所にやって来た。みんなからの手厚い祝福があったので一人遅くなってしまった。


「お疲れ様。本当に良かったね!」

「おぅ、ありがとう……」


 美影は笑顔いっぱいのご機嫌な様子だ。美影も試合中にマネージャーの仕事とその後の片付けとかで疲れているに違いないが、それを忘れそうなぐらい嬉しそうだ。


「これまでと違って……ん……なんて言うか、惚れ惚れするようなシュートだったね」

「えっと、そ、そう……」


 美影の言葉に少し気恥ずかしくなり思わず声が詰まってしまう。今まではどちらかと言うとここぞという時にがむしゃらな感じで決めてきた。今回のようなパターンは初めてだ。


「いっぱい練習したから、その成果だね!」

「あぁ、そうだな、美影にはいっぱい手伝ってもらったから決めることが出来たんだよ」


 今年になって練習で相当な数のスリーポイントシュートを打った。全体の練習が終わった後に残って練習をした。美影はその居残り練習や早朝と昼休みの練習にほとんど付き合ってくれた。


「そんなことない、よしくんの努力の成果だよ……でも私も凄く嬉しい!」


 美影の笑顔を見ると頑張って練習してきた甲斐があったと俺も嬉しくなる。まだ次もあるのでまた明日からの練習を頑張ろうという気持ちになった。

 美影と一緒に観客席へ移動していると入れ替わるように絢と出会った。絢は俺に会う為に探し回っていたようだ。


「やっと会えた……もう今日は会えないかと」

「わ、悪いな。みんなからいろいろと言われていたから移動が遅くなったんだ」

「そう……そうね、最後のシュート、凄く良かったよ。私が見てきた中でも一番のシュートだったわ。本当にかっこよかったよ!」

「あ、ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ」


 いつもと違う雰囲気で絢に褒められたので、少し違和感があった。でもバスケの経験者じゃない絢が長い間俺の試合を見続けて、「一番のシュート」と言ってくれるは素直に嬉しかった。


「きっとたくさん練習してきたんだろうなって……これまで試合は見てきたけど、普段の練習を見ることも一緒に練習を手伝うことも出来なかったから……私は試合の時に応援するだけで全然よしくんの力になれなかったから、私の言葉で喜んでくれたら嬉しいよ」

「そんなことない。絢からたくさんの声援をもらったおかげでここまでこれたんだから、力になれなかったことはないよ」


 絢が少し涙目になる。最後の大会なのでいろいろな感情が入り混じるのだろう。俺がこれまで頑張ってこれたのは絢の存在もある。美影と絢の二人がいなければここまで続けてこれなかったに違いない。


「あっ、悪い……呼んでるみたいだから行くよ」

「うん、また次の試合にね」


 絢は残念そうな表情をしている。俺が移動しようとすると、隣にいた美影は入れ替わるように絢と話し始めた。その後、何を話したのか分からなかったが暫く美影は戻ってこなかった。

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