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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 部活引退
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最後の大会 ④

 翌日、疲れは多少残っているけど気にする程ではない。今日は勝っても負けても一試合しかないので全力で挑むだけだ。相手は優勝経験もある強豪校でこれまで何度か対戦したが勝ったことはない。やはり試合前は皆んな緊張の面持ちだ。その中でも一人余裕のある顔をしたチームメイトがいた。


「相変わらずだな、こんな時は皓太が羨ましいよ」


 皓太はボールを指で回しながらリラックスしている。


「そうかな、俺だって緊張しているぞ」


 笑みを浮かべて俺の顔を見るながらボールを回し続けている。


「いや、全然見えないな」

「まぁ、勝てる時は勝てるし、負ける時は負ける。緊張したって同じ、普段通りに臨めばいいんだよ」

「ん……よく分からんけど力むなよってことか?」

「そんな感じだ」


 なんともよく分からん答えただったが、皓太らしい気がした。長山も若干ガチガチだったが、俺が背中をバシッと叩いてやると驚いた顔をしていた。一瞬、ムッとした顔をしていたが力が入り過ぎているのに気が付いたのかいつもの顔に戻っている。


(大丈夫そうだな、キャプテンが浮き足立っていたら勝てないからな)


 中学の時と違い自分がキャプテンではないからこんな時は冷静に自分のことを考えることが出来る。もちろんチームのことを考えていない訳ではないが、比重が違ってくる。

 美影は淡々と試合前の準備をしていてやはり頼りになる。観客席に目を向けると最前列に立っている絢はすでに応援する体勢になっている。


(本当に最後の最後まで応援に来ているな……いや、まだ最後じゃないよな)


 絢には頭が上がらない、ちゃんと約束を果たそうとしている。再会した頃はもう来ないとか言って喧嘩別れみたいになったりした。それでも応援に来てくれた。それに絢の彼氏でもないのにずっと応援に来てくれたのは感謝でしかない。

 この頃は絢に対して少し素気ない態度をしていたので罪悪感がある。俺は絢に向けて小さく手を振るとすぐに気が付いて、嬉しそうな表情で手を大きく振り返してきた。


(……もう恥ずかしさとかない。初めの頃は隠れるように見ていたのに、今は堂々と手前から見てるからな……)


 一年前の頃を思い出して笑いそうになった。絢の笑顔を見て緊張感も程良い感じになった。

 いよいよ試合開始になった。先に点を取ってチームに勢いを付けたかったが、さすがに上手くはいかない。最初は相手チームにボールが渡りデフェンスについた。昨日の二試合とは違い、オフェンス力はかなり強力だ。先制点を許して、エンドからパスを出そうとするがなかなかのプレッシャーだった。


(……かなり厳しい試合になるな)


 ボールはガードの皓太に渡る。相手チームは手前から強く当たってきたが、皓太も負けてはいなかった。あっさりとマークを外して前に進んでいく。


「いいぞ、皓太!」


 俺もゴール下に入ろうと走り込もうとしたが、ピタリとマークが付く。皓太からパスがくるとマークが増える。


「……ダブルチームかよ」


 これだと昨日の試合のようにいかない、さすがに無理だ。でも俺に二人がつくということは誰かが空いているはずだ……ボールを素早く皓太に戻すとすぐに反応して長山にパスを折り返すと落ち着いて長山はシュートを決めた。


「ポイントゲッターの宮瀬を完全に抑えるつもりだな、チームに勢いをつけさせないようにする為に」


 皓太が呟きながらデフェンスの体勢に入る。


「そうだな……」

「でも俺達のチームは宮瀬だけじゃないこと思い知れせてやるよ!」

「おぉ、さすが皓太だな」

「この試合、宮瀬にはしっかりと囮になってもらうぞ」

「分かった、頼んだぞ!」


 皓太は不敵な笑みを浮かべる。俺も慌てることなくデフェンスにつく。こう言った時は皓太は頼りになる存在だ。これまでも俺が逆転のシュートや試合の流れを変えるようなシュートを決めてこれたのは皓太のお膳立てがあったからだ。中学の時に皓太と一緒に部活が出来ていたら絶対に上位まで勝ち進めたに違いない。

 相手チームのオフェンスはしっかりとしてミスが少なくて着実に得点をあげていく。しかし俺達のチームも負けずに点を取り返す。皓太は言った通りに俺を囮に使い、長山と二年のフォワードで得点をあげていった。普段はセンターの長山を使い俺が点を取ることが多い。今日は完全に逆のパターンで長山が決めている。


 ハーフタイムになり、得点差は三点でリードされている。


「凄いね、よしくん」


 意外そうな顔をして美影がタオルとドリンクを持ってきてくれた。


「ん……なんでだ?」

「今日のデフェンスはこれまでの試合で一番だよ!」


 少し興奮気味に美影が話すので驚いた。デフェンスを褒められるのは初めてかもしれない。でも確かにこの試合は点を取れない代わりにデフェンスに力を注いでいる。そのおかげでなのかなんとかこの点差に抑えている。


「ありがとう……」


 ちょっとだけ恥ずかしそうに答えると美影は嬉しそうな顔をした。


「大変だろうけど、頑張ってね。そして最後には勝って笑おうね!」

「もちろんだ!」


 俺が大きく頷くと美影も同じよう笑顔で頷いた。美影はマネージャーの仕事に戻る。俺は深く座り、タオルで汗を拭きドリンクを飲んで休息をとった。


(デフェンスもかなりしんどいな……でもチームの雰囲気もいいしチャンスはどこかであるだろう)


 後半の第三Qが始まる。やはり前半戦と同様に俺のマークは厳しいままだ。簡単には点を取らせてくれそうにない。第三Qも同じような試合展開が続いてなかなか点差が縮まらない。体力的にもしんどくなってきた。


(ここで終わる訳にはいかない……)


 第三Qの終わる直前、ゴールの手前でパスをもらうと二人がマークに来た。相手もさすがに疲れが見える。デフェンスの間を抜く為に、フェイクを入れて上手いこと一人かわすと、もう一人がデフェンスの詰めが甘かった。その隙に抜き去りシュートを決めるとそのまま終了のブザーが鳴った。これで点差は二点差になった。

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