それぞれの気持ち ②
【美影の視点】
目的地の公園に到着した。公園と言っても小さな遊園地があったり、動物園みたいな所もあって、かなり広いので移動はレンタルサイクルになる。
「一緒に自転車に乗るのは初めてだね‼︎」
私は久しぶりに自転車に乗るので少しはしゃぎ気味だ。あーちゃんとよしくんも乗る準備をしている。よしくんは普段自転車通学だから慣れているみたいだけど、あーちゃんも久しぶりに乗るみたいで焦っていた。
「あーちゃん、大丈夫そう?」
「うん、多分……みーちゃんは?」
ちょっと不安そうな顔をしたあーちゃんはゆっくりと自転車をこぎ始めている。もともとあーちゃんも自転車で通学していたので問題ないみたい。
「美影は運動神経がいいから大丈夫だろう」
笑顔でよしくんが自信持って言い切る。本当は不安だったけどよしくんに言われて平気な顔をしている。ゆっくりと自転車をこぎ始めると最初に少しふらついたけどすぐに安定させることが出来た。
「ふふっ、心配に及びません」
ちょっとだけ強気に答えると、よしくんとみーちゃんが私を見て感心した表情をする。でも内心はほっとしていた。
「じゃあ、そろそろ出発するか!」
よしくんが掛け声をかけると私とあーちゃんは頷いてゆっくりと自転車をこぎ始めた。私が先頭であーちゃん、よしくんの順番で進む。
最初は動物のいるエリアに向かう。目的はカピパラに会う為で、どうしても最初に行きたいと私のわがままにあーちゃんとよしくんは快諾してくれた。平坦な道がほとんどだけど、ちょっとした登り坂や下り坂もある。
「おーい。美影、大丈夫か? 急がなくてもいいぞ、ゆっくりで……」
その都度よしくんが心配して声をかけてくれる。そんな小さな優しさがすごく嬉しい。
「心配し過ぎだよ。ふふっ、みーちゃんは愛されてるね」
「もう……」
あーちゃんが笑いながら背後からからかうので、少しムッとする。そんなあーちゃんも時々ふらついてよしくんに心配されていた。
なんとか無事に動物エリアに到着した。駐輪場に自転車を止めると歩いてエリアの中に入る。よしくんはいつも以上に私に気をつかうように真っ先に荷物を持ってくれたり、隣にいてくれる。どちらかと言うとあーちゃんと距離を取るような感じに見える。
「早く行こう!」
あまり二人を観察ばかりしていると疑われるので、少しはしゃぎ気味に声を出してよしくんに手を差し出した。どんな反応するのかと思ったけど、あっさりと私の手を繋いだ。あーちゃんも特に変わった反応はなく、笑顔で見守っている。
「そんなに慌てなくても逃げないぞ!」
そう言ってよしくんはぎゅっと手を握ってくれた。あーちゃんが見ている中でちょっとだけ恥ずかしくなる。二人の反応を試したみたいで反省をした。
その後もよしくんはいつもと変わらず私の隣にいる。もちろんあーちゃんにも普段と変わらない雰囲気で会話をしていた。不満がある訳ではない、私の彼氏としては全く問題ない。
動物エリアで私の目的だったカピパラには無事に会うことが出来た。写真もいっぱい撮ってもらったし、三人で一緒に撮ることも出来たので満足した。
時間的にもお昼を過ぎた頃だったので、芝生の広場でお弁当を食べることになって再び自転車で移動をした。
広い芝生の中でちょうどいい木陰があったので、そこで食べることにした。三人で手分けして準備をしたのであっという間に整うことが出来た。
「じゃあ、食べようか」
私とあーちゃんが作ったお弁当を広げて食べ始める。よしくんは初めに私が作った弁当のおかずをお皿によそって食べる。二、三口食べ終えるとよしくんは私の顔を窺う。
「うん、美味しいよ。さすが美影だな……」
「ふふっ、ありがとう。よしくんの好みの味付けも把握しているからね」
よしくんの胃袋はほぼ完璧に掴んだ気はする。学校が休みの練習日に何度もお弁当を作ってきた。あーちゃんも料理は上手だけど、これだけは多分負けないと思う。満足そうな顔でよしくんはお弁当を食べている。
「絢の作ったお弁当も美味しいよ。まぁ、中学の時から上手だったからな」
「ありがとう、みーちゃんほどじゃないけど私も上手くなったでしょ」
あーちゃんもちょっと得意そうな顔をしている。私もあーちゃんの作ったお弁当を食べると、あーちゃんは私の様子を窺う。もちろんあーちゃんのお弁当は美味しくて、よしくんの好きな味付けになっている。
「さすが、あーちゃんだね、美味しいよ」
「ううん、みーちゃんには敵わないよ」
あーちゃんとお互い顔を笑顔で見合わせる。こんな穏やかな時間が続いていけばいいのになと思っている。でも今日はもうひとつ別の目的がある。
お弁当も食べ終わりそうなタイミングで、私はよしくんに頼みごとをした。どうしてもあーちゃんと二人で話がしたかったからだ。ちょっとよしくんには罪悪感があったが、何も疑うこともなく快く頼みごとを聞いてくれた。
「あの入り口の売店で売っていたケーキみたいなやつだな」
「うん、そうだよ。ごめんね、遠いのに……」
「いや、全然いいよ。美味しいお弁当のお返しだから気にしなくてもいいよ」
そう言ってよしくんは優しく笑って買い出しに出発した。これで暫くは戻ってこない。あーちゃんは途中からいつもと様子が違うのに気がついたみたいで私の顔を頻繁に窺っている。二人きりになったところで私はひとつ深呼吸をして、あーちゃんと向き合った。




