それぞれの気持ち ①
目を擦りながら待ち合わせ場所に到着したが、約束の時間まで一時間近くある。早くに目が覚めてしまい、家の中に居ても落ち着かないので予定よりかなり早い時間に家を出発した。
「さて……どうしよう、まだ本屋とか開いてないし……」
待ち合わせ場所の駅前は休日で周囲の店も開店前で人が多くない。ここで約束の時間まで待つのは目立ちそうな気がする。かと言って時間を潰せそうな場所がないので困っていた。
「ここで待つか……」
時間を潰す場所を探すのをあきらめて側に座れるスペースがあったので腰を下ろして待つことにした。大きく息を吐きながら天を仰ぐと青空が広がっている。今日は朝から絶好の行楽日和だ。
「二人とも楽しみな顔で来るんだろうな……」
ため息混じりに呟いたが、嫌々ながらここに来た訳ではない……でも気が重たく感じる。三人で会うのは久しぶりでどんな顔をしていたらいいのか悩んでいた。
「美影の彼氏で、やはり美影が一番だよな……」
自分に言い聞かせるように呟いた。まだ二人が来るまで時間がある。ここで悩んでも仕方ない、とりあえず頭の中をリセットしようと目を瞑り再び大きな息を吐いた。
「……よ……よしくん?」
微かに呼ばれたような気がした。いつの間にか眠っていたみたいだ。どのくらい眠っていたのか分からず、頭を起こしてゆっくりと目を開ける。まだ意識は朧げな感じだ。
「……具合でも悪いの?」
声の主が美影だと分かる。もう約束の時間になったんだと、だんだん意識がはっきりとしてきた。
「……う、うん、だ、大丈夫だよ」
意識が戻ったが、状況がはっきりと掴めない。突然のことで顔が熱くなくるのが分かる。
「良かった、もう心配したよ」
すぐ目の前に安心した表情をした美影の顔があった。覗き込むような体勢で美影は全く動揺する様子はなく笑顔になる。
「……心配させて悪かったな」
美影はじっと俺の顔を見ている。自分の顔が火照っているのがはっきりと分かって、恥ずかしさから美影の視線を逸らすした。
「照れてるの?」
笑顔の美影余裕がある表情で俺との距離は近いままで離れる気配ない。俺は恥ずかしがっているままでは美影の思う壷だ。少しだけ声のトーンを下げてムッとした顔で返事をする。
「……わざとしているんだろう」
「ふふっ、昨日のお返しだよ」
いつもより甘えた声で美影の顔が更に近づいて唇と唇が軽く触れた。ちょっとだけ顔の火照りが収まっていたが再び熱くなり焦ってしまった。軽く触れただけのキスだったけど美影も真っ赤な顔をしている。
「……美影だって顔が赤くなってるよ」
「うん……ちょっとやり過ぎたかな……怒ってる?」
俺の焦った顔が怒ったように見えたのか、甘えた顔をしていた美影は落ち込んだように反省した表情になった。
「怒ってないよ。昨日はごめんな、不安な気持ちにさせてしまって」
首を横に振って、優しく美影に謝った。いつもの距離に戻った美影は俺の言葉に安心したのか笑顔になる。まだ顔の火照りは収まっていなくて美影も顔が赤いままだ。改めてお互いに恥ずかしくなって変な空気が二人の間に流れる。時計を見ると間もなく約束の時間になりそうだった。
「遅くなってごめんね。ん……どうしたの二人とも、何かあったの?」
遅れそうになったみたいで絢が慌てようにやって来たが、俺と美影の様子を不思議そうに窺っている。
「ううん、よしくんが眠そうだったから……そう、昨日の疲れが残っているのか聞いていたのよね」
いつの間にか美影は普段と変わらない表情になっている。チラッと俺を見ながらやはり美影は凄いなと感心してしまう。上手いこと手助けしてくる。
「あぁ、ちょっと居眠りしてたんだ、それで美影に起こされて……」
「そうなの、顔が赤いから熱でもあったのかと思ったよ、居眠りしていたから恥ずかしかったんだね」
美影の説明で絢が微笑みながら納得した顔になる。深く追及されなくて安心した。
「出発しようか、電車の時間もあるから」
そう言って俺は立ち上がり美影と絢の三人で駅に向かった。予め電車の時間を確認していたので余裕をもって座ることが出来た。目的の駅まで三十分ちょっとかかる。久しぶりに三人が揃うので新学期が始まってからの話題で会話が弾んでいた。
「昨日の試合はどうだったの?」
「ん……昨日は練習試合だからそんなたいしたことないよ」
会話が落ち着いた頃に絢が気になる様子で俺に聞いてきた。美影から聞いた話で絢は練習試合を見に行きたかったみたいだが、用事があって断念したらしい。だから余計に気になったみたいだ。
「でも、やっぱり凄いよね。昨日も難しいシュートを決めたり、パスとかドリブルとかチームで一番だよ」
隣に座っている美影が嬉しそうに話すので絢は羨ましそうにな顔をする。自分の話題で盛り上がる二人を見ていると少し照れてしまう。
「やっぱりいいよね、マネージャーは間近で見ることが出来るから」
「ううん、公式戦だとそんなにじっくり見れないよ、スコアーつけたりいろいろとあるし、チームとしての仕事も」
「うん、そうだね。みーちゃんは丁寧で手際もいいからきっとチームのみんなも助かっているんだろうね」
絢がお世辞抜きで褒めるので珍しく美影が照れている。ちゃんと美影のマネージャーの仕事を絢は尊敬しているのだろう。
「でもあーちゃんもほとんどの試合に来て応援してるから凄いよ、それに練習試合も何度か来て、他の学校なのに大変だよね」
確かに美影の言う通り違う学校の絢は毎回応援に来るのは大変だったと思ったが、絢の言葉で思い出す。
「ううん、全然大変じゃなかったよ。だって私から言った約束だったから……」
一瞬迷ったような感じの絢だったが、自信を持って答えた。美影のことを気にしたのかもしれない。でも美影と再会する前にした絢と俺の約束だ。美影は分かって察したのか約束の事を深く追及しなかった。
「そうね、まだ試合はあるから、あーちゃん、応援よろしくね」
「なんで美影がよろしくって言うんだよ」
美影が何故か笑顔で答える。俺のツッコミに絢もつられるように優しく微笑む。さっきまで美影と絢ことで悩んでいた俺の気持ちは少しだけ和んだような気がした。




