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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 部活引退
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いつもと変わらない日々 ②

 試合の合間に少しだけ美影と話す時間があった。美影は反省した顔をしている。普段は落ち着いて仕事をしている美影だけに本人も分かっているみたいで、更に志保から小言を言われたのも気になっているみたいだ。


「……ごめんなさい」

「そんな謝ることじゃないよ。美影が喜んでくれるは俺にとって嬉しいことだから、次の試合も頑張るよ」

「うん、ありがとう……やっぱりよしくんの彼女になれてよかったよ」


 美影の表情は明るく変わり、優しく微笑んでいる。でも美影の返事に少しだけ違和感を感じた。最後の一瞬だけ見せた顔が気になった。

 休憩を挟んですぐに次の試合が始まった。二試合目は控えのメンバー中心で試合時間の半分くらいベンチに座っていた。途中で出場したがいつものレギュラーメンバーと違い、オフェンスやデフェンスが上手く機能していない場面があって、俺達のチームの弱点を改めて確認が出来た。

 美影はこの試合で後輩のマネージャーにいろいろと教えていたみたいで普段通りの落ち着いた雰囲気だった。

 試合も終わりベンチに戻ったが長山は相手チームのメンバーと話をしていた。同じ中学出身の同級生がいると言っていたので、笑いながら会話をしているようだ。俺は元チームメイトとの対戦は残念ながら機会がなかった。もしあれば面白かっただろうに……

 俺達のチームはこれから休憩になる。長山が会話を終えて戻ってきた。


「先に休憩に行くぞ!」

「おぅ、分かった。そうだ、宮瀬」

「なんだ?」


 バッシュを脱いでチームメイトと一度体育館から出ようとしていたが長山が呼び止め声をかけてきた。他のチームメイトは遠慮することなく先に行く。


「さっき同じ中学の奴と話していて、びっくりしたって言ってたんだ!」

「ん……何が?」


 なんとなく俺を呼び止めた理由が分かったような気がした。


「それが、宮瀬の彼女が、綺麗になっていて凄く驚いたって!」

「はぁ……何の話をしていたんだ……」


 ため息混じりに答えると、長山はしみじみと俺の顔を眺める。


「そう言うけど、本当に変わったぞ。宮瀬と付き合い始めてから特に……俺も言われて改めて驚いたよ」

「なんだよ……」

「いやマジで! 宮瀬が羨ましいよ、なかなかいないぞ山内みたいな彼女は……」

「……確かに、そうだな」


 長山は頷きながら俺の肩を叩いてきた。彼氏として本当は嬉しい言葉だが、素直に喜ぶことが出来ずに曖昧な返事になる。予想外の返事だったのか、長山が俺の顔を窺う。


「どうしたんだ、喧嘩でもしてたのか?」

「いや、それはない」

「ははは、そうだよ、試合であれだけはしゃいでいたからな」


 俺の返事に長山は笑いながら答えていたが、少し反省をした。


(顔色に出ていたのか? 長山が反応するぐらいだから気をつけないといけないな)


 俺と長山は他のチームメイトと合流して午後からの試合が始まる前に昼食をとることにした。昼食をとりながら長山との会話のことを考えていた。


(美影と別れたら絢と三人だけの問題じゃないな……)


 間違いなく別れた俺はみんなから叩かれるだろう。それは仕方ない……でも、絢にも迷惑をかけてしまうのではないのだろうか。また前に進めないまま美影の気持ちも踏み躙ることになってしまう。

 やはり美影にちゃんと話してけじめを付けないといけない……でも今、この日常は確実に壊れてしまう。いろんな考えが頭の中を駆け巡ぐり、最終的に否定して何も変える事が出来そうもなかった。


(ただのビビりだな……)


 だんだんと気持ちが落ち込んできたが次の試合まで時間にまだ余裕がある。みんなの輪に入って話す気持ちになれずに一人になりたくて少し離れた場所に移動した。


「はぁ……どうすればいいのか……」


 大きくため息を吐きながら呟き項垂れた。明日は三人で出掛ける予定だ。絢にどんな顔をして会えばいいのか、美影とはどんな顔をして話をしたらいいのか分からなくなってきた。


(とりあえず明日はこれまで通りでいくか……)


 でもこの何週間でいろいろと意識してきた影響なのか、これまでどうやってきたのかも記憶があやふやになってきている。


(これはマズイな……情緒不安定な感じじゃないか?)


 やはり明日は中止にしたほうがいいのかもしれないと考えが過ぎる。それこそ練習試合で怪我すればいいのかも……


(さすがにそれはダメだ……もうすぐ予選が始まるのだからここで下手に怪我したら大変なことになる)


 だんだんと良からぬ方向に考えが向かってきて、思わず頭を抱えながら大きなため息を吐いた。


「どうしたの、大丈夫? 具合でも悪いの?」

「……えっ⁉︎」


 突然心配そうな声で話しかけられ、慌てて顔を上げた。誰もいないと思っていたので余計に焦る。


「なんでこんな離れた所にいるの?」


 志保が心配そうに顔を覗き込もうとしている。どうやら今は志保しかいないみたいだ。


「……志保か」


 少しだけ安心した。もし美影が一緒にいたらどんな顔をしていたのだろうか分からないが、この反応の仕方だと志保が怒るかもしれないので身構える。しかし予想に反して志保は怒った様子はなく、俺の顔をジッと見つめる。


「安心して怒ってないよ……その顔は相当悩んでるみたいだね」


 優しく微笑むように志保が問いかけてきたので焦ってしまう。


「そんな微妙な顔をしていたか……」

「うん……美影には見せられないぐらいにね」


 志保がはっきりと言うぐらいだから間違いないのだろう。志保の言う通り美影がこの場にいなくて良かった。そこまで酷い表情をしていたのかと落ち込み黙ってしまうが、すぐに志保が口を開く。


「こればかりは由規がきちんと答えを出さないといけないのよ。私は美影の味方だから別れて欲しくはない……けどそんな顔をされたら何も言えない……」

「……ごめんな、志保に気を遣わせて……」


 厳しい口調だったが悲しそうな顔をして志保が見つめるので、頭を下げながら呟くように答えるのが精一杯だ。俯いたまま情けない気持ちでいっぱいになった。

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