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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 部活引退
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最後の一学期 ③

 あれから一週間が過ぎたが、美影の様子は特に変わったところはない。今朝も普段と変わらず顔を合わせて会話をした。


(なんだったのだろう……絢のことや帰り間際に抱きついてきたことも)


 冷静になって考えるとあの日の美影の様子は普段と違っていた。思い当たる事と言えば、絢と二人で出かけていたことだ。でもこのことは美影に伝えていないし、絢も美影には話をしていないはずだ。


(美影が聞いた絢のことが好きなのかどうかの返事がいけなかったのか……)


 あの時、咄嗟に返答が出来なかった。嘘でもよかったからちゃんと返事をすれば違っていたのかもしれない。でもどうだろう……嘘をついても美影にはバレそうな気がする。


(やっぱり美影は気づいているのかも……)


 そろそろ正直に話さないといけないタイミングかもしれない。でも何て美影に伝えたらいいのだろうか。そもそも美影と絢は幼い頃からの友達だ。俺の言葉ひとつで二人の関係が変わってしまう。それは出来るだけ避けたい。


(なんでこんなに拗れてしまったのか……全ては俺のヘタレが原因だ)


 自分の席で離れた所で志保達とお喋りしている美影を眺めて考え混んでいた。


「アンタ、難しい顔をしてどうしたの?」


 顔を向けると大仏が不思議そうに見ている。


「そんなに難しい顔をしていたか……」

「そうね、もの凄く難しい表情をしていたわ」

「なんだよ、その何か含みがあるような言い方は?」


 何か言いたげな顔を大仏がする。こんな時は何かとんでもないことを言ってくる。


「……本当に山内さんのことを好きなの?」

「なっ、なに、いきなり何を言ってくるんだよ!」


 予想以上のことを言われ慌てて答えた。俺とは対照的に大仏は冷ややかな落ち着いた表情のままだ。今日はいつものように嫌味を言ってくる雰囲気とは違っている。


「今年になってから気になっていたんだけど、アンタのその慌て様だとアタシの予想は当たっているのかもね」

「なんだよ、お前の言う予想は?」

「ん……さすがにここでは言えないかな」


 大仏は辺りを見渡して、美影達のいる方向を眺める。周囲の目もあるって、美影にも気を遣ったみたいだ。


「……言う気はないか」


 俺があきらめて呟くと大仏は小さく頷いた。


「今はね……でも、アタシの予想を本当は分かってるじゃないの?」

「そ、そんなことはない」

「ふん、何年もアンタの幼馴染をしている訳じゃないのよ、顔を見れば分かるわよ」


 軽く笑ながら大仏が答える。俺は大仏から視線を逸らすように俯くと返す言葉が出てこなかった。大仏の言葉に妙な説得力があった。


「……何年も幼馴染か」

「山内さんは小学生の頃の何年間と高校に入学してから、アタシは小学校の前から今の今までだからね」

「……はぁ、お前には頭が上がらんよ」

「ふふっ、残念だったわね。アタシが可愛らしい幼馴染じゃなくて」


 いつもの大仏に戻ってきた。


「そうだな、可愛くなくて良かったよ」


 からかうように答えたが、大仏も怒ったりすることはない。お互いに長い間続けているやりとりだ。暗かった雰囲気が少しだけ明るくなった気がした。


「まあいいわ。それでアンタどうするの? もう前みたいに先延ばしは出来ないから、でも今回は簡単にはいかないでしょうね」

「そんなことは分かっている」

「ふふっ……まぁ、ガンバリなさい」


 俺が小さく頷くと大仏は小さく鼻で笑いながら自分の席に向かった。大仏が何かを解決するヒントをくれた訳ではなかったが、キャパオーバーしかけていた頭の中が少し落ち着いたような気がした。


(大仏が言うぐらいだから、恐らく美影は分かっていて付き合っているのだろう)


 大仏と話してそう確信した。


 今日の部活は体育館が使えなくて外での練習になっていたがあいにくの雨で中止になった。授業が終わった後に担任の先生から呼ばれていた。

 要件が終わり職員室から戻ると美影はすでに帰っていた。もともと一緒に帰ろうと言ってはいなかったので仕方がない。しかし教室には何故か志保の姿があった。


「美影と一緒に帰らなかったのか?」


 帰る準備をしていた志保は俺の姿を見て、残念そうな顔をする。


「数学の先生に呼ばれて、この前のテストのことで……」

「あぁ……テストね」


 志保の表情を見てそれ以上は何も聞かなかった。美影から少し話を聞いていたので何となく分かった。気まずくなったのか志保が話題を変えてと話しかけてきた。


「ねぇ、由規はなんで大仏さんと仲がいいの?」

「はぁ⁉︎ 大仏と仲がいいようにみえるか?」


 予想外の志保の問いかけに驚いて逆に俺が志保に聞き返す。


「だってさっきも話をしてたけど、なんか最後は笑っていたし、普段もお互い険しい顔で何か言ってたりするけど、揉めたりしてる訳でもないみたいだし……」


 志保がよく分からなそうな顔をしている。志保と大仏は普段あまり交わることがない。系統が違うというか多分大仏とは性格的に合わないだろう。


「そうだな……可愛くない幼馴染だからかな」

「ふふっ、なにそれ」

「あぁ、アイツが言ったんだよ。俺が言った訳ではないけどピッタリな言葉だよ」


 志保は笑いながら首を傾げてあまり理解していないようだ。


「それでね、ついこの前に美影と大仏さんが二人で何か話していたの、結構な時間で、それに二人とも難しい表情していたわ」

「そうなのか……」

「うん、あの後に美影が少しだけ元気がないような気がして……でも今はもう大丈夫そうだけどね」

「……そんなことがあったのか」


 大仏がどんな内容の話をしたのか分からないが、今日話しかけてきた事と関係がありそうな気がする。大仏は自分の意志で聞いたのではなく恐らく白川から頼まれたのだろう。志保から少し不安そう顔が見受けられる。


「そのことは大仏から何も聞いていない。でもあの二人のことだから問題ないはずだ。お互いが上手に解決するじゃないかな」

「……二人を知っている由規が言うから大丈夫だよね」


 不安そうな顔をした志保だったが笑顔になる。俺も内容が分からないだけに心配だが、志保に安心させる為にはこれ以上悩ませないようにあたり触らずの返事をした。

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