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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 部活引退
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最後の一学期 ②

 美影と二人でバスに乗り移動する。


「ねぇ、さっき志保と真剣に何の話をしていたの?」

「ん……たいした話じゃないよ」

「そう……難しそうな顔をしていたけど?」


 美影は返事に納得していない顔だ。正直に答える訳にもいかない。何て言えばいいのか悩んでしまい黙り込んだ。


「もう、黙ったままで……ふん」


 痺れを切らした美影が拗ねてしまった。デート開始から幸先が悪いと落ち込みそうになる。


「……ご、ごめん。でも本当にたいしたことない話だから」


 そう言って美影の拗ねた顔を窺う。拗ねているけど、美影の顔は落ち込んだ気持ちが嘘のように嬉しくなるぐらい可愛らしい表情をしていた。普段人前ではクールな雰囲気なのでこんな表情をすることは殆どないが、二人でいる時だけは違う。そんな些細なことだけど幸せを感じる瞬間だった。


「じゃあ、どうしようかな〜」

「……お昼奢るからそれで許して」

「ふふっ、いいわよ」


 美影は少し意地悪そうな顔をして可愛く笑っていた。こんな顔も俺にしか見せることはない。志保に言われたようにこの最近は美影と一緒にいる時間はあまりなかった。だから美影のこんな表情を見るのも久しぶりだった。

 目的地にバスが到着して、どちらからともなく手を繋ぎ歩き始める。人前に出てきたこともあって美影の表情は普段通りのクールな感じだ。でも機嫌が良さそうなの滲み出ている。


「お腹も空いたし、さっそくだけどお昼食べようか?」


 時計を見ると昼の一時を過ぎている。俺の提案に美影は小さく頷いたが、少し寂しそうな顔をして呟いた。


「……手を繋いだばかりなのに」

「大丈夫だよ、食べ終わったらずっと繋いでるから」

「えっ⁉︎ そんなつもりで言った訳じゃないのに……」


 美影としては予期せぬことみたいで俺の顔を窺う。照れた美影の顔がほんのり赤くなっている。いつものクールな表情からのギャップがあってかわいい過ぎだ。思わず本音が漏れてしまった。


「ホントに抱きしめたくなる可愛さだな……」

「……⁉︎」


 声にならない様子で美影の顔がさらに真っ赤になる。本音を言った俺も恥ずかしくなったが、美影はそれ以上の様子だ。


「……よしくんのバカ!」


 美影は恥ずかしそうに小さな声で言うとギュッと俺の腕にしがみつくように抱きついてきた。美影の赤い顔が思わず近づいて焦るが、それ以上に美影の体がぴたっとくっついているので柔らかい所とかかなり感触がやばい……顔が熱くなるのが分かる。


「み、みかげ、あ、歩きにくいから、と、とりあえず普通に手を繋ごう」


 しどろもどろで俺が話すと、美影も気が付いたみたいで抱きつくのを止める。お互い恥ずかしそうにしていたがしっかりと手は繋いでいた。

 何度か志保と三人で来たことのあるファーストフードの店に着いた。ピークの時間が過ぎていたのでゆったりと座ることが出来た。食べながら何気ない会話をして、食べ終える頃には絢の話題になっていた。


「なかなか日程が決まらなくて、月末の連休辺りで予定出来たらいいかなと思うんだけど、都合はつきそう?」

「あぁ……今のところは大丈だよ」

「よかった。その時だと私もあーちゃんも何とかなりそうだからその辺りで決めておくね」

「……うん、いいよ」


 絢と三人で出かける予定の話をしながら、心の中では罪悪感があった。春休みの間に美影の知らないところで絢と会っているから余計に感じていた。


「ん……どうかしたの?」

「……いや、何もないよ」


 美影は俺の返事から何かを感じたのかじっと顔を窺っている。


「あーちゃんのこと、変わらずに好きなの?」

「えっ⁉︎ な、なに、と、とつぜん……」


 かなり焦って返事をしたが、美影は普段のクールな表情をして鋭い視線で俺を見ている。美影の視線が突き刺さるように痛い。


「……そう、あーちゃんのことは……」


 美影は言いかけたてそのまま視線を落とす。俺も何も言えずに俯く。二人に間に微妙な空気が流れる。これまで美影が絢のことを好きかと聞いてきたのは初めてではないが、こんな真剣な表情だったのは初めてだ。


「ごめんね。変なことを聞いて、好きに決まっているよね。じゃないと三人で一緒に出かけたりしないよね」


 返事がないのに痺れを切らした美影は俺の顔を窺い優しく笑みを浮かべる。まだ俺はどんな顔をすればいいのか分からないから美影の顔をちゃんと見ることが出来ないままだ。


「もうそろそろ行こうよ!」


 気持ちを切り替えたのか美影はいつもと変わらない表情になる。美影の勢いに押されるように頷いて片付けをはじめた。

 その後も美影は普段と変わらない様子で一緒に歩き二人の時間を楽しんでいた。心なしかいつもより手を繋ぐ力が強かったように感じた。時計を見ると思っていたよりも時間が過ぎていて、もう帰らないといけない時間になっていた。明日からは通常通り授業が始まり、部活も再開される。


「今日は、ありがとう」


 美影は嬉しそうな笑顔をしている。


「いや、急に誘って悪かったな、今度はちゃんと予定を立てるから」

「ううん、そんなことないよ」


 急に誘った俺は反省をしていたが、美影は微笑み首を横に振って否定している。美影の笑顔で少しだけ罪悪感が和らいだ気がした。

 バス停のある場所へ移動すると、バスの時間は俺が帰る方向が先に来るみたいだ。


「そろそろ来るな、じゃあ、また明日」


 あまり待つことなくバスがやって来たので慌てるように向おうとすると、美影が飛びかかるぐらいの勢いで抱きついてきた。


「えっ、な、なに、どうしたの?」


 若干、パニック気味な反応になる。でも美影は何も言わずにギュッと力強く抱きついてくる。時間にしてほんの僅かだったが、抱きつかれている時は長く感じた。ゆっくりと美影は力を緩めて、俺から離れる。


「……うん、また明日ね」


 優しく答えた美影の表情は、いつも凛とした雰囲気ではなく少し寂しげに見えた。俺がバスに乗り込み窓の外を見た時には普段の美影の表情で手を振っていた。


(最後のあれはなんだったんだろう)


 これまでデートの帰りに抱きついたりすることはなくて初めてだった。いつもと違うことがあると少し不安になる。やはり美影も何か思っていることがあるのかもしれないと感じた。

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