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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 三年生 部活引退
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春休みの一日 ④

 急いで本屋を出て絢と約束した待ち合わせ場所に向かっていた。まだ待ち合わせの時間にはなっていないが、絢を待たせたくない。すぐに待ち合わせ場所の手前までやって来た。


(もう来ているな……)


 待ち合わせ場所に一人で絢が立っているが、こちらには気が付いていない。絢に会うのは一ヶ月振りだ。


(ん……なんか雰囲気がいつもと違うような……)


 だんだんと近づいていくと、髪が少し伸びて服装もいつもと違い、艶めいた雰囲気がする。大人っぽい感じで声をかけるのがなんだか恥ずかしい。かなり手前まで来たが、絢はまだ俺のことに気が付いていない様子だ。


「絢、待たせたな」

「えっ⁉︎ あっ、よしくん!」


 驚いた顔をして絢が振り向く。見惚れるていた絢の顔が正面を向いて更に恥ずかしさが倍増してしまう。


「ごめんな、遅くなって……」

「ううん、私もついさっき来たところだから待ってないよ」


 優しい笑顔で絢が答える。まともに顔を見れない暗い恥ずかしくなってきた。


「あ、あや、あ、あの、え、っと……」

「どうしたの? さっきから何か変だよ」


 絢が不安そうな顔をして覗き込む。さすがにこのままでは話が進まないので大きく息を吸って気持ちを落ち着かせた。


「……うん、もう大丈夫だよ」

「えっ、な、何、いったい何があったの?」


 絢は呆気に取られたような表情をしている。落ち着いたと言ってもまだ完全ではないので、俯き加減に恥ずかしさそうに絢の問いかけに答える。


「……絢があんまりにも魅力的だったから、照れてしまってたんだよ」

「えっ、そ、そんなこと……」


 今度は絢が真っ赤になり恥ずかしそうに俯いてしまった。まるで付き合い初めの甘々カップルみたいだ。側から見ると馬鹿にされても仕方ない気がした。このままここに居ても周りからおかしな目で見られるだけだ。そろそろ移動しようとしたが、特に行きたい所はない。


「どうする? 何処か行きたい所とかあるの?」

「う〜ん、そうね、じゃあ……」


 そう言うと絢は俺の手をぎゅっと繋いできた。いきなりだったので驚いたが絢と同じように俺もしっかりと繋いだ。手を繋いだので自然と二人の距離は近くなる。絢はまだ赤い顔をしていたが、俺も顔が熱いままだった。

 しばらくの間、手を繋ぎながら歩いていた。歩きながらお店のウインドウに手を繋いだ二人の姿が写っている。どこからどう見ても付き合っている二人にしか見えない。絢の顔を窺うと幸せそうな笑顔をしている。

 特に当てもなく二人で歩いて、絢がお気に入りの雑貨屋に寄ってみたりしていた。会いたいと言って絢に呼び出されたのだから、二人で一緒に歩いているだけでも良かったのかもしれない。


(二人だけの時間……あるようでなかったな絢との時間は)


 クリスマス辺りからバレンタインの頃まではイベントが多くて絢と会う機会がかなり多かった。でもこの一ヶ月はほとんど会う機会がなかった。頻繁に会っていただけに急に会う回数が減ると寂しくなる。絢も同じ気持ちだったのかもしれない。待ち合わせをした時から立ち止まることなく歩き回ったので、さすがに疲れてきた。


「少し休むか?」

「……うん」


 タイミングよく目の前に喫茶店がある。絢も疲れてきたみたいだ。店内に入るとお客さんは多かったが、二人分の席は確保出来た。目の前に絢が座り、お互い注文をする。


「ねぇ、よしくん」


 注文を終えて絢が甘えた声で問いかけてきた。


「どうした?」

「うん、知ってたかな……二人きりのデートが初めてだってこと」


 絢は照れた表情をしている。もちろん知っていたので軽く頷くと絢は嬉しそうな顔をした。


「知ってたよ、でもなんかあまり実感がないな。中学の時には何回か一緒に下校したこともあったけど、学校や塾以外で二人きりになることはなかったのにな……」

「よしくんはそうなの……私は二人きりでいるのを凄く実感してるよ」


 嬉しそうだった絢の顔が少し曇るので焦ってしまう。絢は純粋に二人でいることが嬉しいに違いない。でも俺はいろいろなことが頭に浮かび葛藤している。本当は嬉しいはずなのだが、素直に喜ぶことが出来ない。そんな俺の顔色を窺いながら絢が問いかけてきた。


「ねぇ……今日の事はみーちゃんに話したの?」

「……いや、話していないよ」

「そうだよね……話してないよね」


 絢は俺の返事に少し落ち込んだ表情になって、二人の間に重たい空気が漂う。こうなることは予測していたが、実際になってしまうとどう対処していいのか悩んでしまう。全ての原因は俺なのだ。

 美影と付き合ってはいるが、絢のことはまだ諦めきれていない。会えなかったから寂しいという気持ちが全てだ。美影に告白した時に絢の代わりにはなれないと美影が言っていた。あの時は絢の代わりにはしないと思っていたが、結果的に俺は美影に絢の面影を重ねていたのだ。


「……ごめんな、中途半端な俺で」

「ううん、私だってよしくんやみーちゃんに甘えていたからいけないの」

「いや、そんなことは……」


 絢は悪くない、俺が悪いのだ。自分の情けなさに返す言葉が見つからない。項垂れるようにして迷っていると絢は大きく深呼吸をした。絢の表情がキリッと変わる。


「みーちゃんときちんと話をするね。二年前みたいに後悔したくないし、もう同じ想いはしたくないの……」


 絢の強い決意は肌身に感じて、情けない俺は何も言えなかった。もしかしたらこれまでの三人の関係が崩れてしまうかもしれない。それぐらい絢の強い気持ちが現れていたからだ。

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