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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
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もうすぐ三年生 ②

 部活が始まる前と終わった後に美影から昼間の事について追及されることはなかった。練習中も普段と変わった様子はなく杞憂に終わったみたいだった。

 次の日、昼休みに志保に呼び出された。何故、呼び出されたのか理由が分からない。


「なんだよ……わざわざ中庭まで」


 めんどくさそうに志保が待っている所に行くとムスッとした顔をしている。


「由規、何で私がここに呼んだのか心当たりないの?」


 不機嫌そうな志保の顔を窺い、首を捻りながら考えてみるが全く分からない。


「ん……思いつかないけどな」

「はぁ……」


 大きなため息を志保が吐き、キッと厳しい視線を向ける。志保からのキツい視線に尻込みをしてしまう。


「な、なんだよ。分からないものは分からないだよ」

「もう仕方ないわね。昨日、昼休みに何をしてたの?」


 志保の言葉でピンときた。昨日の恵里とのことだと分かったが、誰にも話をしていないはずだ。まさかと志保に問いただす。


「もしかして見てたのか?」

「そうよ……」


 志保は大きく頷き、呆れたような顔になる。予想外の事に俺は驚き顔が強張り俯いた。教室に戻った時に美影の姿は確認したが、側にいることが多い志保の姿は見ていない気がした。


「……べ、べつにな、なにもないぞ」


 思いっきり動揺した返事になってしまう。そんな自分が情けなくなる。


「本当にそうなの? 満更でもないような顔をしてたけど?」


 全く信用していない顔をして志保がジッと睨むように見ている。久しぶりに志保のプレッシャーを受けて身動きが取れなくなってきた。


「そ、そんなことはないけど……美影には言ったのか?」


 昨日の様子だと知らないはずと確信していた。今朝も普段と変わらない様子だった。


「教室に戻ってきた時に由規の様子が変だったと美影から聞いて事情を話したわよ」

「えっ⁉︎ そうなのか、でも美影は何も言ってなかったけど……」

「それは由規に気をつかったからじゃないの?」


 怪訝な表情をする俺を一蹴するように志保が呆れたような口調で答えた。


「……やっぱりそうなのか」

「美影はクールそうな表情をして嫉妬とかしなさそうだけど、全然そうじゃないからね。由規も分かってるでしょう」

「あぁ、分かってるけどでも……」


 志保は呆れた表情をしたままで、「絢といる時は」と言いかけたが話が更にややこしくなりそうな気がしたので言うのをやめた。


「……でも、なに? 何を言いかけたの?」

「い、いや、なんでもないよ」

「はぁ……まぁいいわ。なんとなく察しがつくから、でももう少し美影のこと大事にしてあげてね。由規が思っているほど美影は強くないから」


 もう一度ため息を吐きながら志保が言い聞かせるように伝えてきたので、静かに頷いて返事をした。志保は言いたいことを言って満足したのか落ち着いた表情になった。


「じゃあ、私先に教室に戻るから由規は少し経ってから戻って来てね」

「分かった」


 俺の返事を聞いて志保は足早に教室の方向に向かっていった。志保の後ろ姿を見送りながら、大きく深呼吸をした。少し緊張の糸が解れたが、志保にここまで言われたのは初めてだった。それだけ志保も美影のことが大事に思っているのだろう。


(もうちょっとしっかりとしないといけない、これじゃまた同じようなことになる)


 気を引き締めないといけないと思っていると、バスケ部の後輩が声をかけてきた。


「宮瀬先輩、もしかして浮気ですか?」

「なんだよ、突然……浮気とか何を言ってるんだ」

「えっ、だってこんな所で石川先輩となんか深刻そうに話をしていたから」

「はぁ⁉︎ なんでそうななるんだよ」

「先輩はモテるじゃないですか? 山内先輩が彼女で、あのいつも試合を見に来ている女の人とか、そうだ俺のクラスの枡田とか、それ以外にも結構いますよ先輩のファン」


 笑いながら話す後輩を微妙な顔をして聞いていた。


「まぁ、とりあえず浮気ではないし、それに恵里は彼女でもないからな。頼むから変なウワサとか流すなよ」

「う〜ん、あんまり納得してないけど、分かりました」


 口をへの字にしながら後輩が返事をした。ついさっきした決意が揺らぎそうな事態になりそうだったがなんとか耐えられそうだ。

 あまり信用していなさそうな表情をした後輩と別れて、昼休みの時間が残り少なくなってきたので教室に戻ることにした。教室に向かいながら後輩が言った言葉を考える。


(恵里の事はともかく、絢の事まで後輩に知られているのは予想外だったな、でもあれだけ試合に来ているから仕方ないよな)


 今更どうにかなる訳ではないし、もう次が最後の大会になる。絢が試合に来るのも残り少ない。


(……残り少ない、絢が試合に来ることが……絢に会える機会も残り僅か)


 足を止めて冷静に考える。バスケの試合を見に来るのは絢との約束だった。でも次の大会が最後で約束は終わってしまう。


(絢と会う理由もなくなるよな……)


 これまであまり考えてこなかった。あまりに当たり前のように会いに来ていたからだ。


(俺から呼び出したりすることは出来ないよな……美影がいるのだから)


 急に不安と動揺が頭の中を巡ってきたが、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。このままここで立ち止まっていてもいけないので教室に戻ることにしたが、頭の中は真っ白に近い状態だった。


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