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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
184/237

春の公式戦 ③

 そのまま交代でベンチに下がった。歩けない訳ではないので自力でコートの外に出る。時間的にアイシングしても試合に戻ることは出来ない。椅子には座れないので、そのまま床に座り込むと後輩が足を押さえてくれる。美影もスコアを後輩に頼み俺のところにやって来た。


「もう……無茶したらダメだって言ったでしょう」


 美影は怒ったような口調で、足を押してくれていた後輩が苦笑いしている。


「えっ⁉︎ ご、ごめん……」


 美影の勢いに押されて思わず謝ってしまった。後輩に代わって美影が足を押してくれている。おかげで少し楽になる。応急手当が終わり美影はそのまま俺のところに残って一緒に試合を見ている。

 残り時間も僅かになった。俺の交代で入った後輩が必死にデフェンスをして点を取られないように頑張っている。皓太や長山も最後の力を振り絞りデフェンスをして、ベンチメンバーも必死に声を出して応援をしている。やっと試合終了のブザーが鳴る。スコアはニ点差で勝利した。

 美影に支えてもらい立ち上がると、ガッツポーズをして喜んだ。試合終了の挨拶が終わり皓太が戻ってきた。


「宮瀬、大丈夫か?」

「あぁ、大丈だ。酷い怪我じゃないからな、ちょっと無理しただけだよ」

「ははは、そうだな山内がいるから問題ないな……あとは山内任せたぞ」


 皓太は俺を支えている美影を見てニヤッと笑って片付けに加わる。支えている美影も片付けがあるではと「俺の事よりも」と言いかけた時に、志保が駆けつけて来た。今日は後輩のマネージャーと志保はベンチに入っていなかったが試合も終わったので降りて来たみたいだ。


「いいよ美影、こっちは私達で片付けるから由規の面倒見て!」


 そう言って志保が俺の物の片付けをして後輩のマネージャーも片付けを手伝っていた。


「みんなに任せて私達は先にあがろうか」


 美影は俺を支えながらゆっくりと移動を始める。そこまで酷い痛みはなかったのであまり美影に負担をかけたらいけないと思い自力で歩こうとした。


「無理したらダメ!」


 すぐに美影が忠告をして、ギュッと体を支える。美影の顔が近づく、キリッとした真面目な顔だ。二人でいる時の甘えた表情とは違い、凛とした表情をしている。


「……ありがとう」


 見慣れている美影の顔なのに改まったように恥ずかしくなってしまって小声で答えた。俺の気持ちを知ってか知らずか返事を聞いた美影は優しく微笑んでいる。ギュッと美影が引き寄せようにして支えるので美影の顔だけでなく体も密着しているので余計に恥ずかしくなる。美影はそんな事を気にしていない様子だ。

 これまでも何度か抱きつかれたりしたので密着することは初めてではないが、いつもと違う感じで胸がドキドキしていた。美影に支えられながら歩いていると、もう一人俺を心配している人物に遭遇した。


「だ、大丈夫……」


 俺の様子を見て心配そうに声をかけた絢だったが、美影に支えてもらっている姿を確認すると驚いた表情に変わった。


「大丈夫だ、一応歩くことは出来るからたいした怪我じゃないよ」


 あまり心配させないように明るく答えた。美影も小さく何度か頷いて絢に心配しないでいいと伝えていた。


「う、うん、よかった……」


 しかし絢の反応は予想と違いあまり元気のない返事だった。絢の様子が美影は気になるみたいだ。


「……どうしたの?」

「えっ、う、ううん。なんでもない。それじゃ、試合が終わったから帰るね……」


 美影が優しく問いかけたが、絢は寂しそうに答えると足早に立ち去ろうとした。普段と違う雰囲気だったのでも一度俺が声をかける。


「そんなに慌てなくても……」

「……じゃあ、またね」


 俺の言葉を遮るように絢は答えるとそのまま出口に向かって歩いていった。それ以上は声をかけられず後ろ姿を見送るだけだった。美影も心配そうな顔をしていた。


「帰ったらあーちゃんに連絡してみるから心配しなでいいよ」


 美影はそう言って俺の顔を窺っていたので、「分かった」とひとこと言って頷いた。

 帰りは、家の近くのバス停まで美影が同じバスで一緒に帰ってくれたの助かった。バス停からは自力で帰らないといけなかったがある程度痛みが引いていたのでなんとかなった。美影は家の手前までついて行くと言っていたが、さすがにそれは断った。それよりも美影と絢がどんな会話をしるのかが気になっていた。

 翌日、学校に自転車では無理そうだったのでバスで登校した。まだ走ったりは無理そうだが、ゆっくり歩くことは出来る。部活は二、三日休めば復帰出来そうで、週末が試合だったので今日は休みになっている。教室に着くと先に来ていた心配そうに美影が駆け寄って来た。


「足の具合はどう?」

「そんなにひどくないから大丈夫だよ。まだ走ったりは出来ないけど普通には歩けるから」

「……良かった、じゃあ二、三日後には戻れるのね」


 美影は嬉しそうに笑顔で答えるので、つられるように俺も笑顔で頷いた。安心した美影は明るい表情になっていたが、ひとつ気になることがあった。試合会場で帰りに会った絢のことだ。美影が連絡してみると言っていたので結果が気になっていた。でも俺から聞くのは不自然な気がしたので躊躇してしていたが、美影には隠すことが出来なかったみたいだ。


「……そうだ、あーちゃんはのことはちゃんと話をしたから問題ないよ」

「えっ、そ、そうか……」


 あっさりと答えた美影に一瞬驚いたが落ち着いた顔をして返事をした。今は美影の彼氏なのだから下手に安心した顔をしてはいけない。あまり気にしていないという顔をしないといけないのだ。だからそれ以上話を深掘りすることはできない。


「ん……それだけ?」


 美影は俺の顔を窺いながら不思議そうな表情をしていた。俺が様子をあれこれ聞いてくると思っていたのだろうか、美影には予想外だったようだ。


「……うん」


 返事を聞いた美影は納得していない顔をしていた。変に気をつかわない方がよかったのかと後悔したが、今更聞き直すのもおかしいのでこのままにすることにした。そうすることによって俺の中で美影と絢の微妙な関係を多少でも修正出来るような気がしていた。

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