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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
183/237

春の公式戦 ②

 二試合目も無事に勝利して、県大会出場を決めた。明日の試合に勝てば県大会は二回戦からになる。試合が終わった後、美影は嬉しそうに俺のところにやって来た。


「お疲れ様。なんかこうやって話をする今日初めてだね」

「あぁ、美影は忙しそうだったからな、疲れただろう、ご苦労様……」

「ううん、試合に出てた選手に比べたら全然疲れてないよ。でも気をつかってくれてありがとう」


 優しい笑顔で美影は答えた。


「でも今日は割と楽な試合だったからそうでもないよ。一応、県大会出場を決めてるから明日はそこまで緊張することもないだろう」

「ダメだよ、その油断が怪我とかにつながるから気をつけないと……もう大きな怪我はしないでよ。こうやってよしくんの試合を見られる機会は少なくなってきたから」


 美影は強めの口調で、真面目な顔をしている。気が緩んでいたことに反省をして頷くと、美影は優しく微笑んだ。


(もう公式戦も残り少ないな……今、ここでバスケが出来るのは美影のおかげだ。残り少ない試合は美影の笑顔の為にも……)


 そう思うことで絢との距離を置くことが出来そうな気がした。

 翌日、予選の二日目。今日は勝利すれば県大会で組み合わせが有利になる。対戦相手は強いチームだが勝てるチャンスは十分にある。


「どうだ今日の調子は?」


 試合前の練習で皓太が様子を窺ってきた。昨日のことがあったので心配だったのだろう。


「調子か? いつも通りだよ、問題ない」


 フリースローラインの辺りからシュートを放つとリングに当たることなく綺麗にゴールが決まる。


「……そうだな、頼むぞ」

「あぁ、任せておけ!」


 力強く返事をしたので、皓太が少し驚いた顔をした。なにか解決した訳ではないが、今日の試合に負けたらまた同じことを繰り返しそうな気がして、そんな弱気な気持ちを払拭したかった。

 試合開始直前に美影から「無理したらダメだよ」と言われた。美影にはなんとなくいつもと違う雰囲気が伝わったのかもしれない。

 試合が始まり、昨日の二試合とは違い簡単に点を取らせてくれない。予想通り厳しくマークされる。それでもプレッシャーを跳ね退けてシュートを決めていく。派手なプレーはないけど、堅実にレイアップシュートやリバウンドで得点を重ねていった。


「なかなか点差が開かないな……」


 ハーフタイムになりベンチに戻りながら呟いた。皓太が背後から手を伸ばし肩に手をやる。


「……お前、大丈夫か?」


 心配そうな顔して皓太が話しかけてきた。前半が終わったところでチームの半分近くの得点をあげている。普段とは違った雰囲気があったのかもしれない。


「あぁ、問題ない」

「……でもあれだけ激しくいったら体力がもたないだろう」

「ハーフタイムで回復させるよ」


 ベンチに着いて座り込むと一気に疲れが出てきた。口では問題ないと言ったがかなり足にきている。


「どうしたの今日は? あんなに飛ばして……」


 心配顔の美影からドリンクの容器を渡される。これまでずっと試合を見ていた美影なので


「ん……なんか不甲斐ない自分に喝を入れようと思ってね」


 冗談混じりに笑顔で答えるが半分は本音だ。


「もう……試合前にも言ったけど、無茶しないでよ」


 返事を聞いた美影は怒った顔をしているが本気で心配している証拠だろう。美影はマネージャーだけど、チームメイトの誰よりも俺の体調を心配してくれている。


「……分かってるよ」


 美影は俺の返事を信用していない顔をしていたが、マネージャーの仕事もあるので俺の側にいる訳にもいかない。


「約束してよ……」


 そう言って不満そうな表情で美影は俺の側を離れていった。もちろん無茶はしないつもりだが、試合前に自分に課したことをやり遂げるにはいつもより気合を入れていかないといけない。試合は僅差でリードしているけど、気を抜けばすぐに追いつけられる。


「……何があったのか分からないけど、頼むから怪我だけはするなよ」


 美影との会話を聞いていたのか、隣に座っていた皓太が心配そうに声をかけてきた。声を出して返事はしなかったが小さく頷いた。皓太も美影と同じように信用していない表情をしていた。ハーフタイムが終了して試合が再開される。

 ハーフタイムである程度は体力が回復したので、前半戦同様にかなり飛ばし気味でスタートする。着実に得点を重ねるが、相手チームも負けてはいない。しかし第三Qの後半になるとさすがに足が悲鳴を上げてきた。止まったり加速したりの強弱をつけるとかなり危険な状態だ。


「お前、もしかして足……ヤバいか?」


 ディフェンスに戻りながら皓太が囁いてきた。


「……ちょっと危険だな」


 痩せ我慢しても仕方ないので正直に答えた。皓太も俺の足を心配している場合ではない、皓太自身もかなり疲労が表に現れて肩で息をしている。


「無理するな、お前がコートにいるのといないのでは相手のプレッシャーが違ってくるからな、頼むぞ」


 そう言って皓太はディフェンスの体勢に入った。相手チームはすでにハーフコートを過ぎていたので俺も慌ててボールを追ってディフェンスにつく。

 かろうじて第三Qはなんとかやり過ごしたが、得点差は僅差のままだった。インタバルを挟んで第四Qが始まる。足の調子は疲労感でいっぱいだが相手も同じはずだ。さすがに試合開始当初の勢いはないがここまで来たら意地でも勝ってやろうとスピードを落とすことはなかった。

 残り時間も少なくなってきた時に突き放すチャンスがきた。相手のミスでパスをカットしてマイボールになった。皓太にパスが渡り、フリースローラインの手前まで一気に走る。しかし俺の前に一人デフェンスがついたが、皓太から鋭いパスが回ってくる。


(……決めろってことか)


 ここで決めれば五点差になり、残り時間を考えればかなり有利になる。でもドリブルで切り込める体力はない。いつもならなこの位置からは無理はしない。


(試合前の練習でここからシュートを決めたよな)


 一度前に行くフリのフェイクを入れてシュート体勢に入るとすぐに相手もブロックしようと手を伸ばす。フェイクだけではシュートが打てないと判断して、後ろに飛びフェイダウェイでシュートを放つとボールは綺麗に弧を描いてリングに吸い込まれる。


(あっ⁉︎ ヤバい……)


 体勢は崩れていても普段なら転倒することはないが、足に痛みが走り派手に転倒してしまう。予想通り足が攣ってしまった。跳び上がった瞬間のことだった。

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