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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
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変わらない日常

 翌日、いつもより遅れて登校すると美影は志保と一緒に教室の中で楽しそうに会話をしていた。美影が俺の姿に気が付き微笑みながら小さく手を振っているので笑顔で答えた。そのまま席に着いてひと息吐く。いつもと変わらない教室の景色だ。


「何よ、朝からしょげた顔をして、一週間が始まったばかりで……」


 隣の席に座っていた大仏がいつも通りの不機嫌そうな顔で声をかけてきた。気分的に軽く聞き流して適当に応対しようとしたが、大仏の次の言葉で出来なくなる。


「……で、昨日は笹野さんと一緒に仲良さそうに歩いてたの?」

「何で毎回お前はそうやって見つけるんだよ……」


 がっくりと項垂れる姿を見て大仏は鼻で笑っている。


「別に好きで見つけている訳じゃないわ、アンタがあまりに無防備なのよ」


 そう言われると何も反論出来ない、確かに昨日も何も考えずに本能的に絢に手が伸びて、結果として一緒に帰ることになった。二人きりだと絢も進んで甘えることが多いので、第三者から見ると完全に恋人に見える。


「……アンタ、それってどういうことか分かる?」


 大仏がチラッと美影の姿を見て呆れたように言い放った。大仏の言いたいことは分かるし、間違ってはいない。


「分かってるよ……」

「さすがにアンタがそこまで甲斐性なしとはね、幼馴染の私でも引くわよ」


 項垂れている俺は大仏の呆れた口調に更にダメージを負っていた。ただでさえ今朝はあまり調子がいい訳ではないのにやられてばかりだ。


「……まぁ、アンタだけの責任じゃないだろうけどね」

「えっ、何で?」


 呆れかえっていた大仏から意外に言葉が出てきたので不意を突かれた。


「だって山内さんも笹野さんも何も言わないでしょう、アンタのその態度に……普通だったら嫉妬や嫌味の一つぐらい言うわよ」

「……そうだな」

「二人がアンタを甘やかして過ぎなのよ。もっとビシッとキツいこと言われて当たり前なの」


 珍しく真面目な顔で大仏が話すので気後れしてしまい、そのまま黙って再び項垂れてしまった。大仏はキツい口調で続ける。


「でもアンタがそんな態度を続けてると、山内さんもいろいろと言われかねないわよ」

「……なんでだ?」

「だってアンタのことをよく知らない子からしたらただの軽薄で不真面目な奴よ」


 返す言葉がない、大仏の言う通りだ。


「私だって、幼馴染でアンタの性格とか知っていて、アンタ達の関係もある程度分かっているからいいけど、そうでなければそんな関係は引いてしまうわよ」

「じゃあ、どうすれば……」


 ダメージを負い過ぎて立ち上がれそうにない精神状態だ。そんな姿を見て大仏はため息を吐く。


「……大人しくしておくこと。何処で誰が見てるか分からないからね。アンタは山内さんの彼氏なんだから、笹野さんと二人きりになる場面は特にね」

「……」

「……まさかアンタ笹野さんと二人でデートでもしよとしてるとか?」


 大仏が疑うような顔で俺を窺う。


「さすがに……」


 必死に首を横に振り否定する。まだ二人きりで出かけていなが、それ以上にキスとかしてるし……もちろんそんなことは言えない。


「まぁ、それならまだいいか……でもアンタ本当は……」


 何かを言いかけた大仏だったが、ため息を吐いて顔を背けた。


「……何の話?」


 背後から声が聞こえてビクッとなって、ゆっくりと振り返ると美影の姿がある。大仏が何故顔を背けたのか理由が分かった。俺と大仏が会話を止めたのが気になるみたいで不満そうな表情をしていた。


「えっ、い、いや、別にたいした話じゃないよな……」


 そう言って大仏に助けてもらおうとしたが姿がない。そんなに大仏は甘くなかった。都合が悪いと思ったのだろう、気配を消すように逃げていた。


「そう、たいした話じゃないの……でも大仏さんと二人で深刻そうに見えたけど」


 いつもよりキツい口調になって、疑いの眼差しで美影が見ている。視線はかなりキツいけど大仏との会話の内容を話す訳にはいかないので、誤魔化し通すしかない。


「そんな深刻に見えたかな……いつものことだよ。相手は大仏だからな、わけわからんことを言うからなアイツは、ははは……」

「ムッ……」


 こんなことで納得する美影ではない。なにかいい案がないのかと焦っていたが、タイミングよく予鈴が鳴った。


「もう、なんなのよ……」


 ムスッとした顔で美影は仕方なさそうに席へ戻っていった。俺は何も言わずに苦笑いだけして後ろ姿を見送った。


(とりあえずは逃げ切れたかな、でも部活の時に追及されそうだな……)


 大きなため息を吐き、少し気を緩めようとした。学校の一日が始まったばかりなのにかなり疲労度だ。


(……でも大仏の言う通りに当分の間は自重しよう……やっぱり調子に乗り過ぎていたんだ)


 暫く、絢との会う予定はない。次に会うとすれば大会の時だ。偶然に会うこともないだろうし、学年末テストがあるから絢もそんなに余裕がないはずだ。


(クリスマスからいろいろなことがありすぎて……)


 流されている俺が一番悪いに違いないが、この二ヶ月足らずで良くも悪くも少しづつ進んでいるのは間違いないみたいだ。

 放課後は、予想通りで美影の機嫌は良くなかった。でも美影が朝のことを問いただしてこなかったは救いだった。


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