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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
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変わりゆく気持ちと約束 ⑤

 なかなか寝つけないと思っていたが意外と早く意識をなくしてしまった。寝る前に出来るだけ寝返りをしないように意識したが、やはり無理があった。今回は美影と絢の寝た場所が入れ替わっていた。


「ん……また腕の中に……」


 これまで気にしたことはなかったが、癖で同じ方向に寝返りをするのだと気がついた。


「み、みかげだな……」


 意識はまだはっきりしていなかったがすぐに誰だか分かった。でも今回は同じタイミングで美影も目を覚ましてしまう。


「……お、おはよう」


 お互い目が合うけど美影も意識がはっきりしていないみたいだ。絢の時と違って既に間近に美影の顔がある。美影の甘い香りがして、普段も身近な存在なので慣れているはずなのだがこのシチュエーションなので照れてしまう。段々と意識がはっきりとしていくが、身動きが取れない状態だ。美影も意識がはっきりとしてきたみたいだ。


「……えっと、そろそろ……」


 先に動いてもらおうと頼もうとした瞬間に美影の顔が近づいてきて口を塞がれてしまう。柔らかい唇が優しく触れて、これまでより時間を長く感じた。


「ふふっ……おはよう」


 塞いだ唇をゆっくりと離して美影は少し恥ずかしそうな顔をして微笑んでいた。あまりにも可愛い過ぎる美影の笑顔に言葉が出ずにぼーっとしたままだった。


「目も覚めたし、おはようのキスも出来たから、先に起きるね」


 そう言って美影はゆっくりと静かに体を起こした。改めて間近で見る美影の姿は寝起きだったが綺麗だった。パジャマ姿だが、スタイルは抜群なのはよく分かる。


(……本当に俺の彼女でいいのだろうか)


 昨日のことが頭を過ぎる。何も解決はしていない、全て中途半端な状態だ。でも美影は今のこの状況を壊したくないみたいで、絢も反対していない。このまま横になっていたら良くないことばかり考えそうなので起きることにした。


「……ん⁉︎」


 起き上がろうとした瞬間に背中をつままれるような感触がした。振り返ると寝ぼけ眼の絢が手を伸ばしている。


(……もしかしてさっきの美影とのキスに気が付いたのかな?)


 一瞬、焦ったが絢の様子を見てほっとした。まだ目を擦りながら絢の意識ははっきりとしていないようだ。


「……もう……起きるの?」

「うん、そうだよ。美影もさっき起きたから」


 絢は反対側を見て美影が起きていないのを確認する。絢も目が覚めてきたみたいで、何かを思いついた表情になる。


「……じゃあ、おはようのキスして?」

「えっ⁉︎」


 絢の言葉に驚き動揺すると絢は俺の反応を見てムスッとした顔をした。


「……この前は私がキスしたから、今日はよしくんからキスしてよ」

「えっと……そ、それは……」


 絢が意外と本気だったので、オロオロしていると絢はため息を吐き微笑んだ。


「ふふっ、そうね。よしくんからキスしたらダメだよね……」


 何かを察したかのような顔になった絢は一息入れて、自然に顔を寄せてきた。なにが起きたのか分からないうちに絢の唇が軽く俺の唇に触れる。


「……そろそろ治さないとね、よしくんのそのヘタレを、でも簡単にキスしてくれない真面目なよしくんも大好きだけどね」


 唇を離した後に絢が微笑みながら俺の顔を窺っていたが、絢の眼差しは真剣だった。その眼差しに小さく頷くだけで、何も返事をすることが出来なかった。


「さて、そろそろちゃんと起きようかな、みーちゃんも待っているだろうから」

「……うん」


 絢に促されて、俺も起き上がり布団を片付けることにした。後から起きた絢に先を越されることになった。

 朝食を摂った後に、部屋を簡単に片付けて本来の目的だったチョコ作りが始まった。昨日のうちにケーキのスポンジ部分は作っていたので、チョコを溶かしたり別のお菓子を作ったりしていた。美影も絢も料理の腕前以上にお菓子作りもかなりの腕前だった。


「なんで二人ともそんな上手なんだよ?」


 あまりの手際の良さに思わず調理中の二人に聞いてみた。美影と絢は微笑んで顔を見合わせると同じタイミングで答えた。


「それはね、よしくんのためだよ」


 答えを聞いた俺が不思議そうな顔をしていたので、美影がムッとした顔をする。絢はそんな美影の顔を見て呆れたような顔で笑っている。


「……ちょっと甘やかしすぎたかもね」


 美影が怒ったような口調で言うと絢が小さく何度も頷いている。いつものクールな顔をして美影が言うので焦ってしまった。

 夕方には両親が帰ってくるので、あまり時間に余裕がなかったが昼過ぎには予定していたものは全て完成させることが出来た。おかげで家の中が甘い香りでいっぱいになっていた。片付けをした後、三人で作ったケーキや焼き菓子を食べながら取り留めの無い話をして楽しく過ごした。


「そろそろ帰ろうかな……」


 美影がそう言って時計を見ると十五時を過ぎて、時間があまりに経っていたので驚いた。明日は学校があるし、ぼちぼち俺の両親が帰ってくる。


「今日はバス停まで二人を送るよ」


 この後の予定は特にないので、今回はバス停まで行くことにしたが、歩いて五分もかからない。でも美影は送ってくれるのがとても嬉しかったみたいだ。

 三人で一緒にバス停までゆっくりと歩いた。バス停まではあっという間だったが、バスが来るまで時間があったので再び雑談しなが待っていた。暫くするとバスの姿が見えた。


「あっ、バスが来たみたいだな」


「そうね。ありがとうね、よしくんはまた明日ね。あーちゃんは、またね……」


 普段と変わらない雰囲気で美影は俺との別れの挨拶するが、絢とは少し寂しげな感じだ。絢も寂しそうな顔をしている。すぐにバスが到着して美影が乗り込むと俺と絢は外から手を振って見送った。

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