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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
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変わりゆく気持ちと約束 ④

 そのまま黙ってしまい無言の時間が過ぎて空気が重たくなる。絢の表情も少し暗くなってしまう。


「絢が悪い訳じゃないんだ」

「……うん、でも私は浮かれ過ぎていたかもしれない」


 慌てて空気を変えようと声をかけると逆に絢は落ち込んだ顔をして俯いた。絢の姿を見てなんて声をかけたらいいのか分からず動揺してしまう。


「う〜ん、そ、そう中途半端な俺が悪いんだから、絢も美影も悪くないよ」

「……」


 思いつく言葉で伝えようとしたが、絢は俯いたまま黙っている。お互い黙ったままで静かに時間が過ぎていく。


(どうしよう……上手い言葉が見つからない……)


 気持ちばかりが焦って何も出来ない。このまま黙っていても何も解決しないが、下手なことを言ってしまうと取り返しがつかなくなりそうだ。


「……絢?」

「ん……」


 時間が経って落ち着いたのか絢が顔を上げてくれた。


「やっぱり絢のことが好きなんだよ……今でも」

「……うん」


 自分でも意外なことを言ってしまったが、驚くことはなく絢は呟くように返事をして小さく頷いた。


「……でも美影のことも大事なんだ」

「うん……」


 今の正直な気持ちを振り絞るような声で話すと絢は再び小さな声で返事をして頷き、驚いたり感情を表に出すようなことはない。


「浮かれていたのは俺だよ、最低だな……」


 絢の表情を窺い力なく呟いた。こんなことを言えば絢から罵倒されても不思議ではないが、そんな様子はない。


「ううん、そんなことないの……私が好きでいてもらえるようにしたから、だからよしくんは悪くないの」


 首を横に振りながらはっきりとした口調で絢が話す。思ってもみない言葉に唖然としてしまい返す言葉が出てこない。


「そ、そんなこと……」

「……そうなの、でもこの気持ちは嘘じゃないの、本当なの好きな気持ちは……私は今でも変わらず好きなの」


 照れることなく絢がはっきりとした口調だ。目を見れば本気なのは分かる。絢の気持ちに押されて返事が出来ずに若干混乱気味だ。しかし重苦しそな雰囲気だった絢の顔が少し明るくなる。


「……俺は……どう……すれば……」

「うん……今は、このままでいいの……このままの関係でいいの、みーちゃんもそう願っているから大丈夫だよ」


 最後に優しく微笑みながら絢が答えて、黙って頷くことしか出来なかった。でも頭の中が混乱したままで、思考回路がパンクして何も考えられない状況だ。

 しばらく沈黙が続きお互いモジモジした状況になっていたが、お風呂から美影が戻ってきた。美影は俺と絢の微妙な雰囲気を感じたようだ。


「……なにかあったの?」


 心配そうな顔で美影が俺を窺うが、本当のことを言うことは出来ない。


「なにもない、大丈夫だよ」


 心配させまいと平静を装ったが、さすがに美影も簡単に引き下がる訳がない。疑ったままの美影の表情はそれだけ絢との雰囲気が深刻だったのだろう。そんな様子を見兼ねた絢が間に入ってきてくれた。


「もう解決したから大丈夫だよ」

「そ、そうなの……」


 絢の言葉に美影は一瞬驚いた顔をしたが、いつもの表情に戻り頷いた。美影がもう一度俺の顔を窺うとあまり納得はしていない様子だったがそれ以上は追及してこなかった。


「あっ、そうね、よしくんもお風呂に入ってきたら?」


 これ以上は雰囲気が悪くなると気を遣ってくれたのか美影は優しく声をかけてくれた。逃げるようで嫌な感じではあったが今はこれが最善かなと判断して美影の言うことに従うことにした。


(あの表情だと俺がお風呂に入る間に美影は絢にもう一度確認をするに違いない……上がってきた時に変な雰囲気だったらどうしよう)


 しかし俺の心配をよそにお風呂から上がった時に二人は仲良さそうに会話していた。ホッとした反面、後でとんでもないことになるのではないかと心配していた。

 この後もこれまでと変わらない様子で時間が過ぎていった。いろいろなことがあって精神的に疲れたみたいでウトウトしてきた。お風呂上がりは和やかな雰囲気のままだったので余計に睡魔が襲ってきたのだろう。


「ぼちぼち寝ようか?」


 目を擦りながら美影と絢の顔を窺うと二人とも睡魔で限界に近かったようだ。


「……うん、そうね」


 二人はゆっくりと立ち上がり寝る準備を始めた。俺も立ち上がり自分の部屋へ布団一式を取りに行くことにした。今回も三人で一緒に寝ることになっている。事前に聞いていたので特に慌ててはいない。


(美影と絢と話をしてお互い変に意識してしまった後だからな……)


 前回はいろいろとハプニングがあったけど、今回は何もないことを願いたい。一応布団は運んだけど、二人にもう一度確認することにした。


「……いいのか、俺も一緒で?」


 美影と絢が同じタイミングで寝室に戻ってきたので尋ねてみたが、予想外の反応だった。


「なんで?」


 二人が顔を見合わせて不思議そうに首を傾げる。俺の心配は無用だった。美影は優しく微笑みながら少しからかうような口調で話す。


「もうこんな機会はないかもしれないよ。可愛い二人に挟まれて寝るのはやっぱり緊張する?」

「そ、そうだよ……」


 出来るだけ意識しないようにしていたが、美影の言葉で急に緊張して慌ててしまった。そんな俺を見て絢がクスッと笑っている。前回は絢が一番の原因で大変だったので、ムッとした顔で絢の頬っぺたを両手で軽く引っ張ってやった。美影が隣で笑っている。俺が手を離すと今度は絢がムスッとした顔をしていたが、俺は無視して布団を引く準備を始めた。


「……もう、覚えてなさいよ」


 絢が俺に聞こえるように呟いていたが、表情は怒っている訳ではなく優しく微笑んでいた。二人の様子は特に変わった雰囲気ではなかったので俺の心配は必要なかった。

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