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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
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変わりゆく気持ちと約束 ①

 美影と絢に荷物を置いてくるように伝えると二人とも迷うことなく準備している部屋に向かった。暫くしてリビングに二人が戻って来た。


「あっ、適当に座っていて……」


 俺は前もって準備をしていたコーヒーを淹れていた。


「……いい香りだね」


 美影が香りに反応して嬉しそうな顔をしている。前回は美影と絢に作ってもらってばかりだったが、今回は事前に分かっていたのでマスターにお願いしてコーヒー豆を準備をしてもらっていた。


「いい香りするだろう、マスターから分けてもらったんだよ」

「わぁ、凄いわね。お店で飲むのと一緒ってことだね」


 絢が嬉しそうな声をして準備をする俺の姿を見ている。普段のバイトでしていることだがジッと見られると少し恥ずかしい。いつの間にか美影も同じように見つめている。俺は照れながら準備を進めた。


「……出来たよ」


 二人はリビングにあるテーブルの席に座っている。俺は二人の前に淹れたてのコーヒーを並べて、椅子に座った。


「ありがとう、よしくん」


 美影と絢が声を合わせ、嬉しそうな表情を浮かべている。俺としてはたいしたことをした訳ではないが予想以上に喜んでくれたこの瞬間が凄く幸せを感じていた。


「それで、今日は何を作るんだ?」


 俺がコーヒーを一口飲み、美影と絢に問いかけた。美影と絢も飲みながら俺の話に耳を傾けて、お互いに顔を見て頷いている。


「……う〜ん、それは秘密だよ。でもお正月の時より手の込んだ料理を作るよ」

「うん、今回はみーちゃんと話し合って、ちゃんと材料も買って来たから、期待してね」


 絢が自信満々な顔をしていて、美影も同じような顔でうんうんと頷いていた。


「……分かった、楽しみにしてるよ。キッチンは好きに使っていいから」

「うん、ありがとう」


 頷いて答えると、二人とも笑顔でやる気の表情になっていた。確かに明日のケーキを作る為の材料を除いても買い出しの量からするとかなり期待が出来るはずだ。

 コーヒーを飲みひと息ついたところで早速美影と絢は料理に取り掛かり始めた。俺はその間やりかけていた写真の編集をすることにした。

 美影と絢は楽しそうに会話をしながら調理をしている。二人の料理の腕前はお正月に美味しく食べたので全く問題ない。楽しそうに会話している声を聞きながらノートパソコンに向かっていた。


(やっぱりなんか変な感じだな……美影と絢が一緒にキッチンに立っている姿は……)


 編集の作業もほぼ終わり、ぼーっと二人が調理している姿を眺めていた。


(美影だけなら誰でも納得するだろう、でも絢も同じ場所に立っている)


 お正月の時は舞い上がっていたので深く考えていなかった。この光景に慣れたのか、冷静な気持ちで考えてみた。


(普通じゃないよな……誰がどう見ても……)


 美影は彼女で絢は……中学時代に付き合ってはいなかったが周囲から見れば彼女同然だった。その二人が一緒に俺の家で料理を作っている。


(……美影はどう考えているのだろうか?)


 美影を見ているいと何かの拍子で顔をこっちに向けたので、思わず目が合ってしまった。


「どうしたの?」


 状況が見えない美影はキョトンとした顔をしているが、俺の視線が何かを訴えているように見えたのかもしれない。焦ってしまった俺は、美影の考えを聞いた時にどんな答えを出されるのか想像がつかなかった。


「えっ、いや、な、何でもないよ」

「本当に……何でもないの?」


 動揺して返事をしたの筒抜けで美影は疑った顔をしていた。でもここで美影に本当のことを問いただす訳にもいかないので、首を左右に振り何もないことを強調した。俺の顔色を窺い美影は納得していない表情だったがあきらめたみたいでムッとした顔をしていた。


「ふふっ、みーちゃん大変だね……今回はよしくんが悪いよね」


 美影と俺の様子を見ていた絢が笑みを浮かべて間に入ってきた。絢の言葉に美影は同意して何度も頷いている。


「……なんか分が悪いな」

「だって私はみーちゃんの味方だからね」

「うん、やっぱり、あーちゃんだよね」


 俺の愚痴に対して絢は当たり前のような顔で答えると、美影が嬉しそうに絢に抱きついてきた。二人の仲睦まじい様子を見て、ほっとしたような気持ちになる。絢のおかげで美影の機嫌が戻ったみたいだ。美影と絢を見ていて一年前に再会した感じではなく、もっと長い間一緒にいたような雰囲気がする。


「二人とも、本当に仲が良いな……」

「ふふっ、もしかして羨ましい?」


 俺の呟きに美影がからかうよな口調で返事をして、絢も美影と同じような表情で微笑んでいる。


「……いや、そういう訳じゃないけど何でそんなに仲が良いのかなって思ってね」

「う〜ん、あーちゃんは私のかけがえのない親友で、よしくんに会うきっかけを作ってくれたのもあーちゃんなんだよね」

「……そうなのか」

「うん。あーちゃんがあの時に友達になってくれたから今の私があるの……あーちゃんがいろいろと私の世界を広げてくれたの……」


 懐かしそうな表情で美影が話している隣で絢は恥ずかしそうに俯いている。


「……みーちゃん、そんな……」


 絢も改めてこの話を聞くのは初めてなのかもしれない。以前、絢が中学一年の頃まで美影と連絡を取り合っていたと言っていた。俺が美影との記憶があるのは高学年になった頃までで、過去に見た写真もその頃のものだった。

 美影と絢の仲がここまで良かったのは俺が知らない間もずっと繋がっていたからだろう。改めて記憶を整理していくと美影が絢に信頼している理由が見えてきた。


「でもこの前も言ったけど、あーちゃんに再会できたのはよしくんのおかげだからね。もしよしくんと出会わなかったら、あーちゃんと会う機会はなかったよ」

「……そうね」

「あっ⁉︎ あーちゃん、時間が……」

「本当だ、そろそろ始めないといけないわね」


 美影と絢が時計を見上げると慌てた様子で晩御飯の調理を再開しようとしていた。

 話の続きが気にはなったが、二人の言う通りこのまま時間を押してはいけないし、時間はたっぷりとあるのだから聞くチャンスはあるのだからとりあえずここまでしようとした。

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