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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
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北の大地と修学旅行 ⑤

 美影を先頭にイベントの冊子を見ながら歩いている。いつもと違い制服姿で、更に見知らぬ土地を三人で歩いているのは違和感がある。


「良かったな、予定通り合流出来て」

「そうね、でもなんか不思議な感じだよね……」


 美影も同じような感覚だったみたいで、絢も小さく頷いている。


「みーちゃんから話を聞いた時にすごく驚いたよ。まさか本当に実現するとは思ってもみなかったわ」

「うん、そうね、私もあーちゃんに言ったものの、不安だったわよ」


 二人の話を聞きながら、よく思いついたなと感心していた。美影は嬉しそうに俺の顔を窺っている。


「でもね……よしくんがいたから出来たんだよ」

「うん。みーちゃんの言う通りだね」


 美影と絢がお互いの顔を見て笑顔で頷き合う。俺だけポカンとした顔で二人を見ていた。


「じゃあ、俺がいなかったら……」

「……あーちゃんと再会することはなかったじゃないかな」


 美影が当たり前のような顔で言うと絢も「そうそう」と何度も頷いていた。俺は呆気にとられたような感覚になった。


(そうだよな……俺がこの高校入学して美影に出会って仲良くなったから、美影と絢は再会することが出来たんだ)


 これまで全く考えたことのなかったことだ。もしかするとこのことが美影の俺と絢に対する言動の一因なのかと考えた。でもなんとなくだけど気持ちが少しだけ晴れたような気がした。

 美影と絢がそれぞれイベントの冊子を見ながらいろいろと回り楽しだが、残りの時間も少なくなってきた。


「じゃあ、最後にあのタワーに登ろうよ」


 美影がライトアップしているタワーを指差す。


「うん、いいよね」


 俺が頷こうとすると絢は即答をして俺の顔を見る。何かを言いたそうな表情をしていた。美影は気が付いていない様子だった。


(なんだろう……さっきの絢の表情は?)


 タワーの入り口に行くとやはり人が多かった。展望台まで上がるチケットを購入するとエレベーターで最上階まで上がる。エレベーターは混雑していて俺は美影と絢に挟まれ形で密着した状態だった。お正月の件もあったので変に意識してしまい一人だけ焦っていたが、美影と絢も意外と照れているような気がした。

 最上階に着くとここもかなり人が多かった。展望台なので照明も薄暗くて逸れそうになりそうだ。


「三人で手を繋ごう」


 美影が俺と絢に提案する。美影を真ん中に絢と美影が手を繋いで美影と俺が手を繋ぐと思っていた。

「……えっ⁉︎」


 予想に反して俺が真ん中だった。美影はすぐに俺の手を取って、絢は戸惑っていたが美影に促されるようにして俺と手を繋いだ。室内が薄暗いので絢の顔色は分かり難いが、少し照れた仕草をしているように見えた。

 手を繋いだことで逸れる心配がなくなり美影が先頭で景色の見える窓側に進んで行った。


「わぁ……すごいきれい……」


 美影が着いた場所は角度的に一番見晴らしのいい夜景が眺められた。絢も手前に移動して美影と同じように呟いていた。


「……さすが、きれいだな」


 俺も二人の背後から夜景を眺めていた。美影は透かさずスマホを取り出し夜景をバックに三人で写真を撮ろうとする。この短い時間の間にかなりの枚数の写真を撮っている。


「撮りすぎじゃないか?」

「う〜ん、そうでもないよ。まだ撮り足りないぐらいだよ」


 美影は笑顔で答えた。三人揃って写真を撮る機会は最近は多いような気がする。この前のクリスマスやお正月もチャンスがあれば美影は写真を撮っていた。


(この前、美影が中学の時の写真を見て羨ましそうにしていたからな……)


 記念にしておきたい気持ちは分かる。ふと中学の修学旅行に絢と二人並んで写真を撮ったのを思い出した。


(あの時は夕方のタワーの上からだったよな、それで絢が登る前に言いかけたのかな?)


 絢が手招きをして呼んでいる。美影の姿が見えないと思っていたらすぐ側でクラスメイトと会話をしている。


「……なんだ?」

「ねぇ、覚えてる?」


 絢がはにかんで笑みを浮かべている。俺はすぐに察しがついた。


「あぁ、懐かしいな、さっき思い出したよ」

「ふふっ、あの写真を私はずっと大事に部屋に飾っていて、お気に入りなの、また新しい写真が欲しいなと思ってね」


 手際良く景色をバックにして絢が俺に近づき顔を寄せて写真を撮る。一瞬、絢の柔らかい頬が触れて焦った。


「……いきなりだな」

「もう慣れてきたから、ほら、見て上手に撮れてるでしょう。後で送るね」


 すぐに自慢げに俺に見せてくれた。写真ぐらい美影は何も言わないに違いないが、最近の絢との関係を考えると少しだけ罪悪感が残った。美影の姿を探していると絢が小声で呼びながら指で俺の背中を突いてきた。


「……これ受け取って」


 振り返ると絢が小さなな紙袋を渡してきた。


「ん……何これ?」

「前に言っていたお揃いのキーホルダーよ、やっぱりみーちゃんの前では買い難いから……」

「えっ、でも……」

「あの時はよしくんが買ってくれたから今度は私が買う番なの、だからいいのよ」


 そう言われて思い出した、あの時は時間がなくて俺がまとめて払って一つを絢に手渡していた。


「分かった……ありがとう」


 俺の返事に絢は安心した表情をする。俺は絢から貰った小さな袋を上着の内ポケットしまった。嬉しかったが、また一つ罪悪感が生まれてしまった。話終わった美影が俺と絢の所へ戻ってこようとしている。


「……きっとこの後にみーちゃんが三人でお揃いの物を買おうって言うはずよ」


 自信満々な顔をした絢が言った通りに美影が戻ってきた時の第一声が絢の予想していた言葉だった。

 俺と絢が笑っているのを美影が不思議そうにしていたが、段々と拗ねた顔になっていた。理由を言うと少し怒っていたが、最後は笑顔で三人お揃いの小物を購入した。

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