表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
171/237

北の大地と修学旅行 ④

 修学旅行の三日目、昨日の夜は疲れていたので夜更かしすることなく就寝した。おかげで今朝は美影の機嫌がすこぶる悪くて志保に珍しく八つ当たりしている。


「いいな……今日もよしくんと一緒で!」

「もう仕方ないでしょう……」


 志保が睨むように振り返り俺をジッと見ている。志保の視線に耐えられずに言い訳をする。


「……だって眠たかったから」

「もう、由規が頑張って起きていればよかったのに‼︎」


 志保が愚痴るように言っていたが、今更俺にはどうしようも出来ないので諦めていた。とりあえず俺は美影にひとこと謝り機嫌を直してもらった。


(この調子で今日の約束は無事に迎えられるのだろうか……)


 不安な気持ちを持ったままスキー実習に臨んだ。さすがに実習中は滑ることに必死で他のことを考える余裕がなかった。努力の甲斐があってなんとか様になる程度は滑れるようになった。滑れるようになったところで今日は早めに終了した。

 昨日と同じように宿泊先に戻る時に志保がスキーのことでも話すのかと思っていたら、予想していないことを聞いてきた。


「……夕方の自由時間のことだけど」

「なんだよ、美影から聞いていないのか?」

「ううん、知ってるよ……その……由規はどう考えているの?」


 志保が真剣な顔をしていた。これまで志保は美影と絢と俺の関係についてはあまり触れてこなかった。今日は曖昧なことを言って逃げようとしても志保のことだから見逃してくれそうにない雰囲気がしていた。


「どうって言われても……今はこの微妙なバランスを壊さないようにしたい……もう少しだけ」

「……う〜ん、やっぱり由規のことだからそんな答えになるよね」


 真剣だった志保の表情が緩んで呆れたような顔に変わる。想定内の答えだったみたいでそれ以上は深く追及してこなかったが、ひとつだけ釘を刺してきた。


「美影を裏切るようなことだけはしないでね」


 その言葉を聞いた時に志保が絢とのことを知っているのかと背筋が一瞬凍った。


 まだ夕方だけど外は既に暗くなっている。バスで移動して市街地の大通りの公園で行われている祭りの会場に到着した。これから三時間程の自由行動になる。集合場所と時間を先生から確認してそれぞれ移動し始めた。

 俺は美影と一緒に絢と約束している場所に移動をしている。普段なら一緒にいる美影と志保だが、今回も志保はやはり断ったみたいだ。美影は誘っていたみたいだが、志保は別の友達と散策するみたいだ。


「……この辺りか?」

「うん、やっぱりまだ来てないみたいね。さっきちょっと遅れそうって連絡があったから」


 俺が周辺を見回していると美影が残念そうな表情をして答えた。絢達の学校は今日が修学旅行の初日だ。若干遅れ気味の日程になっているのだろう。


「すぐに来るだろう」


 俺が呟くと美影は小さく頷いた。日が落ちて気温もかなり下がっている。もちろん防寒対策はしているので待っていても問題ない。


「……ちょっとだけ手を繋いでもいい?」


 恥ずかしそうな顔をして美影が俺を窺う。修学旅行に来てほとんど一緒にいる時間はなかった。普段の学校では当たり前のように隣りに美影がいるが、この数日は違っていた。


「いいよ……」


 そう言って俺は美影の手を取り繋いだ。お互い手袋をしているが感触は伝わる。

 美影は何も言わないが嬉しそうな顔をしている。特別なことをした訳ではないけど、なんとなく幸せな気持ちになっていた。美影の表情を見て志保が数時間前に言った言葉を思い出す。


(寂しかったのかな? この笑顔を裏切らないようにしないと……)


 繋いだ手を少しだけギュッと力がこもった。

 間もなくしてから待ち合わせにしている周囲に絢の学校の生徒を見かけるようになった。


「絢は一人なのか?」

「うん、そうみたい」


 どうでもいいような問いかけに笑顔で美影が答えてくれる。当たり前のようなことで少し反省をする。


(俺は何を言っているのだろう、白川がついて来る訳ないよな……)


 変に緊張していたのか心の中で呟いた。

 暫くして少し離れた所から小走りに俺達に向かって来る絢の姿が確認出来た。美影も気が付いたみたいで大きく手を振り出した。手を振る時に繋いでいた手はどうするのかと思っていたが離す様子はなかった。しっかりと繋いだままだった。


「ごめんね、遅れてしまって」

「あーちゃんが悪い訳じゃないからね」


 美影は嬉しそうな顔で絢と会話を始めた。これまで制服姿でお互い会うことがほとんどなかったのでこうやって三人で会うのは新鮮な感じがする。


「よしくんも久しぶりだね……みーちゃんと同じ制服を着ている姿を見るとやっぱり羨ましいな」

「でも周りから見たら不自然なグループに見えるだろうな」


 絢の言葉になんて答えたらいいのか迷ったので少し話を変えて返事をした。絢は俺の返事に不満だったのか少しだけムッととした表情をしていた。美影はここで開催しているイベントの冊子を開いて、絢に問いかける。


「どこから回ろうか?」

「う〜ん、そうだね……」


 絢はすぐに表情を変えて何事もなかったように楽しそうに美影と話し始めた。俺は二人が楽しそうに話している姿を眺めていた。


(やっぱりこの二人の関係を壊してはいけない……まだ焦って答えを出すことは出来ないな)


 言い訳がましいことを考えいると美影が声をかけてくる。俺の考えを見透かされたみたいで一瞬焦ってしまう。


「ねぇ、よしくん……」

「……えっ⁉︎ あっ、どうした?」

「ほら、こっちに来て一緒に考えてよ! 時間がないの!」


 美影は無邪気そうに手招きしていたので、俺はひとつ息を吐いて美影と絢の輪に加わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ