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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
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北の大地と修学旅行 ③

 修学旅行の二日目、朝からスキー実習の予定になっている。昨日の夜は大仏との会話が頭に残っていてなかなか寝付くことが出来ずに寝不足気味だ。


「……大丈夫?」


 実習が始まる前に美影が心配そうに話しかけてきた。出来るだけ顔に出さないようにしていたが、美影はすぐに気が付いたみたいだ。


「あぁ、問題ないよ」


 そう返事をしたが美影はまだ心配そうな表情をしている。一緒にいる志保は気にしている様子はない。


「由規が問題ないって言ってるから大丈夫だよ」

「……うん、そうね……」


 美影はまだ納得した顔をしていない。多分、美影は寝不足の理由が気になっているのだろう。


「あっ、そろそろ集合の時間みたいね」


 志保がそう言って美影と俺は頷き、志保と俺は同じ方向に移動するが美影は違う方向に移動になる。別れ際に少し寂しそうな表情を美影がする。俺と志保は初心者のコースでスキー経験のある美影は中級者のコースになる。もう一度美影に手を振って、志保と一緒に集合場所に向かう。


「美影……なんか寂しそうだったな」


 俺がぽそっと呟くと、志保がニヤッとからかうような笑みをする。


「心配?」

「えっ、いや、そういう訳じゃないけど……」

「ふふふ、昨日の夜、美影がすごく残念そうに話していたわよ、由規と一緒に滑りたかったみたいで」

「……そうか」


 こればかりは仕方ない、俺は初心者で全く経験がないので滑り方さえ分からない。美影は小さい頃から家族でよくスキーに行っていたようでそれなりに滑れるようだ。


「もう……だからめちゃくちゃ羨ましがられたわ」


 志保も同じく未経験で全くの初心者だ。なので俺と同じ初心者コースになった。


「そんなこと言われても……でもお互い頑張って滑るようになろう」


 困惑したような顔をしたが、とりあえずは滑れるようにならないといけないので志保を励ますように話をした。

 午前中は基礎中の基礎の練習だった。たいした練習ではないが、初心者なので慣れない動作で戸惑ったりして昼休みにはかなり疲労していた。緊張感と普段使わない部位に力が入っていたのか部活より疲れたような気がした。

 午後からは少しづつ実際に滑る練習になった。やはり無意識にかなり緊張していたみたで、終わり頃にはかなりヘトヘトだった。


「さすがに疲れたわ……」


 一日目の実習が終わり片付けをしていると疲労困憊な顔をしている志保がやって来た。


「……多分、今晩は熟睡出来そうだ」

「さすがに私もすぐに寝てしまいそう」


 お互い顔を見合わせて疲れた表情で笑っていた。片付けも終わり宿泊先のホテルに戻るが、美影達のグループは先に帰っていたようで、俺達の初心者コースは終わるのが遅かったみたいだ。


「そういえば志保とこうやって丸一日一緒で話をするのは久しぶりだな」

「ふふふ、本当だね」


 帰りの道中に志保とバスで一緒に座っていた。志保はなんとなく嬉しそうな顔をしていた。


「ん……疲れている割には機嫌が良さそうだな」

「そ、そんなことないわよ、めちゃくちゃ疲れてるわよ」


 俺がからかうように言ったので志保が口を尖らせてムッとする。


「ははは、ごめんごめん……」

「怒ってないよ、もう……」


 こんな雰囲気で会話するのは、一年の夏に怪我をして一緒にリハビリをしていた頃を思い出した。


「……ホント、あの時に志保がいたから今の俺があるからな」

「な、な、なに突然⁉︎」


 俺の独り言に志保がびっくりした顔をしてみるみる顔が赤くなっていった。思い出して無意識に言っただけなので志保の様子に驚いた。


「どうしたの?」

「どうしたのじゃないわよ、もうそれなら何で私と……いや、それは言ってはダメね。私が決めたことだから」


 俺の何気ない返事で少し冷静な表情になった志保は何かを言いかけて、キュッと顔を引き締めるよに呟いた。これ以上は触れないのがいいような空気になったので、俺は黙って外を眺めるフリをしていた。


「……由規のバカ」


 何も言わない俺の様子を見て志保がため息を吐きながら小さく呟いた。なにか地雷でも踏んだような雰囲気になった。暫く黙っていると、知らないうちに室内の暖かさと疲労感で眠ってしまっていた。時間にして十五分ぐらいだった。


「……着いたよ」


 志保が優しく囁いて起こしてくれた。気がつくと思いっきり志保にもたれかかっていて、顔が間近にあって志保の顔は赤くなって照れた表情をしている。


「ご、ごめん。重たかっただろう」


 慌てて体を起こして謝ると、志保は首を左右に振る。


「……大丈夫だよ、ちょっとだけ恥ずかしかったけどね。ほら、降りる準備してよ」


 志保は恥ずかしさを隠すように荷物を棚から下ろそうとしている。後ろの席の座っていた人が降り始めているのを見て俺も急いで準備をした。バスから降りると、志保は普段と変わらない表情になっていて、俺を手招きして呼ぶ。身長差があるので俺は少し腰を落として志保の話をきこうとすると耳元に近づく。


「由規、さっきのことは美影に黙っておいてあげるよ」

「え、えっ⁉︎ あ、あっ、待って……」


 油断していた俺は志保の行動に驚き、焦っていると志保は嬉しそうに笑みを浮かべて足早に部屋に移動しようとしていた。俺はその場に立ったままでいると、背後から背中を押されてしまった。


「なにしてるの? こんな所で止まっていたら邪魔よ!」


 大仏も同じバス乗っていたようで、俺の横を通り過ぎようとしていた。


「わ、悪かったな」

「あら、また何かあったの?」

「お前は……もういい」


 大仏のわざとらしい言い方にカチンときたが疲労感がドッと出てきたので言い返すのをやめた。俺の悔しそうな顔を見て大仏は鼻で笑っていた。

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