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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
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北の大地と修学旅行 ②

 自由行動が始まって小一時間が過ぎたが、特に変わったことはなかった。芳本と美影の様子も普通に会話して仲良さそうな雰囲気だ。


「取り越し苦労に終わりそうだな……」

「ははは、そうだな」


 皓太が安心した表情で話しかけてきたが、不安がない訳ではない。俺と皓太は四人の後方から様子を眺めながら移動していたので会話の内容までは分からないからだ。


「楽しんでるかな?」

「えっ⁉︎ ……う、うん」


 考え事をしていたので志保に不意をつかれた。俺の驚いた顔を見て志保がクスッと笑っている。


「本当に? ずっと難しい顔してるよ……ふふふ」

「そ、そうかな……」


 志保は俺の心の中を見透かしているような顔をして笑みを浮かべていた。俺は苦笑いをするしかなかった。


「そんなに美影と芳本さんの様子が気になる?」

「い、いや、そんなことはないけど……」

「けど、って何? 気になるんでしょう」


 俺の曖昧な返事にイラッととしたのか志保の口調が強くなった。後ろめたいことがない訳ではない。それ以上言い返すことが出来ないので「うん」と小さく頷いた。


「……美影が『今はなにも変わらないから大丈夫』って笑顔で言っていたから……問題ないみたいだよ」

「……そうか」


 志保が微笑しながら呟くように答えた。俺は志保の笑みに違和感を抱いたが追及はしなかった。


(もしかして志保は知っているのかも、美影の想いを……)


 余計にいろいろなことを考えていたからか、難しい顔をしていたようだ。


「これで安心したでしょう。ほら……もう少し楽しそうにしなさいよね」


 志保は明るい笑顔でそう言って俺の腕を引っ張り美影達がいる方へ向かった。

 美影達に追いついたが楽しそうな顔をした志保はいつの間にか腕を絡めてまるで仲良しカップルみたいな状態になっていた。しっかりと腕を組んでいたので、志保の体と密着していたので俺は照れた顔なっていたみたいだ。


「……志保、私が目を離している隙に何しているのかな?」


 美影が俺と志保の姿を見てゆっくり落ち着いた声で話しかけた。怒っているように見えたが、目は本気でなかったので安心した。


「ふふふ、由規がつまらなそうな顔をしていたから少し元気付けてあげようとしてたのよ」

「……そうなの、ありがとう」

「じゃあ、もう少しいいかな?」


 そう言って志保が俺の腕をぎゅっと引き寄せて、更に顔と顔が触れ合いそうになった。志保はからかうつもりだったはずなのに、少しだけ本気な気がした。余裕ある表情していた美影だったがさすがに少しムッとした顔になる。


「……駄目よ!」


 美影のキツい一言に志保は何かを察したのか、スルッと腕を外した。


「もう冗談よ……」


 志保は笑みを浮かべているが、美影はまだムッとしたままだ。しかしすぐに志保と美影が会話を始めたので、様子を眺めていた芳本が呆れた顔で俺を見始める。


「宮瀬くんは中学時代から変わらないね……本当に大丈夫? 確かにこれだと由佳が怒る理由も分かるような気がするわ」

「な、なんだよ、その理由って……」


 芳本がため息混じりにジッと俺を見ているので、圧力に負けそうな雰囲気だった。聞き返してもこれまで大仏や白川から繰り返し言われたことを言われるに違いにない。芳本も絢と俺の関係を知っていて、皓太を通して美影との関係も知っているはずだ。


「皓太から聞いていたけど、山内さんは不思議な人よね……美人で賢くて、性格も良くて、何で宮瀬くんの彼女なのかね?」

「……皓太の幼馴染じゃなかったら、怒っているぞ」


 呆れた表情で嫌味を言い始めた芳本を今度はおれがジッと睨むが、俺の性格を知っているのであまり効果がない。


「……絢も何でかな……で、宮瀬くん。本当のところはどうなのよ? あっ、こ、こら逃げるな!」


 急に真面目な顔をして芳本が真相を突いてこようとした。俺は絢の名前が出てきた時点で嫌な予感がしたので逃げる準備をしていた。芳本の大きな声に美影が反応して芳本を止めようとする。

 皓太がいる所に移動すると、空知が一緒にいた。焦った俺を空知は不思議そうにているが皓太は呆れ顔をしていた。


「大変だね、宮瀬くん」

 ぽつりと空知が呟いた。空知も皓太経由でいろいろと聞かされているのだろう。さすがに俺もおとなしめな空知に呟かれたのはショックだった。

 結局、美影と芳本の間でこれといって問題もなく、逆に仲良くなったみたいで、宿泊先に行く途中で美影が嬉しそうに教えてくれた。俺としてはまた悩みの種が増えたような気がした。

 宿泊先のホテルに到着して、夕食と入浴を済ませて就寝時間まで自由時間があった。クラスメイトの男子が集まっていつものように無駄話をしていたが、絢から突然メールが来たので部屋から出ることにした。


「あれ⁉︎ アンタこんな所で何してるの?」


 メールの返事を入力していた時に背後から声をかけられて振り向くと大仏がいつも通りの愛想のない顔で立っていた。


「おぉ、なんだお前か……」

「なんだとは失礼ね。アンタはコソコソと何してるのよ」

「べ、別に、コソコソしてないし……お前こそ何でここにいるんだ?」

「アタシは飲み物を買いに行った帰りでアンタを見つけたの……」


 大仏がそう言った後に俺のスマホにメールの着信音が鳴る。俺が慌てた素振りをすると、大仏はため息の様に大きく息を吐く。


「……アンタ、まさかその相手は……」

「な、なんだよ、俺はただ、へ、返信をしているだけでな、なにもないぞ」


 噛みながら返事をしてしまい動揺しているのがバレバレだ。大仏は冷たい目で俺を見ている。


「山内さんは何故笹野さんとアンタのことを放置しているのか分からないわ、アンタもどうなの、何とも思わないの?」


 遠慮を知らない幼馴染は直球で来た。他の友達は遠回しに話してきたがやはり大仏は違う。さすがに俺もストレートに聞かれると返事のしようがない。


「……思わないことはないけど……」

「まぁ、アンタに言っても答えを持ってる訳ないのは分かっているけど、どうするのよ」


 大仏がため息を吐きながら、俺の顔を睨むように腕組みをしている。大仏の視線に耐えられずに俺は俯いて弱々しい口調で答える。


「……どうするって言われても、とりあえずは今のままで続けていくしかないかな……」

「でもそれもそろそろ限界よ、もうすぐアタシ達は三年生なるのよ。先延ばしにしていくのも無理が出てくるわ」


 そのことは俺自身も分かっていたので、大仏の言葉に頷くしかなかった。でも今はまだ踏み出すことが出来なかった。


「さすがにアンタも分かっているみたいだけど……ここで責めても仕方ないし、アタシには関係ないからこの辺でやめておくわ」


 そう言って大仏は機嫌悪そうに部屋に戻って行った。絢から来たメールは、「また明日」と返信することしか出来なかった。

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