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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
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三学期と反省 ①

 お正月が終わり、普段と変わらない生活になった。部活も再開されて次の新人戦の予選と県大会に向けてハードな練習になった。

 美影は普段と変わらない様子だ。お泊まり会は三人の秘密という事で話題にしなかった。ただ練習で事情を知っている皓太は俺だけハードに相手をしてきた。

 新学期が始まり、いつものように登校して学校の坂道を自転車で押して上がっている。前方に大仏の姿が見えた。スルーして行きたかったがやはり無理だった。


「……久しぶりね。でも今、アタシから逃げようとしなかった?」

「そ、そんなことはないぞ」

「そう……なんかやましいことがあるから逃げようとしたんじゃないの?」

「……やましいことなんかないぞ」


 何かを知っていそうな顔で大仏は俺の顔を窺ってきたので、反射的に俺は顔を背けた。


「じゃあ、大晦日にアンタと山内さんと笹野さんの三人でいたわよね?」

「な、な、なんで知っているんだ……見つかってないはずなのに……」

「アンタ馬鹿ね。バレないと思ってたの?」


 ガクッと肩を落として、あの時の気苦労はなんだったのかと悲しくなる。


「あっ、でも、やっぱり白川も知っているのか?」


 俺はあの時に絢が白川に見つかるのを嫌がったことを思い出した。


「……多分知らないはずよ。少なくともアタシは言ってないわ」

「そうか、よかった……」


 意味深な笑みを浮かべている大仏だったが、俺は少しだけ大仏に感謝した。


「それに二日の昼頃にも近所でアンタ達三人の姿を見かけたけど、いったい何をしていたの? その後また家に戻ったみたいだけど」

「……お前、何処にでも現れるな」


 もう呆れるしかなく言い逃れをする気も失せてしまった。


「アタシをゴキブリみたいに言って……どうせアンタの家にでも泊まってたんでしょう」

「……」


 なにも反論することがない俺を見て大仏は勝ち誇った顔をしている。


「まぁ、アンタのことだから二人には手を出すこともないだろうし……」


 大仏はさも当たり前のように話していたので聞き流せばよかったのだが、何故か俺がいつもと違う反応をしてしまった。それに気がついた大仏は更に追及をしてくる。


「……ん、なに⁉︎ 何かあったの?」

「いや、なにもないはず……」

「なによ、『ないはず』って? どういうことよ」


 大仏は目の色を変えて迫ってくる。タイミングよく平坦な道になったので、俺は急いで自転車に乗り逃げるように大仏の元を去った。

 なんとか大仏より先に教室に着いたので、今日のところはこれ以上追及されないだろう。美影は既に登校していたので慌てて教室に入る俺を見て不思議そうな顔をしていた。


 始業式が終わり、美影と教室に戻ろうとしていると元気な声が聞こえてきた。


「センパイ、久しぶりです‼︎」

「おう、久しぶりだな」


 すぐに声の主は恵里だと分かった。相変わらず目立つ存在だ。


「そう言えば、センパイなんで大晦日に山内センパイと笹野センパイと一緒にいて翌日の午前中も三人で揃ってお参りに行ってたんですか?」


 美影と俺は顔を見合わせて驚く。


「なんで知ってるの?」

「たまたま見かけただけですよ。それに大晦日の日は一緒に帰ってましたよね?」


 恵里はなにかを窺うように俺と美影の顔を交互に見る。さすがの美影も顔色が赤くなりいつも勢いがない。


「えっと、それは……」

「も、もしかして……い、いけないのことでもしたのですか?」


 俺が答えようとしたら、恵里が目を丸くした顔で割り込むようにいつも以上の威勢で遮ってきた。美影は恵里の言葉を聞いて慌てたように反論する。


「そ、そんな枡田さんが考えてるようなことはないわ。ただ一緒に泊まっただけよ……」

「あっ⁉︎ 美影……」


 美影の口を手で押さえたが遅かった。我に帰ったのか美影も真っ赤な顔をして俯いてしまう。恵里は予想外の答だったのか、今度は恵里が驚いた顔をした。


「……センパイ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなかったの……」


 美影の反応を見て、恵里は申し訳ななそうな顔をしている。恵里のお詫びの言葉を聞いて、美影は落ち着いたみたいで顔を上げる。いつもの冷静な表情に戻った美影は恵里に優しく声をかける。


「ううん、いいのよ。興奮した私が悪いのよ」


 美影の言葉を聞いてもう一度恵里は美影に頭を下げて謝っている。

俺は周囲を見て、知り合いがいないか確認をして、他の生徒もあまりいなかったので安心した。恵里は目立つから、またいろいろと噂話になっても困る。

 一応、誤解が解けて恵里とは笑顔で別れて、俺達は教室に戻ろうとしていた。


「目立つのかな……」


 教室に戻る途中で思わず俺が呟いてしまったので、美影は「う〜ん」と言って頭を捻っていた。確かに、初めの頃は三人で遊びに行った時に周りの視線を感じていた。しかし最近は慣れてしまったのか全く気にしなくなっていた。隣を歩いている美影を見る。


(……やっぱり目立つよな、美影は美人でスタイルもいい、絢も可愛いから二人が一緒だと……)


 俺は大きく頷き納得した顔をした。


(これからは今まで以上に注意しないといけないな……でもこのままではいけないよな)


 今度は少し落ち込んだ気持ちになる。気がつくと美影が心配そうな顔で見ている。


「……大丈夫? さっきからコロコロと表情が変わってるけど、何か悩みがあったら言ってよね」

「うん。分かってるよ」

「ふふふ、私はよしくんの彼女なんだからね」


 美影は嬉しそうな顔をしている。微笑む美影の顔を見て俺は心がチクッと痛んだ。美影が言うとことは間違っていない、美影は俺の彼女で周りの友達もそう思っている。


(やっぱりこれって浮気になるよな……)


 美影の知らない絢との秘密を作ってしまったのだ。もし秘密がバレてしまうと本当に三人はバラバラになってしまい取り返しのつかないことになる。


(ここで悩んでいると美影がまた心配するな……)


 笑顔で美影は隣を歩いている。俺はこの笑顔を壊さないようにしないといけない、大きな不安を作ってしまった。

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