お正月とお泊まり ⑤
準備ができて玄関で待つこと数十分、やっと美影達がやってきた。
「……遅いよ」
思わず愚痴が出てしまった。
「女の子はいろいろと準備がいるの……もう、急に言うから……ねぇ……」
美影がムッとしたような口調で、絢も隣で同じような表情で何度か小さく頷いた。この雰囲気だと俺が悪いみたいだ。ここで意地を張っても仕方ないので素直に頭を下げて謝った。
「……ごめん。じゃ、行こうか」
気を取り直して玄関を出たが、予想外に寒かった。ここで寒いとか言ったら、美影達に嫌味の一つぐらい言われそうだ。黙ってそのまま我慢して歩き始めた。美影と絢は不満を言うことなくついてきている。
(でも……そもそも予定とかないんだよな、行きたい所もないし、用事もないからどうしようかな……寒いし部屋の中にいたほうが良かったな……)
まだ元旦から二日目で、この辺りのお店はほとんど閉まっている。開いているのはコンビニぐらいで、後はバスに乗って駅前か歩くには少しい遠いショッピングモールしか営業していない。
「ねぇ……もしかして行き先を決めてないでしょう?」
悩んでいた俺をお見通しかのように美影が問いかけてきた。自宅を出て数分しか経っていないところだ。
「……なんで分かったの」
「ふふふ、顔に書いてあるわよ」
「う〜ん、何処か行きたい所はある?」
観念した俺は正直に美影に聞いてみた。
「特にないわね……そもそもなんで外に行こうとしたの?」
そう言って美影は俺の顔をまじまじと見ている。返事に困った俺が視線を逸らそうとすると美影は笑みを浮かべている。
「……間がもたなくなったからでしょう?」
「う、うん……」
俺は俯き返事をすると美影と絢は仕方なさそうに笑っている。
「今日は、おうちデートでいいんじゃないの? そんな肩肘張らなくていいのよ」
「そうよ、みーちゃんとよしくんと私の仲じゃない。変に気をつかわないで大丈夫だよね」
美影と絢がお互い顔を見て微笑み頷いている。そう言っているが一番俺に気をつかっている。でもそんな二人を見て俺はほっと一安心したが、また何か事件が起こらないか不安にもなった。
せっかく外に出たので、コンビニに寄ってから帰ることにした。家に戻ってからは、特に何かをする訳ではなかったがのんびりと過ごしていた。
(さすがに今日は帰るよな……でもそんな気配はないな……)
二人にいつ帰るのか聞きそびれて気がつけば既に夕方の五時を過ぎていた。昨日と同じように美影と絢がキッチンに立っている。二人が楽しそうに会話をしながら調理をし始めて、当たり前のような景色になってしまった。やっと昨日の買い物の量に納得がいった。
(そうか、だから二人とも来た時にあんな大きなスーツケースを持って来ていたのか……)
いろいろなことで合点がいって、聞くのを諦めた俺は調理している二人を眺めていた。
その後、凄く美味しかった晩御飯を食べて少し早めに入浴を済ませて再びのんびりとテレビなどを見ながら過ごしていた。気がつけば時計の針が夜の十一時前になっていた。
「そろそろ寝ましょうか……明日は帰る前にお掃除しないといけないしね」
美影がそう言うと絢も頷き続ける。
「そうね、よしくんの家族が帰ってくる前にね」
俺も小さく頷いてこのまま何事もなく終わりそうだと少しだけ安心した。やれやれと立ち上がろうとした時に美影が甘えたような口調で俺に囁いてきた。
「……今晩は最後だから……一緒に寝よ……」
美影は顔を真っ赤にしている。俺は頭がクラっとして立ち上がることが出来ない。
「もう、あーちゃんも約束したでしょう……」
美影が照れ顔で絢に訴えている。絢も美影の言葉を聞いて赤い顔をしている。
「……みーちゃんのイジワル……分かったわ」
そう言って絢が腰を抜かしている俺の隣に来て耳元で囁く。
「……一緒に寝ていいかな?」
絢の甘い言葉で更に俺はノックアウト寸前の状態だ。こうなったら俺には拒否権はないので言われるがまま三人で寝ることになった。
美影と絢が寝ていた客間に俺が布団を持っていき、二人の真ん中に俺の布団を敷いた。美影と絢に挟まれる形だ。あまり引っ張っても変な雰囲気になりそうなので、素早く準備をして川の字になって寝ることにした。
「じゃあ、おやすみ……」
「「うん、おやすみなさい」」
俺が一番に言って二人が後から揃って言うと、電気を暗くした。
さすがにすんなりとは寝つけなくて、俺は硬直したように仰向けになっている。
(……こんなの罰ゲームみたいな、イヤ違うな……天国なのか? でもあまり生きた心地がしないな……)
頭の中でいろいろなことがグルグルと回っている。暫くそんな感じでいると突然、美影が寝ている側から急に柔らかい感触が腕に伝わってきた。俺がゆっくりと顔を動かして見ると美影の顔がすぐ間近にあってびっくりする。美影はしっかりと腕に絡まっていた。
(……これはヤバいでしょう⁉︎)
顔だけを向けていたので、反対の手でなんとか打開しようとしたが急に腕が動かなくる。今度は反対側の腕も同じように柔らかい感触がする。顔を反対に向けると絢が腕に絡まっている。
(……同じタイミングで、二人ともワザとか?)
でも二人からは穏やかな寝息が聞こえる。もう諦めるしかない。
(ヘビの生殺しかよ……)
心の声が思わず出そうになった。俺は心を無にして寝ることにした。ボディブローのように今日一日の疲労が溜まっていたのか、それから目が覚めることはなかった。
この後、どうなったか覚えていなかったが、次に目が覚めた時に大変な事態になっていた。




