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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
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揺れる想いとお正月 ②

 翌日の練習後に美影が自宅に来る時間を教えてくれた。


「夕方ぐらいでいいかな? それとももっと早く行ったほうがいい?」

「そうだな……急ぐ必要もないから夕方ぐらいでいいよ」


 美影の声がすごく上機嫌なのが分かる。昨日の美影が送って来たメールではなにか準備することがあるみたいだ。絢のメールも同じような内容だった。


「うん、分かったわ。ふふふ、楽しみだね〜」


 そう言って美影は上機嫌のまま買い出しがあると言って急いで帰っていった。帰り道に俺は明日からのことを考えていた。


(女の子が二人も家に……なんでこんなことになったんだ……いったいどうなるんだろう……)


 昨日の帰宅後、母親に事情を確認した。ほぼ美影の言ったとおりで間違いない。三人の親同士公認のお泊まり会のようだ。


「何はともあれ、アンタはヘタレだから変な間違いはないわね」


 普通の親ならダメ出ししそうだが、俺の母親はそう言い切った。年頃の健全な男子を目の前して……確かに言われるとおりで何も言い返せなかった。

 何故そこまで言えるのかは、俺の予想が正しければ原因は大仏だろう。アイツがいろいろと告げ口しているに違いない。


「……片付けの続きをするか」


 帰宅してから自分に言い聞かせるように呟き、昨日出来なかった箇所の片付けを始めた。途中で手を止めたり、集中して片付けをしていないのでなかなか進まなかったがやっと終わりがみえてきた頃に、中学時代の写真が出てきた。


「これ、使えるな……」


 美影達が困った時のいいネタになると一緒には片付けずに机の上に置いておくことにした。


 そして翌日、両親と妹は昼前には家を出発した。一応、母親が簡単なおせちと今夜食べる料理だけは作ってくれていた。美影達も何か作ってくると言っていたので食事については全く問題ない。


(まだ美影が来るまで時間があるからちょっとだけ横になって休むか……)


 この二日間はバタバタであまりのんびりと出来なかった。ほぼ準備も終わったので焦っていても仕方ないので少しばかり休むことにした。

 しかし油断してしまった。次に目が覚めたのは、美影から連絡があった時だった。ほんの少しだけ休むつもりだったのだが、まだ正直、心の準備が出来ていない。


「ま、まじか……もうすぐ来るのか……」


 誰もいない部屋に俺の声が虚しく響く。慌てて時計をみると既に三時間以上経っていた。予定より早めに準備が出来たから約束の時間より早いけどここに来るようだ。もちろん絢も一緒だ。


(えっと……大丈夫だよな……問題ないよな……)


 準備は終わっていたが、慌てて最終確認をしている。


(やっぱり、緊張するよな……彼女と……元彼女、いや違うな……なんだろう……絢は……友達でもないよな、キスする……)


 余計ことを考えてしまい顔が一瞬で熱くなる。部屋のガラス越しに真っ赤顔をした自分の姿が見える。


(こんな時に何を考えてるんだ⁉︎ とにかく二人を迎える準備をしないと)


 こんな状態で無事に三人で過ごすことができるのか不安が大きくなってくる。一人で右往左往している間に玄関のチャイムが鳴る。慌ててインターフォンを確認すると間違いなく美影と絢の姿が映し出されている。急いで玄関に向かい、鍵を開け扉を開く。


「予定より早くなって、ごめんね」

「いいよ、大丈夫。さぁ、上がって」

「うん、お邪魔します」


 気を落ち着かせるのが必死な俺は焦らないように美影を迎え入れる。美影は大きなスーツケースを引いて、まるで何処か旅行にでも行くようだ。美影の後ろにいた絢も同様に大きなスーツケースを持ってきている。


「久しぶりだね……お邪魔します」

「うん……」


 俺と絢は少し恥ずかしそうにしてお互いにあまり目を合わせなかった。まだクリスマスの印象が強く残っているみたいだ。

 ひとまず二人に泊まる部屋を案内して荷物を片付けるように言って、俺はリビングで二人が来るのを待っていた。


(本当に美影と絢が家に来たよ……)


 改めて二人が来たことを実感する。やはりそわそわして落ち着かない。暫くしてリビングの扉が開く音がする。


「どうしたの? 立ったままで」


 振り向くと美影が不思議そうに俺を見ている。


「い、いや、なんでもないよ。と、とりあえず美影も絢も座って、ゆ、ゆっくりとしてよ」


 美影と絢を見て不自然なぐらいに緊張してしまう。余計に焦って自分自身がどうすればいいのか分からない、ちょっとした混乱した状態だ。


(……そうだ、まずは飲み物でも出せばいいかな)


 俺はそのままキッチンに向かおうとしたら美影が俺の後ろについてきた。


「場所だけ教えてくれたら、私達が準備するよ」

「うん、だからよしくんはゆっくりと休んでよね」


 美影の後ろには絢がついてきていて、二人が大きく頷いている。俺は言われるとおりに二人に食器の場所などを教えてリビングに戻った。リビングに冬の間はこたつが出ている。俺はソファーに座らずにこたつに座ることにした。この位置からでも二人の姿を見ることが出来た。


(あんまり実感がわかないな……)


 美影と絢が自宅のキッチンに立ったいるは本当に考えられない光景だ。こんな時は……俺は自分の頬を自分で思いっきりつねってみた。


「痛い……」


 やはり夢ではないみたいだ。


「なにしてるの? 大丈夫?」


 背後から驚いたような声がするので振り向くと絢が不思議そうな顔で眺めている。


「う、うん……なんか現実味がないから確認してみたんだ……」


 とぼけたような返事をしたので絢がくすっと可愛く笑っている。


「どうしたの? なにがあったの?」


 まだ準備の途中だったけど、美影は俺と絢の様子が気になったようでキッチンの端から顔を覗かせている。そんな美影の姿も可愛らしく見えてしまう。


「これから先……大丈夫だろうか……」


 思わず心の声が漏れてしまい、美影と絢に聞こえてしまったみたいで二人が顔を見合わせて笑みを浮かべていた。

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