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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
152/237

クリスマスと待合わせ ①

 夕方の五時半過ぎ、約束をした場所で二人を待っている。待合わせの時間は六時のなので少し早く来てしまった。

 練習試合が終わって直接行くつもりだったが、予定より早く終了したので一度家に帰ってから出掛けることにした。美影も同じく一度帰ってから来ることにしたけど時間がギリギリになると言っていた。


「さすがに人が多いな……」


 思わず声に出てしまうぐらい人が多い。クリスマスの当日なのでイブに比べたら少ないだろうと予想していたがそんなことはなかった。人の多さに少しうんざりしていると雑踏の中で俺を呼ぶ声が聞こえた。


「あれ⁉︎ よしくんだ。でも時間早すぎない?」


 はっとして振り返ると声の主は絢だった。


「あぁ、一度家に帰ってきたけど夕方で時間がかかるから早めのバス出来たんだ。そしたら意外と早く着いたんだよこそどうしたんだ? 約束の時間はまだだよね」

「うん、別の用事があったから早めにこっちに来てたの」

「そうか、だから早めに学校から帰ったんだな」


 俺の出番が終わって絢は先に学校を出ていたのだ。そう言って目の前にいる絢は薄いピンク色のダッフルコートを着て、ちょっとだけ幼く見えて可愛らしい雰囲気だ。そんな絢の姿を見て、何故か中学時代の頃を思い出してしまう。真っ直ぐに絢のことを見るのが恥ずかしい。


「みーちゃんと一緒に来なかったの?」

「うん、美影も一度家に帰ってから来ることにしたから時間がギリギリになるみたいだ」

「そうなの……」


 絢が返事をした直後にお互いのスマホの着信音が鳴る。スマホを見ると美影からメッセージでバスが渋滞で着くのが遅れるとの内容だった。絢にも同じ内容が送信されているみたいだ。


「みーちゃん遅れるみたいね」

「そ、そうだな……えっ⁉︎」


 絢はぴたっと俺の隣に移動した。俺の声を聞いて絢は可愛く首を傾げた。


「どうしたの?」

「えっ、い、いや、なんでもない……」


 絢の仕草があまりに自然過ぎて焦ってしまい落ち着かない。もしかしたら練習試合が終わった後、美影に言っていた羨ましいことが原因なのかなと推測して、気持ちを落ち着かせようとする。

 周囲は暗くなりクリスマスのイルミネーションや店舗の照明が綺麗に映えている。少し幼く見えた絢とクリスマスのイルミを眺めていると絢に志望校のことを伝えた日を思い出した。


(そういえばあの日絢に気持ちを初めて伝えようとしたんだよな……出来なかったけど……)


 情けない自分を思い出して小さくため息を吐いた。すると絢の頭が自然な感じで俺の体にコツンともたれ掛かってきた。突然で焦ってしまったが、そう何度も動揺しては恥ずかしいので普段どおりに振る舞おうとする。


「あのね、なんでだろう……思い出したの……」


 絢が照れくさそうな感じでいるが、俺は少し強がって普段どおりの口調で聞き返す。


「何を思い出したの?」

「えっと……志望校のことを打ち明けてくれて……初めて気持ちを伝えて……」

「あっ……」


 絢は途中で恥ずかしくなったのか声がだんだんと小さくなった。まさか同じ場面を思い出していたのは予想外で俺も返事出来ずに俯いてしまった。少しの間お互い黙ったままで、気まずい空気が流れていた。


(この景色を見て絢が思い出すということは絢にとってもあの時のこと……)


 顔を上げて隣にいる絢を見るとまだ俯いたままで俺の視線には気が付いていない。あの時の絢の気持ちを思い切って聞き出してみようとした。


「絢、ひとつ聞いてもいいかな……」

「えっ、な、なに?」


 改まった口調に絢は驚き慌てたみたいだ。


「もしあの時、俺がはっきりと伝えていたら、絢はなんて答えていたの?」


 仮定の話をするのはどうかなと悩んだがどうしても気になっていた。絢も難しいそうな表情をして返事を悩んでいる。やはり少し意地悪な質問だったかなと反省をする。


「ごめん……答え難いよね……」

「ううん、私も同じ気持ちだったよ。やっと言葉で伝えようとしてくれてとても嬉しかった……」


 絢は言葉を選びながら優しく丁寧に答えてくれた。


「そうなんだ……でも最後まで伝えられなかった。情けないよね……」


 そう言って俺は苦笑いをした。もしあの時最後まで伝えて絢と付き合うことになっていたら……でも美影には会えなかったのかな……


(ダメだ、仮定の話ばかり……今は美影が彼女なんだから……)


 これ以上過去のことを考えてもいけないと、気持ちを落ち着かせる為に深呼吸をしようとした。


「……私は……あの頃から気持ちは変わっていない……今でも……」


 絢は寂しそうに呟くと俺の体にもたれかかってきた。弾みで俺の手が絢の手に触れる。


「えっ⁉︎」


 一瞬、驚きの声をあげそうになる。絢の手が俺の手をぎゅっと握ってきたのだ。絢は恥ずかしそうに俯いている。

 絢の表情を見て俺は胸が熱くなり、そのまま絢の手を握り返してそのまま黙って俯いていた。俺と絢の二人だけ周りの喧騒とは別の空間にいるような雰囲気で時が止まったような感覚だった。


「あっ……」


 二人同時に声が出る。待ち合わせの場所にある大きな時計から夕方の六時を知らせる音が鳴り響いたからだ。時間したらあっという間で、夢から覚めるような感覚だった。


「六時になったね。みーちゃん、そろそろ来るかな?」

「そうだな……」

「よしくん……みーちゃんには内緒だよ……」


 絢の声は少し寂しげな感じがして、俺にもたれかかっていた体を真っ直ぐに変えると同時に手を離した。俺はただ頷くことしか出来なかった。それから程なくして笑顔で美影がやって来た。

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