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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
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冬の球技大会 ②

 最初に担当した審判の試合は無事に終了して、結果を運営に伝えようと移動していた。試合開始直後はまだ眠たかったが、時間が経つにつれて眠気はなくなった。この後は俺達のクラスの試合があるのでちょうど目覚ましになって良かったみたいだ。


「あっ、よしくん⁉︎」


 俺の背後から声が聞こえた。この呼び方をするのはこの学校で美影しかいない。いきなりだったので心の準備が出来ていない、完全に油断していた。


「おっ、おう、どっ、どうした?」


 動揺しているのがバレバレな返事をしてしまう。振り向いた瞬間、美影は心配そうな顔をしていたが俺の返事を聞いて首を傾げている。


「よしくんこそ、何かあったの?」

「えっ、いや、何もないよ」

「そう、凄く焦っていたみたいだけど、志保はよしくんが具合が悪そうって言っていたから、本当に大丈夫なの、無理してない?」


 有無を言わさず美影の腕が俺の顔まで伸びて額に手を当てる。美影の柔らかい手の感触が額に当たり、一気に体温が上がるような感覚になる。


「あれ⁉︎ なんか顔が熱いような、本当に大丈夫なの?」


 美影は本気で心配している表情に変わる。自分自身でも熱いのは分かっていて焦りまくってしまう。


「ただ眠たいって、志保に言っただけだから大丈夫だよ。それよりこんなところで……」

「えっ……⁉︎」


 ここは運営のテントがある手前なので、試合の順番や結果を見に来る生徒で往来が多い。さすがにこの場所での俺と美影の存在はかなり目立っている。見る見る美影の顔が赤くなり俯いてしまう。


「ご、ごめん……」


 真っ赤な顔になった美影が恥ずかしそうに小さな声で謝る。


「ううん、俺こそ心配させて悪かったな」


 そもそも俺が変に気してしまったのが原因なのだ。でも昨日の美影といい今日もこれまでになく積極的な感じがする。でも付き合っているのだから問題はないのだけど何故このタイミングでという気持ちもある。


「何しているの?」


 目の前に志保がやって来て俺と美影の慌てた様子を呆れた顔で窺っている。


「あっ、最初の試合の結果を伝えに来て……」

「まだ伝えてないの? 早くしないと、もう次の試合まで時間がないよ。ほら、次は私達のクラスの試合よ。美影も早く!」


 そう強く言われて俺と美影は焦り始めた。


「もうそんな時間なのか、分かった。すぐに終わらせて行くよ」

「由規がいないと話にならないんだから……先に行ってるよ」


 志保が少しムッとした顔をして美影の手を引いて一緒に行ってしまった。俺も試合結果を用紙に記入して俺達のクラスの試合場所へ急いだ。

 俺達のクラスはいきなり長山のクラスと試合だ。長山のクラスに勝てば後は問題ないので、大事な試合になる。


「やっと来たな、宮瀬!」


 長山は楽しそうな顔をしている。時間がなくて余裕がない状態になってしまい、あまり準備が出来そうにない。


「悪いな、色々とあってなギリギリになったよ」

「球技大会といってもガチでいくからな‼︎」

「……勘弁してくれよ」


 ため息を吐き俺は答えたが、長山の目はマジなのでそれなりの覚悟をしていかないといけないみたいだ。試合前に志保と美影が「頑張ってね」と励ましてくれて、もちろん俺もやるからには負けたくない。

 本来なら俺のクラスには皓太がいるのだが、肝心な時に風邪をひいたとかで欠席をしている。時間になって試合が始まると、宣言通りに長山は本気で攻めてきた。


(本当にガチできたな、皓太がいれば問題ないのだが……さてどうやっていこうかな)


 皓太に恨み節を呟き、長山とのマッチアップが続く。それ以上に長山のクラスには中学時代に長山と同じバスケ部にいた奴がいて凄く厄介なのだ。余計にでも皓太の不在が響いている。


(なかなか厳しいな……長山も張り切っているから想像以上にしんどい試合になるぞ)


 前半戦は出来るだけ長山の好き勝手にはさせなかったが、もう一人の経験者を抑えることが出来ずにリードを許してしまった。

 俺のクラスにもバスケ好きの陸上部がいるおかげで得点差は開いていなくてまだ十分に追いつくことが出来る。おまけに長山のクラスの経験者は現在帰宅部なので、体力的には俺のクラスの陸上部が有利な気がする。

 実際にハーフタイムになると長山は不満そうな表情をしていた。恐らく予想より得点差が開いていないのだろう。


「じゃあ、後は……」


 クラスの男子が集まって、俺がこの後に出るメンバーに作戦と指示を出している。あまり難しいことは言っていないがみんな真剣に聞いてくれていた。


「はい‼︎」


 みんなで話し合っている輪に美影が笑顔で大きめの紙コップをいつもの試合のように手渡してくれた。真面目な顔で聞いていた男子が羨ましそうな顔で俺を見ている。


「あ、ありがとう……」


 俺は少し照れた感じで紙コップを受け取った。普段の試合だと慣れたことなのだが、今日は学校の球技大会だ。周りの雰囲気に気が付いた美影も同じく恥ずかしそうにしている。あまりにも自然に渡しているのでクラスの女子がざわついているみたいだ。隣で志保は面白そうに笑っている。


(助けてやれよ……)


 俺がチラッと目で合図すると仕方なそうに志保は頷き美影の隣に移動した。志保がクラスの女子の間に入るように何かを話し始めている。こういった事は志保の方が上手に伝えてくれる。


(さて美影のことは志保に任せて、残り時間どうやって長山を抑えていこうかな……)


 もうすぐ後半戦が始まろうとしている。

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