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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 冬
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冬の球技大会 ①

 期末テストは無事に終了した。それなりに勉強会の成果があったのかまずまずの結果だった。問題の志保は今回も追試は免れたようだ。絢の学校も同じく試験が終わったみたいで心配はしていなかったが、「大丈夫だよ」と嬉しそうに教えてくれた。

 勉強会の時に美影が言っていた練習試合のことは、やっと先日顧問の先生から正式に発表があった。昨年と違って今回は気持ちに余裕があるはずなのだが上手くはいかない。


「どう、調子は?」


 練習の準備が終わった美影が声をかけてきた。俺が放ったシュートはリングに当たり跳ね返りちょうど美影の手前に飛んできた。


「う〜ん、こんな感じだよ」


 微妙な返事をすると美影はボールを拾って俺にパスをする。


「ん……なにか悩みでもあるの?」

「えっ、いや、特に悩みはないよ」


 美影の反応は予想外で真面目な顔をして心配をされてしまった。軽い気持ちで言ったので美影の表情を見て、一瞬慌ててしまい笑顔で返事をした。


「そうなの……でも何かあったらちゃんと教えてよ。私はマネージャーであって、彼女なんだからね」

「う、うん」


 美影が珍しいことを言ったので俺は戸惑った返事をして若干違和感を感じていた。しかし美影の表情はいつもと変わらない。気になったので志保に確認しようとしたけど、練習が始まると全くそんな違和感はなく普段通りの美影だった。


(あの言葉はいったいなんだったのだろう?)


 確かに以前、似たようなことを言われたのを思い出した。でもあの時は明らかに俺の気持ちが迷っていた時の話で、今はそんなことはないはずだ。


(もしかして、この前の勉強会で絢と会ってから、美影が俺の反応を見てそう思ったのかもしれないな……また美影を不安にさせているのか?)


 部活が終わった後に美影と途中まで一緒に帰ることにした。今日は志保が用事があると言って慌てるように先に帰っていたので美影しかいない。


「ずいぶん寒くなってきたね」

「そうだな、これから自転車通学は辛くなるよ」


 俺は自転車を押して歩いて、隣を美影が歩いている。


「冷たそうだね、今度手袋をプレゼントしようか?」

「えっ、ホントに……」

「うん、もうすぐクリスマスだからね」


 少し恥ずかしそうに美影が答えた。そんな美影を見ていると俺も恥ずかしくなってしまう。気がつくといつもの分かれ道に着いた。


「あっという間だったね。また明日……」


 美影がそう言って寂しそうな顔をすると、俺はそのまま自転車に乗らずに押していた。


「今日は美影だけだから家の前まで送るよ」

「え、えっ、そ、そんな悪いよ……それに帰るのが遅くなるよ」

「大丈夫だよ、美影の家はそんな遠くないだろう」

「……うん」


 美影は小さく頷いている。美影の家に行ったことはないけど、前に志保からだいたいの場所は聞いていて、ここから歩いても十分ぐらいの場所だ。

 再び歩き始めるが、美影は凄く恥ずかしそう俯いたままだ。


「どうしたの? もしかして嫌だったかな……」

「ううん、そんなことはないわ……ただ知っている人に会わないか……恥ずかしいだけ」


 美影は小さい声で呟くように答えた。いつもと違う状況でこれまで見たことのないない美影の表情だったのでとても新鮮な感じだった。

 お互い黙ったまま歩いて思っていたよりも早く美影の家の前に着いた。


「あっ、着いたよ……」

「うん……」


 美影が家の前に立って、俺と向かい合わせになる。


「じゃあ、また明日……」


 俺はゆっくりといつものように話すと、突然美影の顔が近づいてきた。


「おやすみ」


 そう言って美影は俺の唇にキスをしてきた。軽く触れる感じだったが、美影の柔らか唇の感触は伝わってきた。


「えっ⁉︎ あ、あっ……」


 焦った俺は言葉が出なくて呆然としていると、美影は照れた表情で俺を見て微笑んでいた。


「……また明日ね」


 美影はそう言って家の中に入っていった。俺は美影の姿を見送りやっと我にかえると慌てて自転車に乗って家路についた。


(びっくりした……あのタイミングでキスは予想外だったな)


 自宅に着いた後もまだ頭の中にはっきりと感触は覚えている。まだ頭の中は興奮した状態だ。


(明日、どんな顔をして美影に話しかけたらいいのだろうか?)


 このままなかなか寝付くことが出来ずに寝不足で翌朝を迎えることになった。

 翌日、眠い目を擦りながら学校に着いたが、運良く今日から二日間は球技大会で授業はなかった。しかし冬の球技大会は、バスケットボールで俺達バスケ部が審判をしないといけないので結構忙しいのだ。


「由規は最初の試合が担当でしょう、ほら早く準備して!」


 早速、志保が俺を呼びに来た。俺が疲れたような顔で頷くので志保は心配そうに窺っている。


「どうしたの? 何かあったの?」

「いや、何もないよ……ただ眠たいだけ……」


 俺はそう言って重たい腰を上げて試合のある場所へ向かおうとする。


「誰かと代わってもらう?」

「大丈夫だよ……」


 志保が不安そうな顔をしているが、もともと部員が少ないのだから代わると迷惑がかかってしまう。


「美影に伝えとくよ、残りの審判で代われそうなところがないか」

「えっ、いいよ……」


 返事が終わる前に志保は走って美影のところへ行ってしまった。各学年の試合の担当を全て美影が決めていた。志保の後ろ姿を眺めて俺は項垂れていた。


(あぁ……今朝から出来るだけ顔を会わせないようにしていたのに……)


 まだ俺は美影にどんな顔をして話をすれば迷っていた。美影の彼氏なのだから本来なら何も問題はないのだが、どうしても心の中でモヤモヤした感覚が抜けていないのだ。とりあえずは時間がないので担当の試合に向かった。

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