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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 秋
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試合と学祭 ③

 翌日の朝、学校に行くと大仏がいつもの様に話しかけてきた。


「昨日の試合は、どうだったのよ」

「……朝から嫌なことを聞いてくるな、完敗だったよ」


 昨日の様子を全く知らないので大仏は軽い感じで聞いてきたが、俺の返事と表情で察したようだ。


「それは残念だったわね。でもアンタのその顔からすると相当悪かったみたいね」

「あぁ、そうだなかなりダメージは大きいかな……」

「そう、アンタにしては珍しいわね。そんな言い方をするのはよほどみたいね」

「……本当に全然歯が立たなかったからな」


 いつもと比べて声のトーンは低くて気持ちもまだ落ち込んでいる。そんな俺を見て大仏もいつもと違った反応をする。


「もう終わったことを言ってもしょうがないでしょう。アンタは何でも背負い込むから、気を付けなさい。反省ばかりじゃなくて前を向いて進みなさいよ」

「……マジでお前に励まされる日がくるとは想像もしてなかった」


 俺が冗談混じりに言うと大仏は鼻で笑ってドヤ顔をしていたが、今日ばかりはやはり幼馴染だと感心していた。


「あっ、そうだった。暗いアンタにいいお知らせよ。今年の学祭に由佳達が来るって!」

「ええ⁉︎ 白川も来るのか……」


 一転して俺が驚いた声で返事をする。絢が一人で来る訳がないと予想はしていたが、やはり白川が来るとなるといろいろ言われるの必死だ。


「その返事だと笹野さんも来るのは知っていたみたいね。アンタ、由佳が来ると知って今、すごい嫌な顔をしていたわよ」

「そ、そんなことはないけど……絶対に言うなよ!」

「どうしようかな〜そういえば今日提出の課題を忘れたんだよね〜」


 焦っている俺の顔を大仏はにやと笑いながら強気な表情で窺っている。この辺りも俺の性格を熟知した悪い幼馴染だ。


「……分かったよ。後で渡してやるから、もうあまり変な事を白川に言うなよ。頼むぞ……」


 ため息のように大きく息を吐いて、大仏の様子を見ていると勝ち誇ったような顔をして頷いている。


(なんか疲れた……でも多少元気が出たかな……なんだろうなこの幼馴染は)


「来たわよ、アンタの彼女が……アタシは消えるから、課題だけは後でちゃんと貸してよ」


 そう言って大仏は席を外した。普段なら気を遣う事などしないのだが、よほど今朝の俺の表情が大仏は気になったのかもしれない。


「あれ、大仏さんは?」

「あぁ、なんか友達のとこに課題を写しに行ったみたいだぞ」

「そうなの……さっき大きな声がしたから何の話をしてたのかなって……」


 遠慮気味に笑って美影は大仏の行方を追っている。俺はどうしたんだとろうと首を傾げた。


「別にたいした話じゃないさ、アイツが馬鹿なことを言ったからだよ」

「そ、そう……ねぇ、私、大仏さんに嫌われてるのかな?」

「……えっ⁉︎ そんなことはないだろう」


 寂しそうな表情をしている美影を見て俺は目が点になる。大仏は好き嫌いが激しくて、基本的には嫌いな人や苦手な人とはまず交わらいし、会話も全くしない。男子でも大仏と会話をしているのはクラスでは俺ぐらいだ。

 一方で美影は普段はクールな感じだが、人を寄せ付けない訳ではなく割といろいろな人と話をしている所を見かける。


「……そうかな、一年から同じクラスだけど、ほとんど話した事ないし……」


(そうだな、大仏は俺と話はするけど、美影と話をしているところをあまり見たことないな)


 俺を通して接点がありそうな感じがするが、これまで考えた事はなかった。


「まぁ……いいんじゃないか、そんな気にすることはないよ。アイツはそこまで悪い奴じゃないから」


 あまり美影を悩ませても良くないので、俺は軽い感じで笑いながら答えた。


「でも……今はよしくんの彼女だから、幼馴染の大仏さんと仲を良くしておきたいなと……」


 真面目な顔をして美影が返事をするので、俺は美影の気遣いに感心した。


「幼馴染か……まぁいいや、分かった。アイツにはそれとなく話してみるよ。大丈夫だから美影は嫌われてないよ」

「うん……ありがとう」


 美影は俺の言葉に安心した表情を見せる。美影と大仏が仲良くなるのは悪くないことだけど、俺にとってはあまり都合が良くない気がする。


(あぁ〜ダメだ、そんなんことを考えていたら……)


 俺が難しそうな顔をしていると美影は大人しくじっと見ている。大仏の件は解決したはずだが……


「ど、どうしたの?」

「ううん、昨日の試合のショックから立ち直ったのかな……」


 大仏の一件ですっかり忘れてしまっていた。


「そうだな、落ち込んだままだといけないからな、また今日からしっかりと練習するよ」


 明るい声で俺は返事をすると、美影はニコッと笑い小さく頷いていた。教室の中も登校してきた生徒が増えて賑やかになってきた。美影はクラスメイトに呼ばれたようで、「またね」と可愛く手を振り離れていった。


 美影が離れたの見計ったように大仏が戻ってきた。


「しかし不思議だね……」

「なんだよ、その顔は……俺に対して何か言いたいのか?」


 不服そうな顔をした大仏が俺の前の席に座る。


「う〜ん、普段はあんなにクールでキレイなのにアンタの前だと別人の様に甘い表情をするのかな? たいした顔じゃないのにね」

「マジで怒るぞ!」


 大仏の口の悪さは慣れているので、本気で怒る気はないが大仏の頭を軽く叩くとさらに不満そうな顔になる。


「だって……笹野さんもそうだったし、あのキレイな後輩の子もそうだし、アンタに何の魅力があるのか……」


「おまえな〜もう課題を貸さないぞ」


 さすがに腹が立ってきたのでさっき言っていた話を持ち出すと大仏はそれだけは勘弁してと泣きついてきた。俺がため息を吐き、課題を渡そうとしたタイミングで美影が気にしていたことを伝えた。


「へぇ〜そうなんだ、アタシとね……」


 大仏は意外そうな表情をしていたが笑みを浮かべて満更でもないようだった。俺の予想は当たっていたが、大仏が更に良からぬ顔をする。


「ふふふ、今度の学祭でゆっくりと話すチャンスがあるかもね」

「な、なんて⁉︎」


 俺が慌て返事をしたがそれ以上大仏は何も答えなかった。凄く不気味な感じがして課題を取り返そうとしたが、すでに大仏の手の奥にあり無理だった。


(コイツまた何か考えているな…)


 俺の不安は尽きることはなかった。

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