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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 秋
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試合と学祭 ①

 中間試験が始まり、あれから美影と絢の三人で会うことはなかった。美影とは恒例になってきた試験週間に志保と三人で勉強会をすることになった。

 中間試験が終わると今度は体育祭が週末にあって、昨年とは違いいろいろな種目に参加して美影や志保が応援してくれてすごく楽しくていい思い出になった。

 それから二週間後の今日は、県大会の三回戦がある。この試合に勝利すれば明日、シード校との対戦になる。俺達のチームの力を試すことが出来る。出来るのだが……


「なぁ、皓太……お前の彼女は試合を観に来ているのか?」

「はぁ⁉︎ なんだよいきなり……えっと、今日は来ているはずだ」


 俺の質問に少し照れながら皓太は答えてくれた。


「そうか……じゃあ、芳本は?」

「なんでアイツの名前が出てくるんだよ、来るわけないだろう……だいたい観にくるとすれば、彼氏か、好きな奴が試合に出る場合だろう」


 幼馴染の名前を出して、皓太は当たり前のような顔してキレ気味に答えた。


「まぁ、そうだよな……」

「なんだよ……宮瀬の場合はいつも試合を観てくれてるじゃないか、お前の彼女はマネージャーなんだから……」


 皓太の返事とは違う名前を考えていたので焦ってしまった。


(絢の事を言われたのかと……)


 よく考えれば皓太は絢が毎回来ている事は知らないはずだ。でも皓太に言われて俺はこれまであまり触れないようにしてきた事に悩まされる。


(たぶん今日も来ているはずだ)


 まだ試合まで時間があったので皓太と別れて体育館の外に移動していると姿を見つけた。


「……絢、久しぶりだな」

「あっ、よしくん」


 俺の声に気が付き、振り返ったいつもの愛らしい笑顔で微笑む絢だった。


「いつもありがとう……でも毎回、観戦にきてるけど、用事とか大丈夫なのか?」

「うん、大丈夫だよ。だってこの為に予定を空けているからね」


 ついさっき皓太と話した内容が脳裏に浮かんできて焦ってしまう。


「えっ、そうなのか?」

「うん、そうだよ。だって私はこれぐらいしか出来ないし……あの時に決めたから……」


 絢は寂しげに俯き加減で答えたが、絢の返事が気になった。ここで聞くべきかどうか迷ったが、気になる気持ちが勝る。


「も、もしかして、あの時……」

「……ううん、もうなんでもないよ。試合前にここで話してたらみーちゃんに怒られるよ」

「あぁ、そうだな……」


 絢の曖昧な返事に俺は肩を落として小さく頷く。絢の言う通りでここで立ち止まって話している訳にはいかない。それにしつこく聞いて絢の気を悪くさせてもいけない、せっかく応援に来てくれているのだから変に気を使わせてはいけない。


「それじゃ……」


 絢が微笑み観客席に向かおうとする。


「あっ……」


 何故か俺はとっさに絢の手を掴んでいた。絢は驚いた顔をして俺を見ている。俺自身も驚いたが、ここで手を離してはいけないような気がした。


「ど、どうしたの⁉︎」

「いや……ごめん……なんだかもう会えなくなるじゃないかと……」

「な、なに言ってるの、そんなことないわよ……明日も来るし、この先も来るよ」


 俺の脳裏に合格発表の日のことが過ぎったのだ。あの時からボタンのかけ違いが始まって今に至っている。


「俺はまだ……」


 そう言いかけて絢が唇を強く噛んで切なそうな顔で首を左右に振る。


「よしくん、今はみーちゃんの彼氏でしょう……だからそれ以上……」

「知っていたのか……そうだよな……うん」


 絢の言葉に俺は我に返ったように冷静になって確認をする。絢は思い悩んだ表情で答えた。


「うん……黙っていてごめん……でも大丈夫だよ、もう会えなくなることはないから約束だよ……」

「……分かった」


 呟くように返事をする。返事を聞いた絢が小さく頷いて優しく微笑むと励ますように声をかけた。


「試合頑張ってね、ちゃんと見てるから」


 まだ頭の整理が出来ていなかったが俺は小さく頷いた。絢が誤魔化したり嘘をついている様子はないと確信したからだ。絢はほっとした表情をしていた。


「ありがとう……行くよ」


 絢は小さく頷いて微笑み小さく手を振る。俺はチームメイトが待っている場所に移動した。

 戻ってきたら長山や皓太達はもう準備をしてコートの側に移動していた。意外と時間が過ぎていて驚き、慌てて試合の準備を始めた。


(でもなんで絢の手を掴んだのだろう……これまで絢が応援に来ても何ともなかったのに)


 この前の三人で出掛けてからだ……美影も一緒にいたが、中学を卒業して以来、長い時間を絢と過ごしたのは初めてだった。


(やはりこの前の事がきっかけなのか……でもそんな事はないだろう)


 考えながらだとなかなか準備が進んでない。


「まだ準備していなかったの?」


 美影が心配そうな顔で声をかけてきた。


「ご、ごめん……」

「ん……なんかあったの?」


 美影が俺の顔を見て不安そうな表情になる。俺は慌てて準備を終わらせて何もないとアピールをしようとする。


「ううん、問題ない……さぁ、行くか」


 立ち上がった俺は美影にこれ以上心配させないようにに明るく振る舞おうとした。


(これから試合なんだ、みんなに迷惑がかかってしまう)


 美影はまだ同じ表情をして俺の言うことを信用していないみたいで俺の顔をジッと見ている。もう一度俺は落ち着いた口調で答える。


「何もないから……大丈夫だ……⁉︎」


 言い終わる前に突然、美影が抱きついてきた。一瞬、何が起きたのか理解出来なかったが、美影の柔らかい感触と甘い香りで抱きついていることを認識した。

 時間にして数秒だったが、すごく長く感じた。顔から火が出るような感覚で立ったままで動けなくなった。


「私の元気を分けてあげたの、どう、元気が出た?」


 美影は優しい笑みを浮かべて少しだけ照れた表情をしている。


「え、えっ、あ、う、うん……」


 まだ頭の中は混乱して、まっすぐに美影の顔を見ることが出来ずに俯いていた。


「ほら、急いで!」


 そう言うと美影は恥ずかしさを誤魔化す様に目を合わさずに俺の手を握り走り出そうとした。

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