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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 秋
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二学期と試合 ③

 いつもと違う放課後、美影と一緒に昇降口に向かっている。普段の部活がない時は、志保を入れて三人で帰ることはあるが美影と二人きり下校することはなかった。なんとなく二人とも微妙な空気が漂っていて、靴を履くまでお互いに黙ってままだった。


「もう、志保が変なことを言うから……」

「ど、どうしたの?」


 外に出て暫く歩いていると、美影が微妙な空気に耐えられなくなったのか突然呟いた。俺の驚いた反応に美影が恥ずかしそうな表情をしている。


「志保がね……楽しんでおいでって言うから、そんな顔に出ていたかな?」

「えっ、そ、そんなことはないと思うけど」


 焦って答えるがまともな返答が出来ずに、美影はまだ恥ずかしそうにしている。そんな美影を見ていると俺もだんだんと恥ずかしくなってきた。周りの下校中の生徒からみたらおかしな二人に見えるかもしれない。


「……ごめんね、私が変なことを言って気にしたから……せっかく誘ってくれたのに……うん、いつもどおりに行こう」


 気持ちを切り替えたのか美影はいつもの優しい笑顔になっていたので俺は安心して軽く頷いた。


(美影もいろいろと悩んでいたのかも……)


 俺は心の中で反省をしつつ普段の表情に戻っていた美影の横顔を眺めていた。


 バスに揺られて目的地のモールに着いた。バスの中では、気にはなったが普段と変わらない美影だったので問題ないだろうろと目的地に到着してバスを降りて歩き始めていた。

 バスを降りて暫く歩いていると、なんとなく違和感があった。美影の横顔がいつもより近いように感じたのだ。


「ん……どうした?」


 何気なく美影に話しかけてみる。


「えっ、う、ううん、なにもないよ……」


 顔を赤くして照れたような表情で美影は答えたが、明らかに何かありそうな雰囲気だ。俺が不思議そうな顔をして美影を見ていると、恥ずかしそうに視線を逸らしている。


(なんだろう……)


 ほんの少しの間、お互いが向かい合っていると、美影の逸らしていた視線が俺の手に向けられる。


「あ、あのね、て、手を繋いでもいいかな?」


 真っ赤な顔をした美影が消え去りそうな声を発した。即座に反応が出来なかった俺は動揺してしまう。


「えっ⁉︎ あっ、うん」

「あっ、い、いや、ご、ごめん……やっぱり恥ずかしいよね」


 俺の曖昧な返事に少し冷静になった美影が答えたが、かなり残念そうな表情をしている。美影の顔を見て俺は慌てて首を横に振る。


「ち、違うよ、そんなことない。俺こそ、なにも気が付かずにごめんな……」


 そう言って俺は照れくさそうに手を差し出すと、美影も恥ずかしそうに手を伸びてきたので優しく握ると同じように優しく握り返してきた。


(あれ、こんなに柔らかかったかな……)


 これまでに何度か美影の手に触れたりすることはあったが、それと全く違った感じだった。美影は恥ずかしそうにしているが、なんとなく安心したような顔にも見えた。


「それじゃ、行こうか!」


 俺がそう言うと美影は小さく頷いて、しっかりと手を繋いで歩き始めた。

 手を繋いでいる分、美影がすごく間近に見えて俺は思いっきり照れてしまったままだった。手を繋いでいることに気ばかりいってしまい、会話らしいことが出来ずに目的のお店に到着してしまった。

 やっと繋いだ手だが、さすがにお店の中までは……と思っていると、美影が目で合図をしてくれたので手を離した。俺の手はかなり汗ばんでいて焦っていたが、席に案内され少し落ち着くことが出来た。席に着くと美影がいつも笑顔で俺の様子を伺っている。


「どうしたの?」

「ううん、さっきから何度も心配させてるね」


 美影は小さく笑いながら答えるので、俺も同じ様に笑みを浮かべている。


「そうだな、でも良かった……ちゃんとここまで来れて、美影の表情がコロコロ変わるからさ、なんか心配だったよ」

「……ごめんね、でも半分はよしくんのせいだからね」


 頬を膨らませて冗談で拗ねた顔をするが、その表情が可愛らしくて見惚れてしまう。


「……」

「……もう何か言ってよ」


 俺の視線に耐えられずに、美影は本当に拗ねてしまいそうになるのですぐに謝る仕草をする。


「だってこれまでと違って……なんて言えばいいのか……なんか幸せだなって……」


 あまり上手い言葉が出てこなかったが、今思っている気持ちを素直に話すと美影はまた顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「ううっ……は、反則だよ、もう……いつもはヘタレなのに……」


 そう呟いて美影は凄く嬉しそうな表情をしていたので、俺も安心して笑みが出る。意識して言った訳ではないが、美影にとっては予想外の言葉だったようだ。

多分、周りからも散々言われていただろうから余計かもしれない。美影が落ち着くまで暫く黙って待っていると、注文した目的のパフェがやってきた。


「すごいね!」


 ついさっきまでの照れていた表情から目の色を変えたように、美影が驚いた顔で興奮気味にパフェを見つめている。


「良かったな」

「うん、食べてもいい?」


 俺が笑いながら頷くと美影は嬉しそうに食べ始めた。俺は美影が美味しいそうに食べている様子をみながら安心感につつまれるようだった。

 パフェのお店を出てから、まだ時間があったのでぶらぶらと歩く事にした。もちろん手は繋いでいる。さすがに恥ずかしがっているとまたヘタレと言われてしまうので、出来るだけ自然に手を繋ぐようにした。一瞬、美影は驚いた表情をしたがすぐに嬉しそうにしていた。


「すぐに県大会があるね、新しいチームでの初めての公式戦だよ」

「うん、そうだな、新チームの初戦だな」


 来週末は選抜の県大会が始まるのだが、不安なことがある……それはいつも応援に来てくれる絢の事だ。美影は俺と付き合い始めたことを絢に伝えてのかどうかは未だに分からない。顔を合わせることがあればどんな顔をすればいいのかとか先延ばしをしながら悩んでいたのだ。

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