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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 夏
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バスケ部夏合宿 ②

 一通りの買い出しが終わり、再び歩いて学校に戻っていた。買い出しの荷物をほとんど持っていたが、思っていたよりも重たかった。


「大丈夫? もう少し私が持とうか?」

「これぐらい問題ないよ」


 美影が心配そうに俺の顔を見てきた。額から汗が流れて、荷物を持っている手が若干痺れてきていたが、我慢してしんどい顔を見せたくはなかった。

 しかし、暫く歩いていると手がかなり痺れてきた。学校まではあと少しなのだが、このままでは厳しい……さすがに無理だ。


「ごめん、ちょっとだけ休憩させて……」


 ちょうどいい感じで木陰があったので、俺は足を一旦止めて両手に持っていた荷物を地面に下ろして大きく息を吐いた。


「もう……無理するからだよ」


 ムッとした顔して美影も歩くのを止めて俺の様子を見ている。


「だって……ここまでしんどいとは……」

「だから持つよって言ったのに……」


 言い訳じみた感じで答えると、美影はちょっと怒ったような口調だった。でも俺は美影の返事に意地になって答えた。


「……でも最後まで持つから、大丈夫だ」

「ふふふ……昔から変わらないわね」


 俺の顔を見ながら、美影は可愛らしく笑みを浮かべる。俺は意味が分からずに不思議そうな顔をしていると美影が懐かしそうに話してくれる。


「あの時のキャンプも、危ないからと言ってよしくんがいろいろと準備をしてくれたよね」

「あの時……あぁ、小学の時のね……」


 なんとなく記憶があるけど、はっきりとは覚えてはいない。多分、美影が危なっかしくて見ていられなくなり俺が代わりにやったのだろう。


「だってあの時もよしくんはヘトヘトだったよ」

「……そうだったな」


 確かに凄く疲れたような記憶だけはある。


「嬉しかったんだよ、男の子があんなに優しくしてくれたのは……」


 美影が思い出しながら可愛く笑みを浮かべているのを見て俺は少し恥ずかしくなってしまう。


「そんな大袈裟だな」

「ううん、その当時は私はどちらと言うと鈍臭い感じだったから……」


 微か記憶から美影の印象は間違いなくそうだった。だから俺はいろいろと美影に手助けをしていたのだろう。なんとなく覚えていた点と点の記憶が繋がってきたような気がした。


「ふっ、そうだったな」

「あぁ、言ったな、だからいっぱい努力していつかよしくんに会った時に……」


 俺が軽く笑いがら返事をすると美影は真面目な顔で答えて途中まで言いかけてハッとした表情をして耳まで真っ赤になる。


「ど、どうした?」


 俺がそう言うと美影は顔をプィっと背けて黙ってしまい、小さな声で「バカ」と可愛いく呟いた。気を取り直して美影は荷物を持ち始めた。


「休憩は終わり、もう行くわよ」


 そう言って美影は何かを誤魔化すように急いで歩き始めた。慌て俺も荷物を手に持ち美影の後を追いかけた。

 結局、学校に着くまで美影は一言も話しかけてこなかったが、表情から見て機嫌が悪い訳でなさそうだったので心配はしていなかった。


「もう、また……」


 調理室に戻ると志保が大きなため息を呟いている。俺は志保に「なんでだよ」と美影に聞こえないような声で話すと、呆れた顔をして志保がもう一度ため息を呟いた。


「お互い様だ……」


 そう言って、俺が持って帰ってきた荷物を取ってさっさと後輩のマネージャーの所に戻っていった。その中に美影も加わり志保が何かを話し始めていた。

 俺は盗み聞きするみたなので、そのまま調理室から出ていくことにした。


「あっ、夕食は楽しみにしててよ」


 調理室から出て行こうとした俺に気が付いた志保が大きな声で楽しそうな顔をしていたので、「分かったよ」と微笑しながら返事をした。

 美影も志保の隣りで微笑んでいたので少しほっとした。


 午後の練習は試合形式の練習の練習だった。


「何かあったのか?」

「えっ、なんでだよ」


 十分間を二本した後に休憩をしていると皓太が肩を叩きながら話しかけてきたが、皓太の質問に首を傾げる。


「いや、全然キレがないし、集中してないし……」

「そうかな……」


 そんなに酷いとは思っていなかったので、皓太の指摘にあまりピンとこなかった。皓太の言うことだから間違いはないと思い言いわけはしなかった。


「明日は先輩達が来るから、下手なプレーは出来ないぞ」

「そうだな、分かったよ」


 俺は皓太の言うことに頷いていた。明日は三年の先輩と卒業生のOBが何人か来る予定で、試合も組まれている。

 昨年参加していた長山の話からすると、その試合はかなり盛り上がっていたようだ。


「宮瀬がいないとチームとして成り立たないからな、頼んだぞ」

「お、おう……」


 皓太からかけられた言葉でしっかりとしないといけないと反省したのだが……最後の皓太の一言で振り出しに戻ったような感覚になった。


「まぁ、だいたいの察しはつくけど……早いとこ、山内と付き合えばいいのに……」


 そう呟いて皓太は、立ち上がりボールを突きながらゴール下に歩き出していた。


「こ、皓太、な、なんだよ……」


 皓太の後ろ姿を見ながら何も言い返す言葉がなかった。後を追いかける気力もなく座ったまま、チームメイトがシュート練習をしている姿を眺めていた。


(そんな簡単なことじゃないんだよ……)


 心の中でそう呟き、天を仰いでいると続きを始める合図が聞こえてきた。重たい腰を上げて立ち上がると、コートの反対側にいる美影と目合った。美影はニコッと笑い、声には出さなかったが「がんばってね」と合図を送ってきた。

 俺が頷き、手を挙げて返事をすると美影は安心したような笑顔を見せてくれた。


(ダメだな、このまま逃げていたら)


 美影の笑顔を見て、俺の心の中でひとつの決意が生まれたようだった。

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