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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 夏
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花火大会 ④

 暫く同じ場所で話をしたり出店で買ったものを食べたりしていたが、開始一時間前になりそろそろ見えやすい場所へ移動しようとする。


「どこかおすすめの場所がある?」


 美影が心配そうに尋ねてきたが、いい場所が思い付かずに頭をひねらしていた。すると志保が自信満々の表情で話に入ってきた。


「私に任せてよ!」

「大丈夫なのか?」


 一抹の不安はあったが、志保の表情を見ていると断る訳にもいかず、美影や絢も「いいよ」と頷いていたので任せることにした。

 志保が先頭を歩き、美影と俺がすぐ後ろにその後ろに絢と白川が並んでいた。暫く進みメインの会場を過ぎて周りの出店も疎らになってきた。するとちょうど花火が上がる位置が一望出来る開けた場所に着いた。メイン会場から離れて若干花火から遠いような気もするが、全体を眺めるには絶好の場所のようだ。


「よく知っていたな……」


 俺は志保を見て感嘆の声を上げていると、よほど嬉しかったのか志保は満面の笑みを浮かべていた。


「最近、あまり褒めてくれないから良かった。でも本当は去年もここに来ようとしてたんだ」

「去年? あぁ、そうかあの頃か……」


 一年生大会で怪我をして自暴自棄になっていた頃だ。あの頃は志保と美影にはいろいろと迷惑と苦労をかけていた。


「うん、あれからいろいろと大変な思いをしたし、辛いこともあったし……だからみんなでこうやって来れたから凄く嬉しいよ」


 志保が思い出すように話すので、俺はなんとなく気恥ずかしい気持ちになっていると、絢と白川は少し驚いて複雑な表情をしていた。


「そうだったの……」


 絢は俺の顔を見てそう呟いた。学校が違うので俺達がどういった経緯で復活していったのか詳しくは知らないのだ。


「うん……確かにいろいろとあったからね……周りにはいっぱい迷惑をかけたよ」


 でもこうやって遊びに来れるのは、志保や美影そしてバスケ部のメンバーが協力して戻ることが出来たからだ。もしあの時に部活を辞めていたら、志保や美影とも親しくなっていないし、絢とも再会することはなかっただろう。しんみりとした空気が流れかけていたが次の絢の意外な一言で変わっていった。


「みーちゃんはやっぱり凄いよね……」


 絢は美影の顔を見ながら微笑んでいたがどことなく寂しそうな表情をしていた。


「えっ、なんで、特に私は何もしていないわよ」


 絢の呟きに美影は微笑みながら答える。しかし絢はそんな美影を羨ましそうな顔をして眺めて否定するように首を横に振る。


「ううん、そんなことはないわ、普段から接してるから分からないのよ。今日だって二人を見ているとすごいなぁて思ったわ」

「そうね、学校でもあんな感じだからね……」


 志保が茶化すように会話へ割って入ってきた。そう言われて、改めて自分の学校生活を思い返してみると……


「あぁ、そ、そう、そうだな……」


 降参して焦ったような返事をした俺の顔を小さな笑みをこぼし絢が見ている。絢は寂し気だけど、何故か懐かしそうな顔をしていた。


「昔もそうだったよね、みーちゃん」

「えっ……う、うん、そうね」


 絢は思い返したような顔で美影に問いかけると美影は慌てて恥ずかしそうな表情になる。美影と絢の顔を見ながら俺は少し記憶を辿ってみたがすぐには思い出せなかった。

 でも以前、発見したアルバムの中にあった写真から推測すると絢の話に間違いはないので、あの頃も隣にいたのは美影だ。やはり思い出の女の子は美影で間違いない……


(それならどうして美影はそのことを話さないのだろうか)


 疑問に思うことはあるが、今はそんなことを聞く余裕はなかった。


「へぇ、どういうことなのかな?」


 志保は興味津々な顔で俺と美影を交互に見ている。ここで志保に追及されても返答に困ってしまうが……しかし一つ疑問に思うことがあった。


(もしかして美影は志保に過去の詳しいことを話していないのだろうか?)


 志保のことだからワザと言っているのかもしれないと疑っていると白川から鋭い視線を感じるた。どうしようもない状況になり、とりあえずこの場から一旦離れることにする。


「ち、ちょっと、の、飲み物を買ってくるよ」


 そう言って立ち上がり逃げるよにこの場から離れる。後ろでは、志保が「あぁ――逃げたな」と笑いながら話す声が聞こえた。

 まだ花火が打ち上がるまで時間があるからもう暫くしてから戻ることにした。メイン会場から離れてはいるが、出店はあるのでちょうど喉が渇いていたので飲み物を買うことにした。


「あれ、宮瀬じゃん!」


 お金を払い、ペットボトルを受け取っていると背後から声をかけられた。


「あっ、皓太か……」


 振り向くと声の主の皓太と二人の女の子が一緒に並んでいたので、よく見ると見慣れた顔だった。


「こんばんは、宮瀬くん」


 そう言ってきたのは、皓太の幼馴染みの芳本だった。その隣りには、皓太の彼女の空知が小さく笑顔で軽く頭を下げていた。

 相変わらず不思議な三人組だなと思い、皓太の顔を見ると既に疲れきった表情をしていた。多分、ここまで二人にいろいろと振り回されてきたのだろうと察した。


「皓太……大変だな」


 冗談めかしに笑いながら俺が言うと、芳本がムッとした顔を睨んできた。


「どういうことなのかな、宮瀬くん」

「ええっと……あぁ、そうだ白川達も一緒に来てるんだよ」


 顔色を伺い返答に困っていると、咄嗟に中学時代のことを思い出して白川の名前を出して追及から逃れようとした。芳本は白川や絢達と同じ部活だったから仲が良かったのだ。案の定、芳本の顔は嬉しそうな表情になった。


「本当⁉︎」

「本当だって、芳本も来るか? すぐそこだから」


 そう言うと芳本は嬉しそうに大きく頷いて、皓太には有無を言わせることなく承諾させるが、皓太の顔は面倒くさそうな表情をしていた。隣りにいた空知は「いつものことだよ」という顔で笑っていた。

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