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へタレ野郎とバスケットボール  作者: 束子
高校生編 二年生 夏
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花火大会 ②

 予想通り何も答えが出ないまま、約束の花火大会の当日になった。ただ一つだけ分かったことがあった。それは絢が一緒に来ることを美影から聞いていなかった件だ。

 電話があった翌日に美影から学校で思い出したように絢が一緒に来ることを話してくれた。美影としてはずいぶん前にその話をしたと思っていたようで、特に何か意図があった訳ではなかった。

 絢からは前に一度メールが来てから特に連絡をしていないけど、白川が先週バイト先の店に来て話をした様子から絢は来るだろう。当日になっても頭の中でいろいろと考えるが、整理することは出来ずに待ち合わせの場所に到着した。おまけに家に居ても気分が落ち着かないので、約束の時間よりも三十分以上前に来てしまう始末だ。


(どんな顔で二人の前に居ればいいのだろう……)


 確かに花火大会というイベントに女の子達と一緒に行くのだから楽しみに違いない……周りから見れば羨ましく思われるだろう。

 何も問題がなければ普通に楽しめるが……美影と絢のことだからそんな大胆な行動をしないと思うけど……不安なこともある。これも全て俺自身のヘタレさが撒いた種だ。


 まだ誰も来ていない、時計を見るとさすがに早く着きすぎたようだ。周囲の待ち合わせをしているカップルが何組も目に入り気持ちが暗くなりそうだ。


(とても楽しそうだなぁ、あんなに素直に喜んだ表情をしてるよ……)


 待っている時間が長く感じてきて、だんだんと気持ちが暗くなって、表情に出てきているのかもしれないタイミングで声をかけられる。


「もう着いてたんだ――! あれ、どうしたのその顔?」


 いつもの元気なテンションで志保がやって来て、俺の表情を見て驚いている。美影も一緒に来て俺の顔を見て心配そうな表情をしている。


「だ、大丈夫? 具合でも悪いの……」

「えっ⁉︎ そんなことない、全然元気だよ」


 そこまで酷い表情だったのかと反省をして気持ちを切り替えて笑顔になる。


(美影達は楽しみにしていたんだから、俺もちゃんと答えないといけない)


 とりあえず余計なことを考えないようにしよう……そう決めた。


「ただ暑かったからだよね、早くから来てたんでしょう楽しみで――!」


 志保が無邪気な感じで話すので、助けられて便乗して答えた。


「まぁ、そんな感じだよ」


 俺が明るく返事をしたのを聞いて美影がやっといつもの優しい笑顔になり俺は安心した。


「可愛いでしょう――‼︎」


 浴衣姿の志保がこれみよがしに俺の前に出てきて見せつける。今日の志保はテンションが高いようだ。


「そうだな、普段と違って夏って感じだな」

「ほら、美影にもちゃんと言ってあげてよ‼︎」


 そう言って志保は美影を押して俺の前に立たせる。

 もちろん美影も浴衣姿だが、髪をいつもと違い上げて綺麗に結っていて、志保よりも背丈があるので普段以上に大人びて見える。元々スタイルがいいので可愛いというよりおしとやかな美人といった雰囲気だ。


「き、きれいだな、に、似合ってるよ」


 改めて見ると意識してしまい照れて、本当に恥ずかしくてたどたどしい返事になってしまう。


「……ありがとう」


 そんな俺の様子を見て美影も恥ずかしくなったのか顔を赤くしてそのまま俯いてしまった。


「あぁ、なんか私の時と反応が全然違う……」


 拗ねた表情で志保が俺を見ていたので、慌てて「そんなことはない」と否定すると、すぐに志保は「冗談よ」と笑っている。さっきまでの暗い気持ちは嘘のように明るくなったようだ。

 まだ美影は恥ずかしいダメージが残っているみたいで黙っていたが、恥ずかしさを誤魔化すように話しかけようとしていた。


「あーちゃん達は、まだみたいだね」


 まだ約束の時間より若干早いが、美影は周りを見渡し絢の姿を探す。


「そうだな……」


 俺はそう返事をして姿が見えないか探してみると美影が探していた方向とは反対側に浴衣姿の女の子二人組がこちらに歩いて来ていた。


「美影、来たみたいだぞ」


 俺が見ている方向に美影が視線を向けると安心したような笑顔になった。


「本当だ、良かった……」


 美影が呟くように言ったので俺は不思議に思った。何故、美影は絢が来るかどうか心配していたのか……すると美影は独り言のように続けた。


「誘った時、あまり乗り気じゃなかったの……何度か話しても迷っていたみたいで、この前話した時も……」

「そうなんだ」


 美影の話に合わせて軽く頷いていたが、俺は試験前のバイトで会ってメールで花火大会の話をしてからほとんど絢と連絡を取っていなかった。俺からは絢の様子が分からなかったけど、絢には大仏から白川を通して俺のことは伝わっているのだろう。

 だから絢は来るのを迷っていたし、先週末にわざわざ白川がバイト先に現れて最終的に確認しに来たに違いない。

 でも今はそんなことを考えている場合ではない、とりあえず表情には出さないように気をつけて今日は過ごさないといけない……と考えていたら絢達はもう目の前まで来ていた。


「あーちゃん、久しぶりだね」

「うん、ほんとうだね、電話では話してるけどね」


 美影と絢がお互い笑顔で久しぶりの再開を楽しそうに話をしている。黙って俺は二人の姿を見て安心していた。

 まだあと二人がいることを思い出し、反対側を見ると志保と白川もあまり面識がある訳ではないが、全然知らない間柄ではないので何かしら会話して笑っている。こちらも一安心といった感じだった。


「久しぶりだね……」


 志保と白川の様子を見ていたので急に絢が話しかけてきたので慌ててしまった。


「えっ、あっ、そうだな、おっ、久しぶりだよな……」


 たどたどしい返事になり、美影が微笑みながら俺の様子を見ている。不意をつかれた感じになり、その後の言葉が続かなかった。そのままお互いに俯き黙ってしまい、なんとなく気まづい空気が流れてしまう。


「どうしたの二人とも……」


 そう言われて顔を上げると美影がきょとんとした顔をしている。美影の表情を見てすぐに「やってしまった」と反省をして気持ちを切り替えようとした。


「い、行こうか、みんな揃ったしね」


 出来るだけ明るい声を出すと、志保と白川がやれやれといった表情をして頷いていた。予想通りの不安な状況のままで俺はゆっくりと移動をし始めた。

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