旅芸人ソダ兄弟
イスタラット・ソダはそう言うと、愛弟ロリスデールに毛布を被せた。苦しげに上下するロリスの肩。細い首筋にびっしょりと汗の玉が浮かんでいる。痛々しくて、思わずイスタラは目を逸らす。
「でも姉さん……何とかするっても……」
喘ぐ息の狭間で、不安げに自分を見上げる弟の視線。
「心配ないって。今あんたのすべきことは、ともかく早く病気を治すこと。それだけ考えてりゃ良いんだから……いいね?」
もう一度先刻と同じ言葉を繰り返し、イスタラは片目を瞑って見せた。
テントを出ると、溜め息が胸の奥から込み上げて来る。イスタラは道化の衣装のまま、地面をなぞりながら町の裏通りへと出た。
華やかな市街地から見遣ると、旅芸人テントの何と小さくみすぼらしいことか。あの中で弟は病魔と闘っている。孤独に、そして虚しく。
「……何が打つ手無しだい、あの藪め」
イスタラは建物の壁に拳を叩きつけた。数日前に医者の発した絶望的な宣告が胸の内に蘇る。
“庶民にとっては”不治の病。それがロリスに下された診断であった。
「もっと……お金があれば……」
だが、しがない旅芸人に何が出来るというのだろう。
……いや。そう言えばここは城下町だ。上手く“やれ”ば、いつもの何倍もの収入を得ることも不可能ではない。幸い自分には“幾つかの手段”がある。スパイスの効いた漫談にブラックユーモア、パントマイムに笛の演奏、ジャグリングに軽業、そして……
もっと人を集めよう。イスタラは目抜き通りへ出た。道化の姿を目に留めて寄ってきた町人達に笑顔で会釈する。
カツカツと蹄鉄を鳴らして馬が数頭通り過ぎた。城へ向かうのだろう。馬上の人物が不意に振り返り、金色の瞳が道化を射抜いた。




