序幕~面影
白く、真っ白く霞んだ光の中に、母はいた。
大きな枕に体を預け。やさしく流れる銅色の髪。涼しげな風には白いカーテンが揺れ、忍び込んだ木洩れ日がまばゆく母の表情を隠し――ただ、肌の白さだけが鮮やかに浮かび上がる。
パージェ。
母は娘の――同時に息子である、両性という性別に生まれついた我が子の名を呼んだ。
パージェ。伯母様の言うことをよく聞いてね。
『父様はどこ?』
幼いパージェの言葉が微風にかき消える。
あのひとはね……。
母の唇がゆっくりと――少し苦しげに動いた。
あのひとはね……
「処刑されたのよ。あんな逆賊」
尖った伯母の声が母の影を覆った。
「呪われておしまい、逆賊の血。お前のせいで妹は死んだのよ」
母の姿が遠のく。暗い部屋の中、ベッドに乱れた髪。醜く顔を歪め、全身を喰い破られた血染めの母。その息を止めた白い紐――今は、それは彼女の中に……
「お前のせいで」
真っ白な夢の中で、伯母が杖を振り上げた。
パージェはまぶしそうに伯母を見つめ――そして。
彼女は目を覚ました。薄暗く、日の当たらないいつもの部屋。耳慣れない音が窓の外から聞こえてくる。軋るような音。
パージェはカーテンを寄せた。窓を開けると冷たい空気が吹き込み、ぼんやりした外の光が目を刺す。彼女は目を細めて眼下の裏庭を見下ろした。
ぎい……。
音を立てて車輪が軋み、裏庭に馬車が止まった。ゆっくりとその足掛けを踏み締め、自分と同年代の少年逹が降りてくる。みすぼらしい靴が彼女の裏庭を踏みつけ、パージェの目が自然と険しくなった。
「僕の庭を……あんな下民どもに踏ませるなんて」
行きつ戻りつ、離れに荷物を運ぶ少年達。パージェは敵意を瞳に湛えて睨みつけた。
その時、一人の黒い髪の少年が偶然にも窓を見上げた。黒い瞳がまっすぐにパージェを射抜く――。
パージェは勢い良く窓を閉めた。カーテンを力一杯引くと、薄闇が部屋を覆った。窓を背にすると嫌でも目に飛び込む、裏返しのままの壁の絵。
彼女は思いきりクッションを投げつけた。




