ドルガ・ルザ
「己は裁きの雷、黒竜様の打ち下ろす鉄槌と共に、咎人に降り注ぐ滅びの落雷。己が血を求めるのは黒竜様に忠義を示すためだ。己が闘いを求めるのは敵を焼き滅ぼし、背信者を等しく塵に還すためだ。いいか。逃れられると思うな。己はオマエ等の恐れる【死】そのものだ」
哄笑と共に落雷が豪雨のように降り注ぐ。ロードルド海域に展開していた魔導艦隊が、極大魔法の嵐に呑まれ、沈む。
「呆気ないな。所詮人間だ。オマエ等ごときが己を殺そうなど、笑い話にもならない」
つまらなそうに呟く。
竜、と呼ぶにはあまりにも小さな影が、ゆっくりと降りてくる。膨大な熱量に空間が歪み、海面が煮えたぎる。蒼い雷が弾ぜ、鳴り、疾る。雷竜の身を包むのは甲蟲の外骨格と、堅牢な蒼竜鱗。魔蟲の凶暴性、竜の狂悪性。そして甚大な雷魔力。立ち塞がる敵をことごとく撃ち滅するその化け物は、節目立つ長い尾をかかげる。
五統守護竜の一柱。
雷竜ジンライネル。
「そう、せめてオマエ等だ。なあ、生体兵器」
ジンライネルの尾先にひとりの人間がぶら下がっている。雷竜の尾の鱗は一枚一枚が剣のように鋭く、棘のように逆立っている。尾先に集中した鱗は槍の様相をていし、まさしく魔槍と呼ぶに相応しい。胸を貫かれた人間は低くうめく。雷竜は獲物の腕を見る。
「【No.42】第二世代か、どうりでよく動く。だがな、己の相手をしたいならせめて最初期番号を連れてこい。そして本当に己を殺したいなら、No.11を使え。あの鬼神をな。ッカハハハハ、あの鬼、人狼どもを皆殺しにしたらしいじゃないか。さすがはゾラペドラス様の認めた男だ。しかしな、ボロスは己が狩るつもりだった。己は獲物を横取りされるのが好きじゃない。代わりにNo.11の首を黒竜様に捧げるとするか」
その言葉に死にかけの生体兵器は顔をあげ、ジンライネルの顔面に唾を吐く。そして嗤う。
「サツキには誰も、勝てない。蒼い雷神、貴様でも、だ」
「まだ動けるのか。その闘志と殺意は驚嘆に価するが、あいにく己は貴様などに興味がない」
瞬間、尾が蒼い爆発を起こし、生体兵器は掻き消える。
焦げた肉の残骸が海に消えていく。
「己が闘いたいのは真に強き者だけだ。己を殺せるほどの強者ならなおイイ。死の淵を舐め、絶望的な闘いに勝利してこそ己の黒竜様への忠誠心が証明されるというものだ。イヤ、違うな。たんに己が壮絶な殺し合いを求めているだけかもしれない。いまだ我執からは逃れられないか。まあ、それもイイ」
ジンライネルの狂笑がこだました。