11 確認って大事
朝、起きる。
昨日の夜は、ブックマークが3件になった記念すべき夜であった。
私は布団から抜け出し、一晩明けてさらにブックマークが増えていないかを確認する。
すると、ブックマーク登録件数が『100件』になっていることが確認できた。
どうやらまだ寝ぼけているようだ。私は寝ぼけ眼をこすりこすり、再度確認する。
しかし、ブックマークの登録件数は100件のままであった。
意味不明である。
100件? そんな馬鹿な。
目の前の事実がありえなさすぎて、いまいち実感が湧かない。
しかし、何度確認しても確かに私の小説は、ブックマーク登録件数が100件に到達していたのであった――
――という夢を見た。
夢なんかーい、と私は布団から飛び起きる。
そして、その勢いのまま、まさか正夢ではなかろうか、とブックマークの登録件数を確認した。
しかし、現実はそう甘くない。
一晩明けたらブックマーク登録件数が100件になっていた、なんて夢物語が現実にあるはずもなく、そこには依然、昨日と変わらない『4件』の文字が記載されていた。
……?
1件、増えとるがな。
その日の私は、会社に出勤したというのに、喜びのあまり仕事が何も手に付かない状態であった。
ならば、いっそのこと会社で小説の続きを書いてやろうかとも思ったが、さすがにそれはバレた時に色んな意味で恥ずかしすぎるので自重する。
代わりに、ふと思い至ったことがあり、私はそちらに着手することにした。
というのも、キャラクターの名前を自動で生成するツールが作れないか、ということだ。
私の小説は、今でこそ登場キャラクターの数は少ないが、戦記ものにする予定なだけあって今後、数多くのキャラクターが登場する。
さすがに主要キャラクターの名前は自分で考えたいが、1話限りのキャラなどの名前は、正直考えるのが面倒だと思っていたところなのだ。
そこで思いついたのが、これである。
2~6文字くらいの間で、1文字ずつランダムな文字を出力するツールを作る。
大半は意味不明な単語が出力されるだろうが、何回か試行すればいくつかはキャラクターの名前として使用できそうな単語が出力されるのではないか、と期待している。
この程度の内容であれば30分もあれば作成できるだろう。
即断即決、私は業務中だというのに、仕事とは全く関係のないプログラミングを始めるのであった。
みんなには、ナイショだよ?
――出来た。
予想通り、30分程度の作業でツールは完成した。
さすがに短時間で作成しただけあって、単語出力用のボタンと、単語表示用のボックスしかない簡素なものだったが、自分で使う分には最低限の機能さえ備えていればいいのだ。
早速出力ボタンを押下する。
すると、表示ボックスに『あじかさ』という単語が表示された。
私はさらにボタンを押下していく。
ふに
さーまど
たばい
あてっづな
ねこまさむね
と、ボタンを押下するたびに様々な単語が表示されていく。
まだまだボタンを押下する私だったが、ある単語が表示されたところで手を止める。
その単語とは『さーーな』というものであった。
なるほど、『さ』などの文字は二文字続いても名称としては不自然ではないかもしれないが、『ー』の文字に関しては連続で出力されないように修正した方がいいだろう。
やはり検証は大事だ。私はプログラムに修正を加える。
その途中、『ー』だけでなく、『っ』や『ぁ』などの文字も連続で出力されると不自然であることに思い至り、そちらも修正を行った。
帰宅後。
早速私は業務中に作成したツール、名付けて『キャラネーム自動生成機』を活用していた。
何度も出力を行い、キャラクター名に使えそうな単語が出力されれば、別ファイルにモブキャラ用の名前として保存する、という具合だ。
短時間で作成したわりには、それなりのものになった感がある。
そこで私は、はたと思いつく。
友人に日頃のお礼として、この『キャラネーム自動生成機』をプレゼントするのはどうだろうか。
しかし、現状、友人が執筆している小説は、キャラクターの名称が日本人名だし、モブキャラもほぼ登場しないタイプの話なので、活用する機会は少ないかもしれない。
であれば『こんなん作ってみたけど、いる?』くらいの聞き方をしておけば、いらないなら、いらないと断りやすいだろう。
早速私は友人にメッセージを送る。
そして返ってきたメッセージは、これであった。
『似たようなのがネットにいくらでも転がってるで』
そんなバカな、と『キャラネーム 自動生成』といった単語で検索を行う。
すると、確かに似たような――というか全く同じ用途の――しかも私のツールより高性能なものがネット上にはいくらでも転がっていた。
『四角い車輪の再発明』という言葉が頭をよぎる。
いやいや、と現実が認められない私は『別にこのツールでも使用に問題はないし』とツールの単語出力用ボタンを押下する。
すると『っらい』という単語が出力された。
……私はそっと『キャラネーム自動生成機』を削除するのであった。