第一話 星嫌いの天文部
初心者かつ初投稿です。よろしくお願いします。
ねえねえ知ってる? イルミナ流星群の噂。
あ、私知ってるよ。イルミナ流星群を見る時には感情的になっちゃいけないんだよね?
そうそれ! なんかね、あの流星群には感情を失った神様がいるらしいんだけど。
その神様が強い感情を見つけると、羨ましがってそれを奪っちゃうの。
しかも一度奪われた人は、もう二度とその感情を感じることはないんだって。
へー、なんか……怖い話だね……。
そ、だから決してイルミナ流星群を見る時には、感情的になっちゃ駄目だよ?
……さもないと、その感情盗られちゃうかもね?
*
――――「感情」それは、人がある対象から受ける自身の心的状況を表すもの。そして、人の行動を促す大切なな原動力。
まあ、他にも色々な考え方があると思うが、僕は感情をそういうものだと思っている。
一体なぜ僕がこんなことを考えているのか。
それは最近流行のあの噂、イルミナ流星群の噂のせいだ。
昨日五年ぶりに帰ってくると報道され、それを受けた生徒達の間で再び流行始めたのこの噂。
要約すると、イルミナ流星群を見るときには感情的になるな、さもなくば感情を盗られるぞということだ。
まあ五年前にも同じような噂はあったが、所詮噂は噂だろう。
これまで被害に遭ったなんて話は聞いたこともないし、ただの作り話さ。
とにかく今僕は放課後を迎え、部室へと向かっている。
ちなみに僕の部活は天文部だ。
天文部に入るからには星が好きなのか? 残念ながら僕は星に興味があるわけではない。
入った理由は、ただの人数合わせだ。
元々部員がおらず廃部寸前だった所を顧問である倉橋先生に頼まれ、渋々入部させられたのだ。
これでも僕は何度も何度も断った。
だがしかし倉橋先生に両手を握られながら「神田くん、この部にはあなたという存在が必要なの」と言われ、なんだか優越感を感じてしまった僕は、ついつい承諾してしまったのだ。
……仕方がないじゃないか、この年の男子はこういったあなたは特別というワードには、心を動かされすい年頃なのだから。
まあ結局は僕を誘う為のただの方便で、そんなつもりは全く無かったのだろうが。
それでも入部した事には変わりないので、真面目にこうして部活に向かっているという訳だ。
……こんな風に色々と考えていると、いつの間にか天文部の部室に着いていた。
部室は学校の最上階の端に位置しており、入り口には表札しかなく大変地味だ。
なのでこの場所を知っている人自体かなり少ないだろう。
そして僕はゆっくりとドアを開け、部室へと入る。
部室には残りの部員である三人が全員揃っており、各々自由にしていた。
「おっす、お疲れ様〜」
「あら京介、今日はずいぶんと遅かったわね」
まず返事をしたのは九条 叶恵、部員の一人だ。
九条は金髪にツインテールと外見はなかなか個性が強い。
顔も美人でスタイルもモデルのようにすらっとしている。加えて胸もすらっとしているが。
よって学年でもなかなかの人気を誇る彼女だが、性格にちょっとした難がある。それはとにかく気が強いのだ。
そのせいで男子からだけじゃなく、女子からもあまり近づかれていない。だからなんというか、勿体無いやつだ。
まあそれを望んでいるのは本人だから、僕がとやかく言っても意味ないのだが。
「ああ、俺今日日直だったから。まあ色々と仕事があったわけよ」
「ふーん、そんなの適当に終らせればいいのに」
「うるさいな、一応俺はこういう所は真面目なんだよ」
「はっ、学力じゃ学年底辺レベルのあんたが真面目だなんてよく言ったものね」
「くっ……ほんとお前って口悪いよな」
「そお? 別に私は事実を言ったまでよ」
「……そ、そんなことより、恵美は俺が今日日直だって知ってただろ? 言ってくれなかったのかよ」
「……うん、知ってたけど。……言うの……忘れてた」
そう言いながら本を読むこの子は桜木 恵美、部員かつ僕のクラスメートだ。
恵美は基本的に無口でかなり大人しい。そのくせ白髪のショートと外見は派手だが。
あまり人付き合いが得意じゃないようで、教室にいる時はいつも本を読んでいる。
あまり他人を寄せつけない雰囲気を醸し出しているが、どうやら僕には少し心を許してくれているようだ。
「まあ、いいけどさ。……ん? なあ、その本新しいやつ?」
「……うん。水無月……先生の新作……割とおすすめ」
「へえ、水無月って恵美の好きな作家さんだよな。なんか気になるし、終わったら借してくれよ」
すると恵美は真顔でこっちを向き、答える。
「うん、わかった。終わったら……借してあげる」
「おう、よろしく!」
そして本を借りる約束を取り付けた所で、僕の前にコーヒーが置かれる。
「お、ありがとう須藤さん」
「どういたしまして、砂糖はいつも通りに入れておいたからね」
そしてこの子が最後の部員である天使もとい須藤 美緒子、優しくて面倒見もいい、まさに大和撫子。
見た目は黒髪にパーマのかかったロングヘアで前の二人に比べるとちょっと地味な印象だ。……まあ、その豊満なお胸様を除いてだが。
この性格の良さとスタイルで学年でも人気があり、友達もかなり多いようだ。
部室でも今日のように飲み物を入れてくれたり、時々お菓子を持ってきてくれたりする。
ちなみにクラスは九条と同じクラスだ。
「はあ〜、美緒子ちゃんの入れてくれたコーヒーはいつも美味しいよぉ」
「ふふ、そう言ってくれると私もやりがいがあるわ」
「美緒子ちゃんは優しいなあ〜、ほんとどこかの誰かさんには見習ってほしいよ」
「ん? 何か言ったかな京介くん?」
そう言うと、九条は満面の笑みで拳を握る。
「い、いや? な、何にも言ってないけど?」
「仕方ないなあ、今度は私が飲み物でも入れてあげるよぉ。何がいいかなぁ? あ、そうだぁ!ちょうど鞄の中にこんなものが……」
そして九条はおもむろに禍々しいドクロが描かれた赤い瓶を取りだす。
「おいまて九条、それってデスソース――――」
「あ、手が滑ったあああ!」
明らかにわざとらしく、その毒々しい赤い液体は僕のコーヒーに注ぎ込まれていく。
「ああああああああ! 俺の天使のコーヒーがぁ……」
「ふふふ、まさか優しい美緒子ちゃんがせっかく作ってくれたコーヒーを飲まないわけ……ないわよね?」
もう目の前にあるそれはコーヒーとは言えなかった、例えるならば……血の池だろうか。
「……か、神田くん、私のことはいいから無理して飲まなくても……」
「いいや、飲む。せっかく美緒子ちゃんが俺のために作ってくれたコーヒーを捨てるなんて絶対にできない」
俺はこの異様なほどに異臭を放つ何かを持ち上げ。
「それにここで飲まなかったら……こいつに負けた気がするからなぁ!」
そして一気に体に流し込む!
僕は辛さも痛みも感じることなく、それを飲むことに成功……しなかった。
「ブハァァァッ!」
「うっわ、まじかよ、きったねえ!」
「は、早く吹かないと! タオルタオル!」
……そして予想された大惨事の処理を終え、入れ直してくれたコーヒーを味合う。
「なあ京介、大丈夫か? なんか泣きそうな顔してるけど……」
「……誰のせいだと思ってんだ?」
すると九条珍しく申し訳なさそうな顔をした。
「……ご、ごめん。反省は……してる」
「お、九条が珍しく素直だなぁ」
素直な九条は可愛らしくて、ついつい笑顔になってしまう。
「 ……次は鼻からぶち込んでやろうか?」
「さっきの反省は何処へいったの!?」
……とまあ、なんだかんだこういうのが僕達の日常だ。
天文部だからといって、特にそれに関することは何もせず。
ただ集まって、駄弁って、だらだらして帰る。……だいたいいつもそんな感じだ。
本当ならもっと有意義な、放課後の青春の仕方があると思う。
だが個人的にはこの雰囲気は心地がよくて、元々帰宅部だった時より退屈しない。
「ま、ほんとこの部活は退屈しなくて助かるよ」
「あはは、これを部活といえるのか怪しい所だけどね……」
「確かに天文部なんて名ばかりで、何にもしてねえもんな私達」
「じゃあ今度天体観測とか行かない? 天文部っぽくてなんかいいと思うんだけど」
その言葉を聞いた途端、僕以外の三人は動きを止めた。そしてなぜか嫌そうな、気まずそうな顔をして返事を返す。
「あー、私はパス。正直星になんて興味ないし、夜動くのめんどくさいし」
「わ、私もあまり興味はないかな……あ、べ、別に一緒に行くのが嫌とかじゃないからね?」
「う~ん、中々いいアイデアだと思ったんだけど、ここまで不評とは……。なあ、恵美はどう思う?」
すると普段なら本を閉じることのない恵美が、珍しく本を閉じてこちらを向いた。
「私……星嫌いだから……やだ……」
「そ、そうか、そこまで嫌いなのも珍しいな。なんか女の子って星とかロマンチックなものはたいてい好きだと思ってたけど」
しばらくすると恵美は再び本を開き、それ以降何も話さなかった。
「ま、要するに女の子が皆ロマンチックなことに興味があると思うなってことさ。京介~、お前ただでさえモテないんだからよく覚えときな」
「おい、知ってるか? そういうのを余計な一言っていうんだ」
「さっきと同じ、私は事実を述べてるだけだから」
「ほお、外見だけは校内人気の九条さんですが、性格がクソだから普段はぼっちっていうのも事実だから述べ放題だなあ~ん」
「よし、京介表に出ろ」
「上等だ、モテない男の本気見せてやるよ」
「だー、ストップストップ~!!」
須藤さんが急いで僕たちの間に入る。その慌てた須藤さんも相変わらず可愛らしい。
「はあ~、いつものことだけど、二人は仲良く出来ないのかな?」
「「それは無理!!」」
「なんでそういうところはぴったり合うのよ!」
すると、放課後終了のチャイムが学校全体に鳴り響く。
今日もいつも通りの天文部が、いつも通りの活動を終える。
「よし、じゃあ帰りますかっと」
「そうね、さっさと帰りましょうか」
僕と九条はそそくさと帰り支度を始める。
「もう、二人ともあっさりしてるんだから、……心配して損しちゃった」
いつもの事なのに心配してくれるところも含めて、やはり須藤さんは天使だ。
……とそこで、僕はまだ本を読み続けている恵美に気づく。
「お~い、恵美もう帰る時間だぞ~」
恵美に反応はない、気づいてる様子もなくひたすら本を読み続けている。
「……恵美? お~い、恵美さ~ん? 聞こえてますか~?」
そこで恵美はようやく僕に気づく。
「……何?」
「何って聞こえてなかったのか……。もうチャイムなったぞ、帰るから早く準備しろ」
「……もう、終わり?」
「そうだ、もう終わりの時間だ」
「……そう」
恵美はちょっと寂しそうな顔をして、本を鞄の中にしまう。
よほど本が良いところだったのだろうか? まあそれでも置いていくわけにはいかない。
全員が準備を終えた僕らは玄関へと歩き出す。
窓から夕日が差し込み、僕らを赤く染める。グラウンドでは練習を終えた生徒達が整備や片付けをしている。
もうすぐ夏を迎えることから、夕方の時間もかなり長くなってきたようだ。
「あのさ、この前は話したこと覚えてるか?」
「ああ、あの倉橋先生に頼まれたあれだろ? 部を存続するためにも何かしらの活動はして欲しいって」
「そうそうあれなんだけどさ、これでも俺部長だし、ずっと何したら良いか考えてたんだけど……」
「神田君何か良い案でも思いついたの?」
「うん、最近流行ってるじゃん? あの噂のイルミナ流星群。ちょうど今年帰ってくるらしいし、さっき天体観測は断られたけど、話題的にちょうどいいから調べたりするとかだけでもどうかなって」
「…………」
誰からも返事がない、なぜか気まずい雰囲気が僕たちを包み込む。
「あ、あの~、そ、そんなに駄目――――」
「――――やらない。……私……それ参加しない……から」
そう言うと、恵美は一人で玄関へと歩き出す。
「う~ん、星が嫌いとは言ってはいたがここまでとは。……あのさ皆は」
「ごめん、私もパス。なんだかやる気でないし、流行だからやるっていうのも安直すぎるっての」
九条も恵美の後を追うように歩いて行ってしまった……。
「……はあ、こりゃ駄目ってことか。ったく星に興味も無いくせに、なんで皆天文部に入ってんだよ……まあ、俺もだけど。……なあ、一応須藤さんはどう……」
僕は須藤さんの方を向く、いつもなら僕のことを気遣って励ましてくれるだろう。
――――しかし予想をはずれて、須藤さんは励ますどころか言葉さえ発しなかった。
ただただ真顔で、眉一つ動かさずぼーっと前を見つめていた。
「あ、あれ? あの~、須藤さ~ん?」
僕が顔の前で手を振ると須藤さんは、はっとしたように我に返る。
「あ、えっと、ま、まあ、また新しい案でも考えようよ。私もなんか他のがいいかなって思うし」
すると須藤さんは軽く笑顔を見せて、いそいそと歩き出す。
やがて僕だけが廊下に取り残され、外の生徒達のがやがやした声だけが響き渡る。
よくわからない虚しさに僕はため息をつく。
「……はあ、大失敗か。これでも結構考えたんだけどなあ。……というかあそこまで否定しなくてもいいじゃんか」
僕は再び玄関へと歩き出す。
「今日のあいつら、絶対なんかおかしいよなあ……」
そういった違和感を覚えつつも、これにて今日の天文部の活動は終わった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。




