ショートショート025 絶望
外は雷雨だった。
男は、絶望の淵に立たされていた。
「嘘だろ相棒……」
それは、いきなりのことだった。
相方が一瞬苦しそうなうめき声をあげたかと思ったら、直後に意識を失ったのだ。
あまりにも突然の、にわかには信じられない、信じたくないようなできごとだった。
小刻みに震える手で、軽く相方の体をゆすってみた。しかし相方は、目を覚ましたりはしなかった。何の反応も返ってこなかった。
想像もしていなかったこの緊急事態に、男はしばし呆然としていた。だがすぐに我に返り、自身を叱咤し、奮起した。
頼れる者はここにはいない。相棒を、俺の大事な相方を救えるのは俺だけだ。俺にしかできないことだ。俺はこいつを、何としてでも救わなければならないのだ。
男は必死に手を尽くした。できる限りのことを試した。電話をかけて助けを求め、指示を受けたとおりに行動し、あらゆる知識を総動員して、相方を救おうとした。
しかし、どうすることもできなかった。
相方は、まだ意識を失ったままだ。
時間もけっこう過ぎてしまった。
もう、だめだ。
男はしばらくのあいだ、がっくりとうなだれていた。
しかしやがて顔を上げ、窓の外をキッと睨みつけ、すうっと深く息を吸い込んで、絶望の声をとどろかせる。
「雷のバカ野郎! 明日は、もう二回も延ばしてもらった締め切りなんだぞ! 原稿のデータを今すぐ返せ! 返してくれよお……」