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短編

短編  異世界転移に巻き込まれたのは? 〜転職した3K職場で頑張っていたら・・・〜

作者: 木示申

 





 なんでこうなった・・・。

 今わたしは思考停止の真っ白状態で、目の前の騒ぎを見つめている。



  ◆



 事のおこりは数時間前。

 わたしはいつも通り、教室で文庫本を読んでいた。

 ブックカバーはかけてあるが、中身は見られても取り繕う事ができるように、海外古典の新訳だ。


 人嫌いでもコミュ障でもないけれど、深く人と付き合う気のないわたしは、読書好き厭世キャラを演じている。

 その実、クラス内の権力闘争の動きや、恋愛事情などをつぶさに俯瞰しているけれど。


 いや、暇だし。

 人の趣味をとやかく言ってはいけません。

 これは、仕事でもあるのです。


 昼休みも、あと2、3分で終わるなと思ったその時。


『ピンポンパンポーン』


 と教室のスピーカーから気の抜けた声が聞こえた。


 あ!これ、マズイやつだ。


 直感でそう思ったのだけれど、その場でわたしが取れる行動なんて、本を閉じて、机の横に掛けてあるカバンを抱えるくらいしかない。


『はーい、魔改造好きで、自己意識高くて、異世界イキまくりな日本の学生さん達にお知らせしまーす』


 うっへぇ、本格的にマッズイ、でも、ここでわたしが対応するのはマズイ。

 相互干渉したら、何が起こるかなど、わたしにも分からない。

 全知全能じゃないし。


 校舎ごと吹っ飛んだ!で済めばマシだろうな。

 そんなことを思いながら、性別不明のスピーカーからの声を、現実逃避で聞こえないつもりになってみる。


『みんなが好きなように生きられる?異世界が、助けを求めていまーす。

 みんなで助けてあげてね☆

 いってらっしゃ〜い』

「はあ??」


 ここまで聞いてやっと、わたし以外の生徒たちは、置かれた状況に気がついたらしい。

 ラノベ展開?とか言ってる奴、もっと早く気がついて欲しかった!


 しかし、時は既に遅く、教室の床にはいかにもな魔法陣がはっきりくっきりと光っているし、その場にいるわたし達も・・・透け始めていた。


「な、なんだよこれっ」


 今更慌てても遅い。

 もう、道は繋げられたのだ。

 ってモノローグってる場合じゃない!

 やっぱり、わたしも巻き込まれてる?

 マズイ、マズイ、いくらなんでもマズすぎる。


 し、失職する〜〜〜〜っ!


 わたしの必死の抵抗(何もしなかったけど)虚しく、クラスメイト32人が、異世界へと転移された。



  ◆



 次に気がついたのは、真っ白い空間、とか、石畳の荘厳な神殿・・・って言うと思うだろう。

 ごめんね、意識飛んでないから。


 クラスから連れ去られてからの、色々弄ばれてまくって、スキル付与〜とか、能力書き換え〜とか、チートつけちゃおっ☆とか、全部見たよ。

 なんかザコい神だった。

 ちょっと、手ェ抜きすぎ。

 手際も悪いし。


 わたしは記憶も視界も完全確保済みです。

 あ、ちなみに、クラスメイトには悪いけど、自分だけ見つからないように背景に紛れてました。

 真っ白な空間に、紺ブレと黒髪で背景化って、すごくない?

 それくらいしかできないんだよ、制約があって。


 心の中で愚痴をぼやきながら、わたしは目の前で「異世界の勇者様方、どうか私達を助けてくださいませ!」なんて、涙目で懇願している美少女を見る。

 うはー、人形みたいに綺麗な美少女(の幻影)だ。

 幻影を纏う本体は、ちょっと言葉にしたらマズイ感じ。

 ・・・あのさ、年齢はともかく、性別が女ですらないって、異世界人(わたしたち)を舐めまくってませんか?


 でも既に、数人のクラスメイトが、状態異常になってる。

 つまり、魅了された状態。


「分かりました、麗しの姫君!」


 って・・・そもそも姫じゃないよ、こいつ。

 ステータスの称号ラインナップを見るに、どっちかーつーと、奴隷商人かな?

 異世界人(チョロい奴ら)限定の。


 きっちりと召喚相手を調べてから、準備万全で呼び出せば、攻略方なんざ百万通りも用意できるに決まってる。


 あー、面倒臭いよ。

 収集つくのかな、これ。

 こんなの管轄外なんですけど。

 わたしのお仕事じゃないんですけど。


 ・・・とりあえず、一旦抜け出して連絡してもいいかな?

 このままクラスメイト放っていってもいいんだけど、絶対減給される。

 もしかしたら失職(クビ)


 異世界にクラスメイトを放置するのは、色々とマズいかな。

 助けようと思えば、助けられるだけに。


 クラス単位で召喚とか、下手な鉄砲も数打てば当たるなのが、バレッバレで辛いよ。

 面識もないのに、確実に一人を呼ぶのって難しいから、その辺もよく調べてる。


 あ、いつの間にか女子もキラキラ装備の騎士(っぽい奴隷商人だな)によって、ハートが撃ち抜かれてる・・・。

 目って、ハート形になるんだー。


「待って!

 こんなのおかしい!」


 お!おお!!?

 まさか、全方位魅了塗れのこの場で、異議を唱える強者が?

 そんな魂魄値が高い生徒・・・クラスにいたか?


「なんで、私の所に騎士が全員、集まってこないのよ!」


 あれ?

 ・・・ンアー?

 パードゥン?


 ・・・日本人転移者の適応能力を舐めてました。

 まさかの逆ハー希望だったとは。


 やっぱり、ここにはいないのか。

 わたしの代わりに「おうちに帰して」って言ってくれる人。


「か、帰りたい」


 え?

 だれ?

 わたしの心の願いを代弁してくれた人は?


「せめてパソコンの中身だけでも、消去しに帰らせてくれー!!」


 グフっ。

 黒歴史消去希望者か。

 あー、もう!

 ほんっとうに面倒臭いってのに!


「すいません!トイレ!!」

「え?あ、はい、こっちです」

「はーい」


 よし、うまく抜け出した。


 抜け出したトイレ(なんと、ローマ式水洗だった)で、一応周りを確認してから、右手を顎に当てる。

 感覚としては、骨伝導スピーカーだ。


 本当はこれ(ポーズ)いらないんだけど、ついついね。


【もしもーし】


 思考波を飛ばすだけなのに、ついこう言ってしまうわたしは、たまにクラスメイトと話すと、年寄り臭いと言われる。

 (肉体の)実の親にまで言われる。

 間違ってないので、ちょっと焦る。


【・・はいはーい、えーと××・・・え?今どこ?】


 さすが同僚、わたしの現在地を確認してくれたんだねっ!


【たぶん、と言うかほぼ100パー異世界】

【・・・・・・・なんで?!】


【異世界の、屑で最低で仕事が雑で手抜きな神様にクラスごと召喚されたナウ、てへぺろ】

【説明雑っ!

 棒読みでテンション低っ!

 てへぺろも微妙に古っ!】


【・・で、困ってます】

【会話のキャッチボールしようよ!

 いっつも一方的に(ナブ)って終わりにしないでもらえる!?】


【で!マジで困ってます】

【・・・もういいよ・・。

 ・・・・・・・・あぁ、なるほど。

 ちょっと、待ってて、上に指示を仰いでくるから】


【へいへいほー】


 付き合いのいい同僚に感謝しながら、ふへっと息をついた。


 頭の中でくだらない上にしょーもない会話をしながら、ちゃんとトイレも行きました。

 だって、こいつトイレ行きすぎ!って思われたくないし。


 トイレで電話(思念波通話)するなって?

 どうせ見えないし、気にしな〜い。


【お待たせー】


【ありがとう。

 さすがにここから、がっつり直通パス繋いだら、バレると思ってさ】

【それはどうかなー?

 聞くと、かなりダメダメ世界みたいだよ?】


【やっぱりか、いや、予想通りすぎて辛タン】

【タン?ごめん、それ分かんない】


【えー、常に波間を漂って斜め読みしなよー。

 年寄り臭さが軽減されて、ヲタ臭に変わるから】

【それ、なんの解決にもなってなくない!?】


【で、ネタくれ】

【だから、その切り替えが辛タン!】


【おお!適応した!】

【ハッ!?】


【で、ネタくれ】

【・・・】


 付き合いが良すぎて、なぜか泣いている同僚を宥めてから、指示を受け取ったものの、やっぱり思った通りになった。

 とりあえず現状を傍観で、職務に抵触しそうな時だけ、実力行使オケだそうだ。


 つまり、上も面倒臭いからって、丸投げされた。

 最低限は庇ってくれるだろうけど、失敗したら減給は免れないだろうなー。


 そんで、話は冒頭に戻る。



  ◆



「まずは皆さんに〝限界突破の首輪〟を填めていただきます」


 姫っぽい幻覚を被っている、やばめなタプタプしたのが、黒光りする首輪を差し出している。

 ヲイ!クラスメイト!笑顔で受け取るなー。

 その後ろにずらりと並ぶ、(幻影で)選り取り見取り美女達も、満面の笑みで首輪はめろ!って訴えている。


 目がギラつきすぎ。

 幻影あってもバレると思うのに、誰も気付かないの?

 本当に気づいてないの?


 ・・・それ、呪いつきの隷従の首輪だよ。

 うはー、ヤッバイ。

 不能(イ◯ポ)の呪いって、ジョークアイテムにすらならん。


「麗しい貴女様方には、こちらの可愛らしいデザインがいいかと」


 騎士(っぽい奴隷商人?)が持っているのは、一見チョーカー?


 ・・・うわ、一定条件下(同世界人異性の接近)で欲情?

 不能の前で色欲に溺れさせて?

 クラスメイト男子(勃たない奴等)の前で公開プレイ?・・・って、えっぐい。

 とことん身も心も折って、従順な異世界人ご一行にしたいってことか。


 これ、傍観してるの辛い。

 生産系(?)は、管轄外なのに。



 とりあえずわたしは今、自分の存在感を背景レベルに薄めている。

 白い部屋よりも豪華だから、完璧。

 だから、誰にも気付かれずにスルーされてたりする。


 長いトイレって思われてるかもしれないけど、もういい。

 正直、関わりたくない。


 一応抜け道はあっても、わたし自身も受肉してるから、肉体が欲情しっぱなしは困る。

 実技は知りたいと思えない。

 なんども言うけど、作るのは管轄外。

 刈り取るのが、わたしだからな。


 って、現実逃避していたら、ら、乱パな光景になってきそうな・・・。

 (首輪を)ハメて差し上げます、って、絡まれかけてるクラスメイト達の目は、完璧にピンク色〜。


 いや、これやばいよね?

 一応管轄になるの?

 異世界混血児(ハーフ)作っちゃマズイよね?


 ・・・いや、生まれてからでいいのか?

 遺伝子を解析する能力でもあればいいけど、そんなチート能力持ってない。

 外見は似てるから、異世界混血は可能?って感じかな。


 最終的に、全員が帰れるなら問題ない・・・よな。

 よし、背景になっていても傍観は辛いから、ちょっとこの周辺を散策してこようっと。



  ◆



 無事に乱パになりかけ会場を抜け出して、神殿?城?内を幽霊気分でフラフラと歩き回る。

 浮遊霊ってこんな気分なのかなぁ?

 背景になっているせいで、通り過ぎる異世界の住人は総スルーしてくれる。


 ・・・うん、やっぱりこの世界の住人との間に、混血を生産するのは無理。

 卵生っぽい。


 布で包んだ巨大な卵を、背中にたすき掛けでくくりつけて、なぜか四つん這いで進むお姉さん。

 かと思えば、巨大な芋虫団子(顔は赤ん坊)を抱っこしている、おばさん。


 それでも、子供は可愛がるのかと、少しだけ安心していたら、女中らしい地味目な格好の人が運ぶ、巨大なカートの上にはこんがり焼かれた芋虫団子(やっぱり顔は赤ん坊)・・・。

 皿とナイフとフォーク的なものも。


 ・・・よく分からない。

 これって、どういう事?


 女は超ミニのクリーナーだか、クリノリンだかに似た、骨入りの極端な三角形スカート。

 男はおしゃれつなぎ風で、前面にスリット入りの服。

 しばらく観察しているうちに気がついた。


 これ、行為最優先の服だ。

 昆虫?的な局部接触オンリーなら、脱がずにできるってことか!

 広々とした廊下とか石柱の並んだ天井の高さに比べて、やけに部屋が小割で扉が多いと思ったら、ここって娼館的な場所?


 ・・・神殿でも城でもなかった。

 ついでに漏れ聞こえてくる声とか音で、正気(SAN値)が削られるっ。




 ん?

 んん?

 となると、そもそも、何のための異世界召喚?

 助けてとか言ってたけど、戦えとか言われてなくない?

 普通に魔王とか邪神とか、巨悪を倒させようとしてるんじゃないの?


 え、異世界娼館に、娼婦や男娼として召喚されたってこと?

 いやいや、まさかー?


 なんか嫌な予感がするから、戻ろう。

 集団で本番中でもいい。

 服務規定違反しても仕方ない。



  ◆



 背景化したままで戻ったそこは・・・。

 軽く、現実逃避したがる意識を奮い立たせて、背景化を解除した。


「お?まだ残りがおったのか」

『・・・何してくれてんだよ』


 思わず地声(神威)でた(漏れた)


 わたしもチョロいだろうと思っている奴らは、びくりと震えて、足元で蕩けた顔でヒクヒクしているクラスメイト達に、目を走らせる。

 ちなみにみんな、制服を着用したままでした。

 隷従の首輪の効果が高すぎて、はめただけで精神がぶっ壊れたらしい。


 魔力ない世界の住人に、いきなり魔力での隷従強要って、電気椅子や薬漬けと同じことだ。

 物理的に脳も精神も壊れるっての。


 ああ、もう、最悪。

 肉体なら簡単に修復が効くけど、よりによって精神を壊すとは。


 わたし一人でこれ治すの?

 精神の修復作業とか超絶嫌いなんですけど?


『何してくれてんだ?』


 神威のせいで喉が痛いのを無視して、再び問いかけると、騎士っぽい中でも、一番イケメンなのが出てきて、爽やかな笑顔をキラキラの背景付きで振りまいてきた。

 幻影の下の顔、見えてるから。

 全然キュン死しないから。


「そんな顔したらダメだよ、さあ君も」

『モゲろ』

「は?ぎ、ぎぃやぁぁぁぁぁッッッ」


 頭にきたので、抱えたままだった鞄から(支給品の)商売道具を出して、物理的に生殖器官をもいでやったら、あら不思議、ちょっとスッキリ。


 神威使わなくても腕力でできちゃうんだー、と思ってたら腕がミシミシいってる。

 骨と筋がイかれてる。

 まじオコで神威がちょろっと漏れたかー。


「き、貴様は一体?!

 なんだそれは!!」


 おお、いいねその反応、テンプレって感じがする!

 嬉しくなって、手のひらサイズの折りたたみ死神の鎌(デスサイズ)をくるくると回した。

 商品名は〝手のひら(サイズデス)サイズ〟

 まさかのダジャレでした。


『わたしは死神だ、異世界のクズども』

「な、なぁ?」


 正確には、分業で回している輪廻のうち、回収業務一課の1ヒラ死神だよ。

 ちなみに業務内容は〝現世に不法滞在する霊魂の、強制回収〟です。

 3K仕事です。


 ちなみに。

 孤独(正体を言えないから)。

 帰れない(受肉してる間、一応は人間だから)。

 きつい(上二つもあって精神的に)の3K


 仕事の内容自体は、簡単にいうと自縛とか浮遊を見つけたら捕まえて、霊と魂を剥がして、魂は回収、輪廻に回す。

 霊は霊界つーか地獄つーか、とにかく死後の世界側にぶん投げる。


 これ、通常回収業務で、現世と彼世を行き来してる途中だと、面倒臭い。

 仕方なく少数の死神が人間に生まれて、こそっと生活しながら、細々とやる業務。


 死神(同僚)内ではダントツで一番不人気。

 昨今じゃ寿命が延びて、80年は現世に拘束されるし。


 転生もので、子供のふりするの辛いってあるけど、あれ、マジだから。

 人の暦でどんだけ存在してるかさえ分からないし、子供だったことさえないのに。

 赤ん坊のふりなんてできるか!


 でも、給料が高いし、マジ苦行で神格が上がりやすくなる。

 そして仕事が必要なわたしは、現世派遣死神してるってわけ。


 もし死神とバレても、人間相手なら記憶改竄できる。

 それでもあんまり大規模な問題になると、減給される。

 評価も落ちる。

 わたしは常に気を張っているわけだ。


 最上位の統括死神(最高経営責任者?)以外は、わたしの()()を知らない。

 知られる訳にいかないので、細心の注意をしながら、人間のふりしつつ、死神業務ノルマに精を出す。


 たまにすっげぇ鋭いのいるからね。

 ・・・・ってことで、ストレス溜まってんだー。


『わたしが神だってことにも気付かんような、クズ神の世界が、どんなかと思えば、心から軽蔑すべき世界とは』


 簡単に気づくはずないけど。

 受肉しているから、神威ちょろっとでも出したら、()が壊れる。

 ・・・喉と腕が痛いよぉ。


「そ、そんなバカな、異世界の死神だと?」

『面倒なので、全員死んでください。

 減給されても、これ以上面倒なのはごめんです』


 笑顔と敬語になるわたしに、引きつった顔でガクプルする異世界住人達。

 いや、娼館者?


 そういや、前に同僚に「キレて敬語になると怖スギ」って泣かれたな。

 普段限界まで抑えてるぶん、反動が出ちゃうんだよね。


 あ、ちなみに脳内変換はともかく、本来のわたしは誰にでも敬語です。

 キャラとかじゃなく、意識しないと敬語になってしまうんだよー。


 理由はともかく、考えなしに異世界と関わるから、こういう目に会うんだよ、ってクズ神に教えてやらないと。


『死を平等に貴方方に与えて差し上げましょう』


 うーん、どうしたら、いいハッタリになるかな。

 死神って、生きてる者を殺したらダメなんだよ。

 〝死神〟って名前と矛盾してるって?

 だって、本来はただの回収業(リサイクル業者)だし。


【おーい】


【・・なに?盛り上がってきたとこなのにっ】

【そっちの世界の自称クズで最低な管理神が、神速で土下座外交に来たよー】


【・・・チッ】


 どうやら、マジで手を出される前に、頭を下げるだけの機転はきかせられる神だったらしい。

 これで開き直って逃げるとかしたら、本気になったのに。


【楽しそうだねぇ】


【全然楽しくない、これ一文にもならないんだよ?】

【・・・サビ残(サービス残業)だね】


 同僚の言葉に、同情の気配!


【クッソ、まじクソ神殴らせろ】

【イヤイヤ?

 神様、顔だけはいい感じだったよ】


【ああ、それ(白い空間で)見たから。

 悪いけど、頭悪い保護欲掻き立て年下系は嫌いなの】

【キッツイなぁ】


 そんなことを同僚と思考波で会話(?)していたら、直通パスが繋がった。 

 チロリンと意識の端で音が鳴る。

 そして、直属上司の声が頭いっぱいに広がる


【霊魂回収業務一課所属×××××××に通達。

 該当世界の管理神セルドゥウールズより謝罪及び面会希望が届いていますが、保留中です。

 現在の状況報告をしてください】


【現世に不法滞在する霊魂の、強制回収業務中の×××××××です。

 業務中に該当世界への集団転移に遭遇、現在自分以外は精神破壊を受けて廃人化、修復作業を検討中です】

【現場での過失割合を報告してください】


【さ、3:7です。

 内訳は、強制介入の見極めを失敗して被害を拡大させ、現地住人を一人損壊し(モギ)ました】

【了解しました。

 二段解放を許可します、巻き込まれた魂魄を速やかに完全復元後、帰還せよ】


【あ、ありがとうございます】

【貴方の意向と働きは知っています、今後も期待しています。

 これをきっかけに業務放棄に至らぬことを望みます】


 てっきり減給+謹慎になると思ったのに。

 あ、この上司、わたしの事情を聞いたのか。

 まあ、そうじゃなきゃ丸投げされないか。

 ヒラ死神に現場状況に合わせて、臨機応変に動け!なんて、普通なら荷が重い。


【はいっ!】


 よっしゃあ!

 限定使用だけど、神としての能力使って良いって許可が降りた!

 ちゃんと過失を認めたのが良かったのかも。

 31人の精神完治はものすごく面倒だけど、状況判断を誤って、その場にいなかったのはわたしの過失だし。

 二段解放ならイケる。


 直通パスは思考波でのやりとりなので、異世界の住人には聞こえない。

 でも、あっち側にもなんだっけ、セルウニョクペン?だっけ?から神託だか、なんかがあったらしい。


 全員で平身低頭って、ちょっと手の平を返すにもほどがあるんじゃない?

 まあ、わたしには仕事があるので、放置するけど。


 体から抜け出て、神威二段解放を行うと、懐かしの感覚に心がほっこりした。

 17年も経てばさすがに慣れるけど、やっぱり狭っ苦しいんだよね。

 受肉状態って。


 腕を伸ばしてバッキバキ言わせながら、とりあえず自分の体を端っこに寄せておく。

 生命維持も忘れない。

 後で戻ったら死体でした、は困る。


 異世界の娼館者達は、わたしの姿を見て顔色を変えている。

 なんか顔色がカラフルなんだけど。


 でも、これまだ全然本気じゃないんだよ?

 本気出す時は、世界の終わる時くらい?




 集中して、サクッとクラスメイトの首輪を粉砕して、魔力圧迫による精神崩壊を復元していく。

 ムカつく奴はムカつく奴に。

 小心者は小心者に。

 俺様は俺様で。

 一人2秒くらいで復元を進めていく。

 正直、性格変えてしまいたい奴もいるけど、それは他の神様の領分。


 治したから気絶したままでいっか。


『良いか、二度と異世界と関わるな。

 次はこの世界を破壊する』

「はひっ」


 全員がずっと床にご挨拶していてくれたので、ちょっとだけ膨らんで威圧しておいた。

 やっぱ肉がないと良い。


 やることやったので、帰って・・・。

 そういえば、教室はどうなったんだろう?

 魔法陣が焼きついてなければ良いけど。


 これを機に不可思議現象の解明とかいって、自分で異世界にいく奴が増えたら、輪廻がめちゃくちゃになる。

 質量保存の法則は、物質世界の大原則だから。


 魂が減った分、世界が歪む。

 それを埋める魂を、異世界から集める?

 無理無理。


「あ、あの死神様」

『ンア?』


 真面目に仕事のことを考えていたので、反応が変になってしまったが、大丈夫か。


「あの、本当に申し訳ありませんでした。

 お詫びの印に・・・」

『ああ』


 と、油断していた、わたしが全て悪い。


 がシャリと音がして、力が抜ける。

 わたしの腕には・・・腕輪?


 見極めようとして、微妙に弱体化していることに気がついた。

 蚊に刺されたくらいは、ダメージを受けた。


「や、やった、神を、神を得たぞっ」


 うおおおおおおおおおおっっっっ!!と大歓声が上がって、それからやっと、わたしは気がついた。

 これ、神封じか!?


 マジかよ。

 ・・・へえ、マジか。


 ミシリ、ミシリ


 不意におかしな音が周囲に響き出す。

 見れば、50人以上が集まるこの空間自体が、歪んで、大気にヒビが入っている。


 何もない空間にヒビが入るなんて、初めて見たんだろう。

 住人達は、何だ?ときょろきょろしている。


 こんなに、頭にきたのは久しぶりだ。


『わたしを、捕らえる?

 この、わたしを?』


 住人たちは色めきたっていたが、どうやらわたしが原因だと気がついたらしく、一気に硬直して冷や汗を垂れ流し出した。

 その程度の反応で、赦されると思うなよ。 


 チロリンチロリンうるせえ。


【×××××××!今すぐ神威を解除しなさい!!

 だめ、×××××××。

 ×××××××っ!

 ×××××××様お願いします、やめてくださいっ!】


 わたしをマジギレさせて、逃げれると思うな。

 住人ごときが、神を捕らえられると思うな。

 ふざけた真似して、ただで帰れると思うな。


 消えろ、何もかも破壊して消す。

 消しとばしてやる。











  ◆



 気がついた時には、真っ白い空間にいた。

 ああ、やっちまった。


 世界を一個壊したかも。

 信奉されなくて虚しいから、破壊神やめたのにっ!!


 でも破壊神として生まれたわたしは、結局破壊してしまう。

 全てを塵に。

 (わたしにとって)あるべき姿に。


 せっかく異世界まで出向いて、お願いしてまでヒラ死神の仕事を得たのに。


『×××××××?』


 振り返ると、創造神(相方)がいた。

 ってことはやっぱり、さっきの世界をぶっ壊してしまったわけか。


 で、ブチギレたまま、相方を求めてしまったと。


『ただいま』

『おかえり』


 そんな悲しそうな顔しないでほしい、頭では分かってる。

 どうしても、カッとなって力を使ってしまう癖が治らない。


『ごめんな、また失敗した』

『失敗じゃない。

 貴方のすべきことをしただけ』


 悲しそうな顔で、そんなこと言われると、なんと嘆いていいか分からなくなる。


『ここはどこだ?』

『最果ての彼方』


 見回して見た感覚では、積層した重複世界の果ての果て。

 ここには時間という概念がないようで、物質もほとんどない、虚無か。

 確かに、周りに影響を及ぼさないって意味では、完璧な隠れ場所だ。


 さすがの相方(創造神)も、虚無に世界は創れない。


 さてと、ちゃんとあの世界の統括死神に謝りに行かないと。

 善意で仕事を与えてくれたのに、巻き込まれたとはいえ、一つの世界を塵にしてしまった。


 クラスメイトは無事に元の世界の教室に戻ってるし、わたしの肉体も、教室内に転がっているようだ。

 ・・・これにて一件落着。

 って、中身戻ってないとまずいか。


 だから異世界転移とか、嫌いだよ。

 巻き込まれる方の身にもなってほしい。


『どうするの?』

『ああ、とりあえず、謝って死神はやめるしかないな』


 本当は辞めたくないけど。

 相方と虚無に引きこもっていてもいいけど、基本的にわたしは動かずにいるのが苦手だ


『また、どっか別の世界で仕事見つけないとなー』

『一緒に創造と破壊を繰り返すのは、ダメ?』


 異世界の数はどんどん増えている。

 それこそ、無量大数の規模に。


 それが悪いとは思わないが、創った以上、ちゃんと壊しておけと思ってしまうのだ。

 世界が増えすぎた弊害で、異世界転移だの転送だの、転生だのと、ややこしいことが多発する。


 しかし、ほとんどの世界の創造神達は、破壊神とペアでなく、創った世界を放置するか、管理神に丸投げする。

 転移やら転生やらが起きて、世界に穴が開いても、管理神にはその穴が埋められない。


 数万〜数億年スパンで崩壊する未来しかない世界を、延々と管理し続ける管理神は、だんだん狂って邪神化するって訳だ。

 哀れすぎる。


 わたしたちは双子神であり、側にいるだけで互いに力を増幅しあうせいか、大抵の神よりも神格が高い。

 だから下手に動くと担ぎ上げられる。


 神々の頂上とかいう、訳のわからない肩書きとかいらないのに。

 ピンポンダッシュ的に、好き勝手に世界を壊して彷徨っていた頃が懐かしい。


『ま、いいや、すぐに戻るから』


 はい、と微笑まれて心がきゅうっとした。

 たまには、家にも帰らないとだめだよな。


 神様だって一人は辛い。

 でも、今だけは・・・まーいっかぁ。

 もう少し休んだら、謝りに行くか。




 おしまい?



 

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